努力を裏切らない──指す将順位戦8th開幕に寄せて

 今年も指す将順位戦が開幕した。毎年恒例の意気込み記事を書く時期がやってきた。本当は別の記事を先に出そうとしていたのだが、書いている連休中に体調を崩してしまい、すっかり投稿のタイミングを見失ってしまった。忙しさの中にあって心はつい不安定になってしまう。いま一度、これから始まる長い長い戦いを存分に楽しむため、noteを開き決心を綴るとしよう。

力を出せない日々

 今振り返っても去年は苦しい戦いを強いられた。最大の要因は将棋の外にあったと思う。6月後半あたりから業務量が増え、消耗した体力を補うことができなかった。なにも、私だけが忙しいわけではない。この指す将順位戦には学生・社会人問わず様々な境遇の人が集う。時間があるように見える人も、見えないところで人生の一大事を抱えているものである。忙しさそのものを言い訳にするつもりはない。
 問題は、コンディション調整の失敗がどれだけ心身に悪影響を及ぼすのかを深く考えていなかったことにある。指す順において1敗の重みというのは意外に大きい。慣れているつもりでも、見知った観戦者が集まる前で投了を告げ、「お疲れさまでした。」と言葉を贈られるのは結構きついものがある。この辺は個々人の性格にもよるが、少なくとも私は他人の視線を気にするタイプである。
 無自覚な疲労は思考力の低下を招く。すると思うような将棋が指せない。勝てば気は楽だが、それ自体が疲労回復に結びつくわけではない。ひとたび負ければ一気に気持ちが沈み、ストレスが肉体をも蝕む。去年は前半6戦を終えて3勝3敗の指し分けながら、その3敗を積み重ねるごとにズン、ズンと心が沈んでいったのを覚えている。指し分けは立派な成績なのに、既に自信を無くしてしまった。これは去年の閉幕時にも語ったことだが、7‐9回戦の3連敗は戦う前に決まってしまっていたように思うのだ。

前を、向く

 しかし天運は私を見放さなかった。最後の最後で連勝を果たし、5勝6敗で残留をつかみ取った。今一度棋力をつけなおそうと決心し、9月から着手した勉強がギリギリ間に合った。とてもとてもホッとしたのが昨日のことのようだ。
 もっと実力をつけて、今度こそは昇級したい。特別な内容ではないが、自分なりに計画を立てて、進捗を確かめながら勉強を続けていった。苦労の甲斐があってか、最高レーティングが1550点を越え初段に到達できた。とてもとても嬉しい。目標として掲げてはいたが、実際に達成できるとは思っていなかった。点数が伸びたという事実は、さらなる伸びしろが隠れているのではないかという期待すら見せてくれる。
 そして今、改めて開幕を迎えた。ただ冒頭にも述べた通り、5月に入ってから心身の調子が悪い。このままでは昨年の二の舞になってしまうぞと、焦りが心をくすぐる。放っておけば、たちまち苛立ちと悲しみに覆われてしまうのだ。去年の私は執着心を手放そうと文章をしたためたが、うまくいかなかった。じゃあ、今年はどうすればいいだろう。

充実を求めて

 私が指す将順位戦に求めるものは、充実感だ。対戦相手を調べて作戦に悩んだり、ひとたび対局となれば心を燃やして勝負に挑んだり。棋友の対局があれば観戦に駆け付け、熱戦をひたすらに眺めるのもいい。自分の将棋を振り返って文章にしたり、誰かの書いた自戦記や観戦記をじっくり読み耽ったり・・・。そういう時間がとにかく楽しい。だから「指す順はいいぞ」と私は何度も何度も口にする。
 去年の私は、そうやってのめり込むことで心身のバランスが崩れてしまうことを恐れた。体力の不安を前に、もっと効率よく楽しむ方法は無いかと模索していたのだと思う。実際には思い描いていた充実感は得られず、疲労が心身を削り、かといって指す順から距離を取ることもできなかった。そう、辛さの正体はどっちつかずな態度にあった。
 今、指す順を目標に勉強を進めるのが楽しい。本当はこういう充実感を去年手にしたかったのだろう。体力管理には課題こそあれど、無理しないようにというのは常に意識の内にある。であれば、このまま今年は頑張ってしまうのが一番楽しいように思う。1局1局丁寧に準備して、勝負を追求することに楽しさと充実感を求めてしまおう。

 私はひとりの参加者として、「指す順に対する距離感」には多様性があった方が良いと考えている。感情が爆発するくらいのめり込んでも楽しいし、淡々と対局をこなしていくことに居心地の良さを感じるのも同様に素敵なことである。今年の私が、距離感をかなり近づけているだけというのは皆さんにも理解して頂けるとありがたい。

目標は昇級

 今期こそB級1組へ昇級したい。秋冬と、指す順を見据えて頑張ってきたのだから、これまでの自分の努力に応えたい。努力に裏切られることはあっても、自分の努力を裏切ってはもったいない。はっきりと昇級を目標に打ち出して、1つでも多く白星を積み重ねていきたい。
 今年も指す将順位戦には猛者が集う。B級2組も例外ではない。6名もの新規参加者が集まった今期は波乱の展開が予想される。楽しみも苦しみも全部味わって、濃密な半年間を過ごそうではないか。自戦記も書ける範囲で書くつもりなので、ぜひ読んで頂けると嬉しい。どうぞお楽しみに。

 今年の指す順も楽しいぞ!!

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