昔、付き合ってた女の話

恋愛とは何なのだろうか。

幸せをイメージする人も多いだろう。
しかし、その反面、悲しいものとして描かれる事も多い。

好きな人に思うように振り向いてくれないツラさや苦しさに耐えきれず、人によっては時に思いもよらない行動を起こしたりもする。

これは俺が遠い昔に付き合っていた彼女の話。


出会い

小学校からの長い付き合いの女友達の紹介で知り合ったのが当時の彼女だ。

名前は覚えてないので「彼女」とさせて貰う。

女友達はカラオケが得意で、お互い車の免許を取ったばかりの出掛けたい盛りなのも相まって頻繁にカラオケBOXに足を運んでいた。

学校の後輩だったか、バイト先の後輩だったか定かではないが、紹介しようと思ってーと女友達が連れてきたのが彼女だった。

学生の頃、吹奏楽部だったからか、流行りの曲に詳しくなかった俺は、他の友達が歌っている曲をなんとなく覚えてる事がほとんどだった。

それでも友達の車に乗った時にヘビロテで流れていたケツメイシの曲はほとんど暗譜していて、カラオケでは数少ない持ち歌だった。

きっとケツメイシが好きだったんだろう。
彼女はカラオケ帰りに2人で話したいと声をかけてきて、俺の事が好きだと言ってくれた。

彼女は太っている程ではないが、少しぽっちゃりとした肉付きの良い体格だった。

今の俺の好みとは全然違うが、この時は九州旅行前。
付き合っている人が居なければ、近しい手頃な異性と付き合うのが普通だと考えていたのもある。

それから彼女とのお付き合いが始まった。

後輩

地元で年下の女性と付き合っているのだからもう少し彼女の過去の事は考えておいた方がよかったかもしれない。

ある日、後輩が頭を坊主にして突然訪ねてきた。

暴走族をやっていた悪友が可愛がってる後輩だから何か揉め事でも起こしてしまったのだろうかと心配しながら声をかける。

「先輩すんません!俺は手出してないんで信じて下さい!これで勘弁して下さい!」

なんか知らんけっどめっちゃ謝られた。
やっぱ揉め事起こして俺の名前とか出したんだろコイツ・・・

まぁええよ全然ええよ。
少し呆れながらも怒ってないと伝えた。

「ありがとうございます!彼女の事、幸せにしてやって下さい!」

え?うん、ありがと。
彼女?????

突然に明後日の方向から思ってもない名前が飛んできて混乱する。

詳しく事情を聞くと、今付き合ってる彼女は先日までこの後輩と付き合ってたようだ。
どうやら喧嘩別れのような感じで別れたらしく、その彼女から俺と付き合ったと聞いた後輩は謝りに来てくれたらしい。

俺そんな怖い人って思われるような事したこと無いんだけど・・・
きっと律儀な性格なんだろう。

少し悲しい気持ちになりながら、お前が1度は選んだ女なら良い女なんだろうな!こんな事させてごめんな。と慰めたら金髪坊主になってしまった後輩は声を出して大号泣していた。

二股とか寝取りとかならいざ知らず、全然大した事じゃないのに1人で騒いで頭まで丸めて人の家で泣き喚いてなにしてんだこいつ。

正直、そんな後輩にドン引きした。

バレンタイン

彼女とはよくカラオケに行った。

歌うのは正直得意ではないが、出会いがカラオケだったからだろう。
自然と個室で座って話ができるのもいいと思っていたのかもしれない。

バレンタインの日。
いつものようにカラオケで遊んでいた時に彼女はいそいそと鞄から箱を取り出した。

「バレンタインだから!チョコレートケーキだよ!」

ハハハありがとう。
本当に嬉しい気持ちも多少ある。
ただね。俺ね。チョコレート食えないんだわ。

実は若い頃はチョコレートが苦手で、学生時代もバレンタインには女友達にはクッキーを用意して貰っていた。
後に毎日仕事帰りに地獄のチョコパフェ巡りを敢行したおかげで今では食べれるようになったのだが・・・

イベント事にあまり興味がないのが災いして伝えるのを忘れてしまっていたらしい。これはやばい。

しかも用意されたのは5号ぐらいのホールケーキ。
親切にも手作りだと一目でわかるように形が歪に作られている。

お菓子作りが得意じゃないのに頑張って作ってくれたのだとわかってしまうコレを食べれないと言うのはあまりに可哀想に思った。

頑張ってくれたんだな。ありがとう。
でも実は甘いのあまり得意じゃなくてな
ちょっと1人で食べるには大きいかなぁ・・・一緒に食ってくれる?

精一杯フォローした。
最適解を導こうと脳を急速回転させ、必死に出した答えだ。

「え?私チョコレート食べれない」

Oh!!!!!!!!Shit!!!!!!!!!!
神も仏も有りはしねえ。
ってかチョコ苦手なら相手も苦手かもしれないって少しは考えたりしないのかよ。

切り分けてあげるねーと鞄から包丁を取り出す。

終わったわ。

鞄から抜き身の包丁が出てきた事にも驚いたが、この状況で手元に刃物があるってことがもう終わってるわ。

たかが直径15cm程度のチョコレートケーキだろう?やってやれば食えん事もない!俺だって命は惜しい!!!
俺は深い深呼吸とし、覚悟を決めた。

しかし、切り分けるためにケーキにあてがわれた包丁が一向に動こうとしていない。

「ごめん。硬いかも」

え?チョコレートケーキが?硬い???

