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援デリ時代のぶっ飛んだ先輩の話

彼女と初めて出会ったのは、援デリ勤務中の車の中。

背が小さく、ガリガリにやせ細っているのに、真夜中にコンビニでハンバーグ弁当を買いガツガツ食べている姿を見て

「こんな時間にハンバーグ弁当を食べて、よく太らないなあ」と思ったのが第一印象だった。

普段は違う号車で働いていたので、たまに集合場所ですれ違い会釈する程度の関係だったが、なかなかぶっ飛んだ方だったので、よく女の子やドライバーの中で話題にされる人間の中の一人だった彼女。

とにかくホス狂いで、私が知り合った時点で二代目の担当に相当入れ込んでいた。もちろん、当たり前かのよう闇金から回されてきた人だ。17歳で知り合い、私が25歳になるその時まで二代目担当から三代目担当に変わっていたもののどちらもかなりの金をつぎ込んでいたので、相当な額を使ったと思われる。たまに会うと「見て見て~彼氏にもらったの~」といい指輪を見せてくれたり、担当と一緒に取ったプリクラを見せてくれたりした。「いや、彼氏じゃなくて、ホストな」と言いたかったけれど、あんまりにも嬉しそうに話すので、私はそうは言えなかった。

でも周りが止めても、「だって、結婚するって約束したんだもん」と言って一切聞く耳を持たない人だとドライバーが言っていた。しかも、相当な額を使っても枕もナシ。「君のこと、大事にしたいから」といったそのホストの言葉を馬鹿正直にずっと信じていたのだ。いまでもそのメンタルは尊敬してるし、そんなとんだ嘘をついて大金使わせていたホストもすごいな、と思う。

お客の言葉もすぐ信じてしまうので、やり逃げされてお金をもらわず帰ってくることも多々あった。逃げられても店落ちは自分で負担しなきゃいけないので、結局は自分がマイナスになるというのに。「最初にお金をもらって、どんなことがあろうと返してはいけない」という援デリ嬢の掟も守れないというのに、1番長いお局だった。

「ありゃ、人を疑うこと知らないんだろうね。ある意味幸せなんじゃない」と周りの子やドライバーたちは呆れて笑っていた。

初代担当の頃にも、結婚しようといわれそれを信じて貢ぎまくっていたらしい。その時にお金欲しさにNSをし、客の子を孕み、おろせるギリギリの日数まで腹ボテのまま働き、自然分娩で中絶したというのだから、私も人のことは言えないがそれを聞いて目眩がした。

そんな先輩と、19歳の時に一緒の号車になり、気づいたら仲良くなった。凄く可愛がってくれて、たまの休みに飲みに行ったり遊びに行ったりした。

その頃も先輩は懲りもせず、相変わらず担当を彼氏と呼び、お金をつぎ込んでいた。

能面みたいなお顔をしていてお世辞にも可愛いと言えるルックスではなかったから、そんなに稼いでいるわけでもないのに。

ご飯に誘っても「今月は彼氏に使うお金がギリギリだから」といって誘いを断るくらいなのに。

延々と闇金の借金を返し続けているのに。

彼女はいつも幸せそうだった。

仕事終わりにこれ以上ない乙女なぶりっ子をして担当に電話をするのが彼女の日課だった。「もしもーし、今仕事終わったよぉ」なんて猫なで声で電話する先輩を横目によくもまあ、そんなに自分が与え続けるだけで気持ちが続くものだといつも感心したものだ。

「もういい加減、止めたらいいんじゃないんですか。わからないんですか?気づかないんですか?」と飲みの席で聞いたこともあるが

「でも信じてるし、結婚しようって約束したから」と言ってやっぱり聞かなかった。

これがどんなにすごいことか。疑おうとしない気持ちを持てるなんてみんなが言うようによっぽど馬鹿なんだと思っていたが、彼女は本当に相手を疑っていないのである。

普通のホス狂いなら「うあぁあああああ!」ってなり様なことも、彼が行ったならそれが正解だと疑わないのだ、彼女は。

仕事の時も、辞める最後の最後まで、お客さんの口車に乗せられ相変わらずヤリ逃げされてマイナスを負っていたし、なにより巻くことが出来ない人だった。夜中にお客さんについたら朝方まで帰ってこないことも何度もあった。その度ドライバーからキレられているのに、いつも彼女はごめんなさいとも言わず平気な顔をしていた。みんなラストについた客で巻けなかったら申し訳なさそうな顔をするというのに、彼女はそんな時でも平常運転なのである。

