令和6年予備再現答案_商法

第1 設問1
1.小問(1)
(1)会社法(以下法令名省略)461条1項3号「に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等・・・の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない」ところ、甲社は、分配可能額が800万円であるのに、本件株式を総額1000万円で取得しているため、本件株式の買い取りは461条1項柱書に違反する。そうすると、甲社は財源規制に違反して自己株式を取得したことになるため、以下有効性につき検討する。
(2)「効力を生ずる日」という文言及び無効であるとすれば、会社が取得した株式を処分した場合、株主が同時履行の抗弁権(民法533条)を主張することで、会社が不当利得返還請求(民法703条、704条)できなくなることを理由に、有効であるとする立場がある。しかし、法の文言は決定的な根拠にならない。また、462条を同時履行の抗弁権を排除する規定であると解すれば不当利得返還請求を受けることができる。そして、財源規制違反の自己株式取得を内容とする株主総会決議は、決議内容の法令違反であるから無効である(830条2項)。だとすれば、無効な決議に基づく自己株式取得も無効であると解するのが妥当である。
 よって、財源規制違反の自己株式取得は無効であると解する。
(3)したがって、本件株式の買い取りは無効である。
2.小問(2)
(1)Aの責任
ア Aは462条1項柱書に基づき責任を負うことが考えられる。。
イ 上記のとおり、「前条第一項の規定に違反して株式会社が同項各号に掲げる行為をした場合」である。また、Aは、甲社の唯一の代表取締役であること、本件株式の取得が承認された定時株主総会で、本件株式取得について説明していることからすれば、本件株式の取得に関する職務を行ったと考えられる。そのため、Aは「当該行為に関する職務を行った業務執行者」に該当する。そして、「当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭」は1000万円である。さらに、Aは、甲社の経理及び財務を担当しているにもかかわらず、計算書類作成の基礎となる会計帳簿の作成を直属の部下であるGに任せきりにして関与しなかったという過失行為があるため「注意を怠らなかったことを証明」することはできない(462条2項)。
ウ よって、Aは甲社に対して、1000万円を支払う義務を負う。また、以下のとおり、Dも支払義務を負うからDと連帯する(462条1項柱書)。
(2)Dの責任
ア Dも462条1項柱書に基づき責任を負うことが考えられる。
イ 上記のとおり、財源規制違反がある。また、Dは本件株式の売主であるから、「当該行為により金銭等の交付を受けた者」である。そして、交付を受けた金額は1000万円である。
ウ よって、Dは甲社に対して、1000万円を支払う義務を負う。また、Aと連帯するものの、定時株主総会では、分配可能額は1200万円であると説明されており、実際は800万円であったことは、後から発覚したのであるから、Dは「善意」であると思われるため、Aからの求償に応じる義務は負わない(463条1項)。
(3)Fの責任
ア 監査役は、462条に基づく責任を負わないから、Fは423条1項に基づき責任を負うことが考えられる。
イ 監査役は、会計帳簿を含めた業務及び財産の調査権限を有する(381条2項)から、会計帳簿の適正さを調査することが期待されているといえる。しかるに、Fは、計算書類と会計帳簿の内容の照合を行うのみで、会計帳簿の適正さを調査することを怠っている。そのことにより、過誤を発見できず、定時株主総会においても、疑義を述べていない。以上によれば、善管注意義務(330条、民法644条)違反が認められるから、任務懈怠がある。また、Fは監査役であるから「役員等」である。そして、Fが過誤を発見していれば、分配可能額が800万円であることが明らかになり、800万円の限度で本件株式の買い取りが行われたと思われる。だとすれば、Fの行為に「よって」、分配可能額が800万円であるにもかかわらず、1000万円で買い取ることになったから、200万円の「損害」が生じている。さらに、上記態様からすれば、帰責事由(428条1項)も認められる。
ウ よって、Fは甲社に対して200万円の損害賠償責任を負う。

第2 設問2
1.Aは、179条1項に基づき、本件売渡請求を行っている。そこで、Eとしては、179条の7第1項に基づき、本件売渡請求の差止を請求することが考えられる。
2.B、C及びDは、1株あたり10万円でAに株式を売却しているのに、Eは6万円でしか買い取ってもらえないから、Eには、上記差額分の損失が生じるため「不利益を受けるおそれがある」といえる。
3.もっとも、Aは甲社に対して通知しており(179条の2第1項)、甲社は取締役会で承認し(179条の3第1項、3項)、甲社は、Eに通知し(197条の4第1項)、甲社本店に会社法所定の書面を備え置いている(197条の5第1項)から、179条の7第1項1号及び2号の事由は認められない。
4.では、同項3号の事由は認められるか。3号事由は、売渡株主にとって、不利な株式の対価(179条の2第1項2号)が一方的に設定されることにより売渡株主が不利益を被ることを防ぐ趣旨であるから、株式の対価が適正な評価額(公正価格)を下回る場合はもちろん、特別支配株主が恣意的な価格設定をした場合もこれに該当すると解する。
 たしかに、Hが算定した甲社の株式の公正価格は、6万円から10万円の間であるから、6万円はその範囲である。しかし、B、C及びDからは10万円で買い取っている。だとすれば、Aは、公正価格は上記範囲のうち10万円であると認識してB、C及びDから買い取ったと考えられる。にもかかわらず、Eからは、その認識と異なる6万円で株式を買い取ろうとしているため、恣意的な価格設定を行っている。よって、本件売渡請求は3号事由に該当する。
5.したがって、Eの差止請求は認められる。
6.また、Eとしては、本件売渡請求に応じること自体はやむを得ないこととして受け入れるのであれば、売買価格の決定の申し立てを行うことが考えられる(179条の8第1項)。現在は令和6年9月2日であるから、取得日の18日前であるため、Eは、裁判所に対して、売買価格の決定を申し立てることができる。
                                以上


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?