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私が公衆衛生学を学ぶ理由

こんにちは。
今回は、私が内科医として働いていながらどうして公衆衛生学を専攻するに至ったかをお話ししてみたいと思います。
公衆衛生学は新型コロナのおかげで、以前よりも認知度が上がったと思いますが、それでもやはり世間一般での公衆衛生学の位置付けは低いように感じます。
医師の中でも公衆衛生学を学ぶ人は日本では少数派で、博士号といえば基礎研究の分野という考え方を持っている人がほとんどです。


目次

  1. 公衆衛生学とは

  2. 日本の問題点

  3. 医療費の高騰、その先は?

  4. 今後できる対策は?

公衆衛生学とは

公衆衛生学とはそもそもどんな学問で、公衆衛生学を専攻する人はどんな人達なのでしょうか。
公衆衛生学は患者一人一人ではなく、集団全体の事を考えて、みんなの健康レベルを上げようとする学問です。
そのために、環境医学、医療倫理、医療政策、途上国への支援、疫学研究、生物統計学、慢性疾患予防などの幅広い領域を内包しており、色々な手段で人々の健康を維持、増進していこうとしています。
上記の領域の中で私は特に慢性疾患予防についてメインで勉強をしています。
その理由は現在日本が直面している問題、そして今後世界中で問題になってくる問題の解決に貢献したいと考えているからです。

日本の問題点

日本が直面している問題として、少子高齢化問題は全ての人がすでに認識していることと思います。
少子高齢化自体は先進国で直面している国がいくつもありますが、日本は特に急速に進行し、総務省統計局の報告によると2018年の時点で高齢化率は28.1%です。
そして、高齢化の進行で起こる事が医療費の高騰です。
高齢者の方が病気を発症しやすいという事があるので、高齢者が増えると必然的に医療費は増加していきます。
人口の高齢化だけでも医療費の増加が起こるのですが、それ以外にも最近は医療の高度化や、核家族化が進行した事で介護により費用がかかるようになってしましました。
医療の高度化というのは、医療技術の発展によってもたらされた新しい医療機器の導入などの事を指します。
例として、内視鏡手術などがわかりやすいかもしれません。
これまで開腹手術を行なっていたものを、腹腔鏡手術で行う病院が増えていますが、腹腔鏡手術には専用の機器が必要で、使い捨ての機器も多くあることから、必要な費用が自然と増えてしまいます。
医療機器だけでなく、薬剤も高額な新薬が登場する度に医療費は跳ね上がります。
2014年に薬価収載された免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」というのを聞いたことがある方もいると思います。
このオプジーボはノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑さんが開発に関わった薬剤として有名なので、ご存じの方は多いかと思います。
発売当時は1本約73万円と以上に高額だった事でも有名となりました。
現在は薬価の改定で1本17万円程度にまで値段は下がりましたが、それでも他の薬剤よりもかなり高額である事は間違いありません。
抗がん剤としてよく使用されているシスプラチンという薬剤を例に挙げると、癌の種類により投与方法は多少変わりますが、月平均3.8万円程度(1)とされているので、オプジーボがいかに高価な薬剤かがわかると思います。
そして、核家族化が医療費の増加に与える影響として、介護問題があります。
昭和の時代までは3世代で一つの家に住み、高齢世代の介護を家族、特に専業主婦となっていた女性が担うことが多かったのですが、現在は核家族化が進み、さらに女性の社会進出も相まって介護を行う人手が足りなくなっています。
そのため、高齢者が介護が必要になった時に老人ホームや介護施設に入所する人が増えています。
少子高齢化で今後も経済的に厳しくなっていく日本では、この介護施設利用の流れは加速していくのではないかと思います。
団塊の世代が全て75歳以上になると、医療費の高騰はさらに加速する可能性が高いです。
菅政権時代に、後期高齢者世代も現役世代並みの収入がある人には3割負担をしてもらうように制度が変わりましたが、それでも高齢者が高度化した医療技術を利用し、多くの人が要介護となった時には医療費は上がらざるを得ません。

医療費の高騰、その先は?

ここまではよく聞く話ではありますが、私はこの先を心配しています。
このまま医療費の高騰が続くと、それを賄うために政府は税率を上げたり、赤字国債の発行を行なっていくでしょう。
そして経済状況が悪い状態でそれが続くと、今後生まれてくる将来世代に経済的な負担が大きくのしかかってきます。

経済的な困窮、国全体の経済状況の悪化から、将来に期待が持てず自殺してしまう人も多くいるのはよくテレビなどで報道されている通りだと思います。
警察庁発表の資料(1)にも、自殺の原因で経済的な理由は健康問題の次に多くなっています。
高齢者の治療を行い、数ヶ月〜数年寿命を延ばすことで、将来世代の若者の数十年の寿命を犠牲にしている可能性があり、医者が命を削りながら働けば働く程、この問題を悪化させていると考えると、この問題がかなり深刻な状況にあるというのがわかると思います。

今後できる対策は?

それでは高齢者の数を減らせるかというと、日本では安楽死の議論をするのもご法度となっている状況なので、これはかなり難しいでしょう。
それならば、今後打てる手立てとしては、高齢者をなるべく健康に保ち、介護が不要な状態に保つというのが一番の方策だと私は考えています。

もし介護施設に入所する事になったとしても、認知症がなく、自力で移動でき、身の回りの事をある程度自分でできる状態で保てていれば、介護の労力はかなり少なくでき、人でもそれほど必要なくなります。
内閣府が発表した「平成30年度版高齢社会白書」(1)によると、高齢者の介護が必要になる理由は、認知症が18.7%、脳卒中が15.1%、衰弱が13.8%、骨折・転倒が12.5%となっています。
認知症ははっきりとした予防手段があまりわかっていないので難しいですが、その他の原因は公衆衛生学的に介入を行えば、割合を減らせる可能性があります。
要介護の高齢者が減る事だけでも今後の医療費の増加抑制効果はかなり大きいのではないでしょうか。
現実はそこまで単純ではなく、予想通りには行かないものだというのはよくわかってはいるのですが、私の分野で考えられる対策というのはそのくらいでしたので、私はこのままこの分野で日本の将来のために頑張ってみようと思っています。
もし同じような考えを持ち、公衆衛生学というものに少しでも興味を持った方がいれば、公衆衛生学修士を選択肢の一つに入れてみてください。

最近では日本の大学でも、公衆衛生学の講座を開いている所が増えてきているので、わざわざ海外に行く必要もありません。
将来の日本のために、一緒に頑張っていきましょう。
参考文献
(1): AnswersNews: https://answers.ten-navi.com/pharmanews/7114/
(2): 自作の原因・動機別自殺者数の年次推移:https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H24/H24_jisatunojoukyou_04.pdf
(3): 平成30年度版高齢社会白書:https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/zenbun/s1_2_2.html#:~:text=%E8%A6%81%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E8%80%85%E7%AD%89%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6,%EF%BC%85%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82

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