闇金の借金も、みんな元金だけ返して、もしくは返さずに飛んでしまうのに、彼女だけは唯一元金も利息も完済した人となった。

「聞いて~やっと返し終わったの!」と私に誇らしげに言ってきたとき、彼女はもうすでに30代後半に差し掛かっていた。

その後、私たちの働いている号車で問題が起き、揉めに揉めた。私は残ったが、彼女はやめていった。この後彼女はどう生きていくんだろうか。と心配したし、その心配は案の定になり、普通の店では茶ばかり引いて「生活がきつい」といつも電話で言っていた。

そして援デリが潰れ、私がその地を離れるときに彼女に会うと「彼氏」と呼んでいた担当と関係が切れていた。「地元に帰って普通の仕事する」とあっさりその担当はお店を辞めていったらしい。稼げない彼女に見切りもつけたのだろう、そしてたんまり貢いでもらって自分は地元に帰って普通の暮らしをして幸せに暮らすのだろう。そんなの、誰が聞いたってわかることなのに、でも彼女は「結婚するって言ったのに!」なんて言わなかった。

「まあ、しょうがないよね。だから最近相席居酒屋で出会い探してるんだー」とこちらもあっさりしていた。乙女なのかさばさばしているのかよくわからない性格だなと改めて思ったが「まあ、楽しそうだからそれでいいんじゃないですか」と私は言った。「憂さ晴らしに、一緒にホストいこ!」と言われその日はホストとサパーをはしごして楽しく酔っ払い、お互いベロベロなまま朝9時まで飲み散らかし、バイバイをした。

その数か月後「もう食ってけないから、実家に帰って普通の仕事するわ」といい彼女はまたもあっさり風俗を辞め、バイトを始めていた。

その数か月後「彼氏ができた!相席居酒屋で知り合った人だよ!」とLINEがきて、その数か月後に今度は「妊娠したから結婚します!」とラインが来てわたしは度肝を抜かれた。

知らせを受け、あらやだ!めでたい!お祝いしなくちゃ!と去年の年末に、当時の号車の子と集まりお祝いをした。1年ぶりに会った彼女はあんなに大好きだった煙草も、お酒もすっぱりやめていた。そしてとても優しいお母さんの顔をしていた。

「絶対結婚しないと思った人がするなんて。でも本当に良かったです。おめでとうございます。」と私がいうと「でしょーびっくりだよね」と笑った。

私は心からおめでとうと思ったし、彼女には幸せになってもらいたいな、とこれもまた心から思っている。

だがやっぱりこの人は裏切らない。

聞けば相手には借金があるというではないか。相手に余裕がないから籍は入れるけどまだ一緒に住めないという。実家で育てて、お金が貯まったら一緒に住むんだー。とまた無邪気に笑う。

「大丈夫なんですか、それ、結婚しても」

と私が突っ込むと

「まあでも、産まれてきちゃうし、やるしかないっしょ」と逞しく答えた。ああやっぱりさすがだな、と思った。

貧乏くじ引く、運命なのだ。この人は。いや、それを貧乏とも思わない人なんだけど。

ねえ、先輩。

なぜか家にカーテンがなくて、直射日光がバリバリ当たる眩しい中、平気で爆睡していましたね。iphone持ってるのに使い方がわからないからと電話がかかってくる以外使ってなかったですね、そんなの携帯ショップで聞けばいいのに、かたくなに聞きに行こうとはしませんでしたね。

何か食べに行って、目新しいものに飛びついて食べるのに私が「それどんな味がするんですか?」って聞いても「え?わかんない」としか言ってくれませんでしたね。

みんなから馬鹿だのあほだのって言われても1mmも気にしてませんでしたね。お客さんに「ブス!」と言われても「私は優香に似てるんだもん!」といってこれもまた聞かなかった。あなたのそのブレなさ、私は大好きです。

どうか産まれてくる赤ちゃんと、あなたが健康で、幸せに過ごせますように。


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