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暮らしの薬学【衣類用洗剤・洗浄編】~④合成洗剤の環境問題

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ミズホ「洗濯のたびにたくさんの水とたくさんの洗剤を使っているのよね~。我が家も多い時は1日3回とか洗濯するから、この大量の汚れた水は排水されてからどこへ行ってるのか気になるなぁ~」
ナナコ「そうですね。生活排水が環境にどう影響を与えているか思いをはせて消費行動を取ることはとても大切ですね」

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洗濯したあとの排水はどこへ行く?

家庭から出る排水は、下水道を通って下水処理場に集められます。そこで微生物が分解処理してから川へそして海へ流しています。川や海の環境への影響について現在のプラスチックごみと同様、界面活性剤についてもこれまでいろいろと問題視されていました。そこで、1999(平成11)年7月13日に公布された「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化学物質把握管理促進法:化管法)により「指定化学物質」が決められ、「PRTR制度(有害化学物質排出・移動量届出制度)」でこの物質がどこからどのようにどれくらい排出されたか管理されるようになりました。家庭用・衣類用洗剤の合成界面活性剤には石けんと合成洗剤がありますが(暮らしの薬学【家庭用洗剤・洗浄編】~③洗剤の成分、分類参照)、合成洗剤にはこの「指定化学物質」に該当するものが多く、石けんに該当するものはありません。よって、一般的に、石けんのほうが合成洗剤よりも微生物により分解されやすいため環境により優しい洗剤と考えられています。ただ、石けんは、合成界面活性剤に比べ同じ汚れを落とすのにより多くの量が必要となり、微生物が分解する負荷が大きくなります。洗剤を作っているメーカーは、このようなそれぞれの欠点を改良し、洗浄性能だけでなく安全性が高く、より少ない量で使える洗剤の開発を続けています。いずれにせよ、洗剤は適量を守って使用し、無駄に消費しないようにすることが大切ですね。

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Q. “無リン洗剤”とは?

衣類用洗剤には、洗浄助剤(暮らしの薬学【衣類洗剤・洗浄編】~①衣類がきれいになるメカニズム参照)としてリン酸塩(トリポリリン酸ナトリウムなど)があります。リン酸塩はこれ1つで、金属封鎖剤、再汚染防止剤としてはたらく助剤として優秀な成分ですが、湖沼・河川にいる植物プランクトンの栄養源となる“富栄養化”という現象を起こします。1977年ごろ、滋賀県の琵琶湖で植物プランクトンが増殖して赤潮が大発生し、魚介類が死んでしまう深刻な問題が起きました。そして1979年「琵琶湖条例」がつくられ滋賀県内でリン酸塩が配合されている合成洗剤(有リン合成洗剤)の販売・使用が禁止されたのです。その後、リン酸塩を含まない合成洗剤が開発され、その洗剤を「無リン洗剤」と呼んでいたのです。今では、ほとんどの衣類洗剤が「無リン洗剤」なので、この言葉も聞かれなくなりました。

もっと勉強したい人に~参考リンク・参考図書


化学物質排出把握管理促進法(経済産業省)
洗たく用洗剤の環境対応のあゆみ(日本石鹸洗剤工業会)

<参考図書>
地球にやさしい石けん・洗剤ものしり事典―爽快!快適!科学する洗剤選びと洗い方
よくわかる最新洗浄・洗剤の基本と仕組み―水系・非水系洗浄、機械的洗剤の基礎知識
これでわかる!石鹸と合成洗剤50のQ&A

<書いた人・監修>
藤田知子
京都薬科⼤学卒業後、メーカー勤務を経て、ドラッグストアでOTC医薬品販売から処⽅箋調剤など薬剤師業務 に従事。“薬剤師は町の科学者”をテーマに薬系新聞に寄稿、「ドラッグストアQ&A」(薬事⽇報社)を編集。