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羅刹の紅(小説投稿)第八十八話

〇あらすじ

普通を愛する高校生「最上偉炎」は拳銃を拾ってしまう。パニックになった彼を謎の女「切風叶」に助けてもらうが、町で悪行を繰り返す組織「赤虎組」に狙われることになってしまった。それに対抗するため偉炎は親友である「北条優雷」、さらには不登校でかつてこの国の財閥に君臨していた今川家の令嬢である「今川雪愛」と切風の四人で校内に「一般部」を結成。災厄の日常へと突き進む。
赤虎組は資金を確保するため偉炎たちが通う広星高校の地下金庫を襲撃することに決めた。その情報を手に入れた偉炎たち一般部はそれを体育大会当日に迎え撃たなければならなくなったのだ。一般部と赤虎組の決戦は近い・・・それぞれが準備を整え、ついに体育大会の当日の朝を迎えた。しかし、切風はとんでもない条件を付ける。

〇本編

「じゃ私から一つ。」
 全ての説明が終わったところで雪愛が切風に質問した。
「もし私たちが赤虎組の侵入を許してしまって学校で騒動を起こしたらどうするの・・・考えたくはないけど。」
 確かに万が一を考えるのは大切だ。しかし、ここで切風はとんでもないことを言い出す。

その時は何もしない。職員生徒が死なないことを祈るだけだ

「・・・え?」
「もし、今回の事件が発覚して学校側が被害を出しそうな場合我々は関与しなかったとして作戦は中止する。残酷かもしれないが私たちは一般部として内密に行動している。もしも一般部の行動がばれたら君たちも持っている武器やら前科やらがばれてしまう。それは本望ではない。」
「・・・でも」
「言いたいことは分かる。だけどここは我慢よ。私は顧問として今回の作戦ではあなた達の身柄を優先的に保障したい。」
 切風は本気であった。偉炎がそもそもこんな事をしているのは彼の普通を守るためだ。もし彼が侵入した赤虎組に拳銃で応戦なんてしたらその後日常に戻ることはもう無理だろう。そこまでの事を考えての英断だ。これには偉炎も何も言えなくなった。雪愛もそうだ。彼女は今川家の再建を目的としている。それにつながるのが赤虎組を倒すことであると切風に言われた。その切風が何もしなくていいと判断したのだ。何一つ心配することはない。そして極めつけは、
「分かりました。」
 ここで優雷が承諾をした。
「要は校舎にあいつらが入ってくる前にぶっ潰せばいいってことですよね?」
「そう!簡単でしょ?」
「了解です!丘で赤虎組をギタギタにしてやるぜ!」
 答えは出た。一般部は赤虎組を校内に侵入を許した場合、一切関与しない。
「よっしゃぁー!ではさっそく作戦の具体的な検討をしよう。そして、君たちは体育大会も参加して堂々と活躍するのよ!」
 こうして長いようで必ず終わりのくる一日が始まった。

「最初の種目は短距離走だ。出るのは偉炎か・・・OK、まずは雪愛が外の監視をして、優雷は学校内で何か問題がないか確認してくれ。何かあったらすぐに連絡するように。私は保健室にいて、怪我した生徒を看病しつつ常に行動する準備をする。」
「了解だ。」
 偉炎たちそれぞれの役目が決まった。ここからはもう誰も止めることのできない災厄である。そして、この二か月半の集大成とも言えるだろう。負けたくないし死にたくない。
「あと偉炎!種目に出るからには優勝よ!戦いがあるからって手を抜くようなことをしたらダメよ!あなたは普通を取り戻すためにここにいる。だからこそ、普通に体育大会を楽しみなさい!」
「そうだ!やるからには我ら二年C組は優勝を目指すぞ!」
 切風と優雷が付け加えてきた。
「分かっている。全力でやる。」

 それでは!各自健闘を祈る!解散!

こうして保健室から三人の高校生が外に出た。時刻は八時前、高校生たちが登校する時間になっていた

朝のホームルームは案外簡単に終わった。担任の棚崎によれば体育大会は二日かけて行うことになっている。そして、競技がない時間は基本的には自由だがなるべく応援にいくようにとのことだ。そして、参加種目には出ないといけない。もし何か出られなくなった時は事情を担任の先生に言うことだった。別に変なこともおかしなこともない、淡々としたホームルームであった。
「よーし!ではみんな!優勝目指して頑張るぞ!」
 クラスのムードメーカーである優雷がそう言うとクラス全体で「おー!」という掛け声が上がった。こうして広星高校体育大会は開催を告げた。

「みなさん!こんにちはぁー!今回体育大会の司会をさせていただきます、放送委員会の委員長である咲 涼子(さき りょうこ)でーす!それでは参ります!最初の種目は短距離走でーす!参加する人は第一グランド場まで来てください。」
 ここで校内放送にとんでない大きな声が響いた。偉炎は一瞬、本気で切風が放送を開始したと勘違いしたがどうやら別人物らしい。涼子は広星高校三年で学校でのアイドルみたいな人物である。様々な場面で高校の顔として活動している。
「ほら、あなたの番でしょ。さっさと行ってきなさい。」
 偉炎の席に雪愛が近づいて声をかけた。
「あぁ、分かった。」
 偉炎はグラウンドに直行するのであった。

 偉炎がついた時にはすでに何十人かの生徒がグラウンドにいた。学年やクラスなどが違う人たちがほとんどで友達が少ない彼にとって、居心地としては悪いと言っていいだろう。
みんながみんなと話している中、彼は無口にならざる負えなかったのだ。
(ヤバいヤバい、、、!なんて気まずい状況だ!!!)
 今日最初のヤバいが発動した。まさか彼もこれを心の中で思うとは想定していなかっただろう。雪愛は外を監視して、優雷は他の友達と盛り上がっている、、、話し相手がいないのだ。
(せっかくだし他のところも歩いて確認するか。準備体操にもなりそうだし。)
試合までまだ時間があることを察した偉炎はグラウンドの裏にある森の中などをうろつくことにした。

広星高校はまわりが丘に囲まれているだけあってグラウンドのフェンスの裏からは森である。たまに野球部がフェンスをこえたボールを探しに行ったりしており、少々厄介なこの場所は逆に言うと姿を隠しやすいのだ。こう言う場所に敵の何かがあるのは不思議ではない。

がさ!

 何かしらの音が聞こえた。偉炎は最初、特に気にしていなかった。彼は赤虎組がこのような場所に隠していそうなものと言えば盗聴器や、ドローンなどの機械系の何かだろうと考察していた。そのため、まだ9時にもなっていない時間でわざわざ人を差し向けてくるとか考えていなかったのだ。そのためさっきの音も動物か何かだと判断したのだ。

しかし、その音はさらに大きくなっていた。

ガサガサガサ

「いや!明らかにおかしい!!」
 偉炎はこの音が人間が引き起こしたものと判断するとすぐさま直行した。ちなみに、彼は今無防備である。拳銃とプロモーターは種目に出るため保健室においてある。そのため、もし赤虎組がいるならば素手で対処しないといけないのだ。

「「ひいぃ!!」」

 そこにはクラスメイトの安藤と小山がいた。


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