見出し画像

知っておきたい高齢者の薬の使い方~⑥COPD

COPDとは

COPDとは慢性閉塞性肺疾患のことです。以前は、肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれていましたが、現在は総称してCOPDと呼ぶようになりました。二つの病名が一緒になったのですから、肺気腫傾向が強い人、気管支炎傾向が強い人など症状は幅広いのですが、一般的には、初期は咳や痰がみられる程度ですが、次第に階段を上るなどのちょっとした動作でも息切れを起こすようになります。さらに進行すると、安静時にも息切れを起こすようになり、食事もとれない状態になってしまいます。
COPDの主な原因は喫煙で、たばこ病とも言われています。喫煙によって、空気を取り込む役割を担う「肺胞(はいほう)」が破壊され、気道に炎症が起こることで、呼吸機能に様々な悪影響を及ぼします。

COPDの治療

COPD患者さんの破壊された肺胞は元には戻りません。病気の進行を遅らせることや、症状を緩和させることを目的に治療を行います。
治療では禁煙が第一です。その上で、吸入薬などの薬物治療や呼吸リハビリテーションが行われます。状態が悪化すると、呼吸から十分な酸素の取り込みができなくなるため、酸素ボンベを使って酸素を吸入する在宅酸素療法を行う場合もあります。

パルスオキシメーターの活用

COPDは長期的に付き合っていく必要のある病気で、患者さんの自己管理が大切です。血圧や体温を自宅で測定するように、COPDの患者さんはパルスオキシメーターを用いて、血液中の酸素飽和度の数値を把握しておく必要があります。
介護しているご家族やヘルパーさんは、「酸素飽和度の数値」と「呼吸の様子」の両方に目を配ることが求められます。数値に問題がなくても、いつもより呼吸が苦しそうな場合には、医師に連絡しましょう

COPD治療薬のポイント

COPDの治療におけるポイントは、吸入薬の使い方、体調の変化、副作用の確認の3点です。

◎吸入薬を正しく使う
吸入薬は、息切れや発作の症状をやわらげる効果があります。ドライパウダータイプとエアゾールタイプの2つがあり、吸入方法や細かい使用方法が異なります。吸入薬が処方されたら、高齢者本人と一緒に正しい使い方の確認をしておくことが重要です。
吸入薬を使う際の確認事項には以下のようなものがあります。
●はじめて使用する前に空打ちの必要があるか
● 使用回数が残っているか(吸入薬には使用できる回数が設定されている)
● 使用前に振る必要があるか
● 吸うスピード
● 吸った後の息止めができているか
● 吸入後のうがいをしているか

また発作用の吸入薬は、すぐに使える場所にあることが大切です。ベッドで休むときには、ベッドのそばにおいておくようにしましょう。
吸入後に声がかすれる様子に気づいたら、正しくうがいができているかどうかを確認した上で、医師や薬剤師に伝えてください。

◎水分摂取量や尿量を把握し、水分補給をおこなう

COPD患者さんは、痰の粘り気は高いですが吐き出す力が弱くなるため、痰を出しにくくなります。そして水分が不足している場合は、痰が粘調性をおび痰が、出しにくくなります。
痰を出すのに苦労している様子が見られたら、食事による水分を含めて、しっかり水分補給してもらいましょう。尿量の減少は脱水のサインであるため、トイレの回数やおむつの状態から尿量が減っていないかどうかを確認します。
水分を補給しても痰が出にくい場合は、痰を出しやすくしたり痰の量を減らしたりするための去痰薬を使用することもあります。痰の出しにくい様子が続くようであれば、医師に相談し去痰薬の使用を検討してもらいましょう。

◎便秘や下痢、尿閉に注意

COPDの治療に使われる抗コリン薬には、腸管運動を抑制したり膀胱の収縮を抑制したりする副作用があります。そのため、COPDの治療中には、便秘や下痢といった腸管トラブルや、尿閉(尿がまったくでない状態)などの泌尿器トラブルに注意が必要です。便秘や腹部膨満感がある場合は、横隔膜が上がり、呼吸がしにくくなります。このように便秘や下痢は呼吸のしづらさにもつながるため、整腸剤の使用が検討されます。
また、抗コリン薬の副作用として汗が出にくくなるという副作用もあります。熱中症警戒アラートが出されているようなときには、手のひらを水に漬けたり、大きな血管が体表を通っている首、鼠径部、わきの下などを冷やすよう、深部体温をあげないようにする熱中症対策も忘れないで行うことが大切です。
COPDは呼吸器の病気のため呼吸に関する症状に目がいきがちですが、それ以外でも気になる変化があれば医療者への報告が重要です。

*****

<監修>
堀美智子
薬剤師。医薬情報研究所(株)エス・アイ・シー取締役/医薬情報部門責任者。一般社団法人日本薬業研修センター医薬研究所所長。名城大学薬学部卒・同薬学専攻科修了。著書、メディア出演多数。
株式会社エス・アイ・シー https://www.sic-info.co.jp/