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「怪物」を見た

是枝裕和監督×坂元裕二脚本は絶対に間違いないなと思っててずっと見たかったのでついに見てきた。
SNSでも結構話題になってたし結構センシティブな内容なので、見る前からドキドキしてたし見てる時に少し具合悪くなったりもした。


湊の母の視点、保利先生の視点、子どもたちの視点から見る世界はそれぞれ全然違った。
同じ世界で同じ時間を過ごしているのに、それぞれにとっての悪者(いわゆる怪物)が違う人になる。

母親視点から見ると腐った教師たちしかいなくて本当にイライラしたし、保利先生視点から見ると保利先生は真摯に向き合おうとしてるのに周りの圧力や暗黙の了解のようなものによって捻じ曲げられてしまってあんなにクソみたいだと思ってた保利先生のことが可哀想に思えたし、子どもたちの視点に立つと幼いながらも自分の抑えきれない感情や生まれた頃から植え付けられた常識に押しつぶされたどうしようもない辛さや苦しみが伝わってきてすごくしんどかった。


湊と依里のシーンは全部言い様のない切なさと尊さがあってこの二人が誰の目も気にせずずっと笑い合える空間はできないんだろうか、とか考えてた。

湊と依里で音楽準備室的な所に備品を戻しに行ったシーンで湊が「みんなの前では話しかけないで」と言い放つシーンは辛かったけど湊もああするしか自分を守る方法がなかったんだよね。いじめっ子も極悪というわけではないし女子達は依里の味方をしていてそこまで卑劣じゃないのはまだよかったのかも。いじめっ子にトイレに閉じ込められた後姿が見えないはずなのに湊がトイレに来た事を感じ取った依里はすごかったね…………。廃電車の中でしてたゲームの途中、湊が依里に「僕は星川依里くんですか?」って聞いて依里が何かを諦めているように笑ったシーン死ぬほど切なくて良かった。二人が永遠に幸せに暮らせる世界線、マジで無いのか❔

依里が転校するという話を湊にした時の湊と依里の会話も演技も凄かった。わざと酷いことを言って突き放したりごめんと謝ったりいなくなって欲しくないと弱々しくすがりついたり、湊の感情が揺さぶられてるのが目に見えて分かった。対照的に依里はずっと優しかった。

受け止めきれない自分自身の体の反応や依里に対する友情とは違う好き、自分は普通の人間にはなれない、母親に言われていた普通の家庭を持って普通の幸せを得ることができないことへの恐怖や絶望が湊の心を支配してたのかもしれない。小学生の子が抱えるにはかなり重たすぎると思う。


ラストシーン、明るくて眩しい緑の中を駆け抜ける湊と依里が死ぬほど綺麗で儚くて、でもその儚さが辛かった。現実で二人が幸せになる術はない。あのラストの方が二人にとってはまだ幸せだったのかもしれないが、結局現実は何も変わってないわけで、誰も救われないなと思った。あの小さい子達さえ救ってあげられない世の中が現実なのがしんどい。

私の視野が狭かっただけかもしれないが、LGBTQがテーマとなった漫画やアニメ、ドラマ、小説などが世の中に浸透し始めたのはわりと最近だと思っていて、自分が小学生の頃は人間が恋する対象は異性だと当たり前に思っていた。親からそう教えられたのか、それともそういう世の中だったのかは分からないけど、男子が男子に「お前〇〇(男子)のこと好きなのかよ!ホモ?(笑)」なんて言って茶化してるのを見たこともあった。でもそれはおかしいことだ。勝手な当たり前を押し付けられて自分の好きを隠しながら生きるのは凄く辛いしそんな思いをしながら今生きてる人もいて、その人達に自分ができる事って一体なんだろうな…と考えたり。これから生まれてくる子達がそんな息苦しさを感じない世の中にするにはどうしたらいいんだろう。


結局この映画は怪物さがしをしたかったわけではないと私は思う。誰にでも加害性がある。私も怪物なのかもしれない。



最後に役者と脚本について少し。

安藤サクラ、瑛太、田中裕子による前半の何も進まない会話劇が坂元裕二節があって面白かった。いや、普通に状況としては全然面白くないシリアス展開なんですが、カルテット1話の唐揚げにレモンをかけるかかけないかの口論やいつ恋5話の地獄の芋煮会を思い出すような面白さがありました。
後半に「誰かにしか手に入らないものは幸せじゃない、誰にでも手に入るものが幸せなんだ」という台詞があって、これも坂元裕二っぽくて非常に心にきた。おセンチメンタル女なので少し泣いた。じゃあ誰にでも手に入る幸せってなんだろね、どうやって生きたらいいのかね、という話になってきます。そんなものは分かってたら人間苦労せんよな。深い。

黒川想矢くんと柊木陽太くん、さすが是枝作品に抜擢されただけはある演技力と表情の移り変わりが凄くて、それでいてお二人とも顔面が恐ろしく綺麗。映像映えするなぁと思いましたよ。声変わりして声が低く周りの同級生より少し大人っぽい雰囲気のある黒川くんとまだ声が高くて子どもっぽいあどけなさがある柊木くんというコンビだからこそ作品に味が出たのかもしれないな。この二人の今後に期待したいです。撮影当時は今より若くて(今も十分若いけど)喧嘩もしてたというエピソードが可愛くて悶えた。




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