包丁を受け取り、自分でも試してみるがチョコレートはびくともしない。

流石にこれは食べれないんじゃないか?そう言って逃れようとした。
しかし彼女は逃してくれなかった。

「チョコだから少しづつ溶かせば食べれると思うから」

オーケー。
ここからは耐久戦だ!!!
何故ならテーブルには変わらず包丁が置かれているからな!!!

そうして俺はカラオケを延長しながら、数時間かけてチョコレートケーキをなんとか食べることになった。

ネトゲ

ゲームにハマり、リアルの事が疎かになってしまった経験は誰にでもあるだろう。

その時、俺はTWのイベントが来ていたので毎日ネトゲに夢中だった。

彼女から何通もメールが来ていることはわかっていたし、着信が何度も何度もあったこともちゃんとわかっていた。

ただ返事を送るより、目の前のMobを倒してドロップを集める事が何よりも優先される事項だった。ゲーマーとして至極当然の行動だと言うことは理解して頂きたい。

イベントが終わり、一息ついた頃。数日前に受信した最後のメールには「私のことがどうでもいいなら返信しなくていいです。」とあった。

ゲームを優先していただけでどうでもいいとは思っていなかった。
本当だよ?
俺の中に確たる優先順位があっただけなのだ。

そうして一ヶ月ぶりに彼女にメールを返した。

カッターナイフ

彼女と会う約束をする。

髪を簡単にセットして。普段はあまり使わない香水を付ける。
久しぶりに会うのだから少しはおめかしをしてやらんとな。
俺は気遣い屋さんなのだ。

夜中の自動販売機が並ぶ光の前に彼女は待っていた。

久しぶり。忙しくてごめん。

そう謝った。
ゲームが忙しかったのだ。当然許してくれるだろう。

しかし、彼女の顔つきは険しかった。

なんで?どうして?とは聞かれなかった。

ただ一言。

「違う匂いがする」

そう言って近づいてきた。

抱きしめてやろう。そう思って受け止めた。

受け止める瞬間。腹に何かが当たる。

ポケットの携帯か何かが当たったのかと思ったがそんな痛みじゃなかった。

彼女を押し返し、数歩下がり、彼女を見る。

鬼のような眼光で睨みつける彼女の手にはカッターナイフが握られていた。

あー・・・刺されたんだな俺。

認識した瞬間、腹部に激痛が走る。

カッターでも刃物だ。
新品の刃の切れ味はその気になれば人も殺せると思う。

このままだと危ない。そう思って一目散に走り出した。

数百メートル。腹がズキズキと激しく痛んだが走れるだけ走った。

何度か角を曲がって追ってこないと思ったところで民家の庭に飛び込み隠れる。

刺された所は熱くてめちゃくちゃ痛かった。

このまま死ぬのかと泣きそうにもなった。

本当にめちゃくちゃ痛かったけど、傷口をちゃんと見たら血は結構出てたけどそんなに大したこと無さそうだと思った。

一番近くの家の友達に電話をかけながらビクビクしながら歩いた。

後日談

最初はなんで刺されたのかわからなかった。
友達や色んな人に話してみて、浮気されたと思わせてしまったんだと後から理解した。

しばらく連絡取れなかったってだけでも不安なのに知らない匂いがしたらそりゃそうか。
彼女とはそのまま自然消滅してしまったが申し訳ない事をした。

それ以来、しばらく俺は女性と話すことができなくなった。
女性不審というやつだ。
俺が原因だったのは関係ない、女性に刺された。もしかしたら殺されていたかもしれないと言う恐怖が残ってしまった。

FEZ初期に知り合った人ならVCに女性が入ってきた途端に俺が話さなくなってたのを覚えてる人がいるかもしれない。
それを善意か悪意か、どうにかしてくれたのが我らが部隊長キルハートだ。

VCに女が居ないと華がないと言う理由で嫌がる俺を無視して女性を呼び続け、無理やり乗り越えさせてくれた。
なんとかなるっしょー!のマインドもこの時キルハートから感染したんだと思う。

この愛すべき部隊長がいなければその後の結婚騒動や数々のリア♀事件もなかったのだろうから命の恩人と言うのか、俺の産みの親と言うのか。
めちゃくちゃ感謝しているし、いつかこの一生を終える時まで大事にしたい相手の1人になっている。

あれから数年後。
彼女とは最初に紹介してくれた女友達のツテでもう一度だけ会うことがあった。
少し大人びた彼女から、本当に大好きで一番人を好きになった瞬間だったと言って貰えた。
俺は「そうなん?でも俺は全然そんなことなかったよ」と伝えた。

人は幸せを求めて人を好きになるのだろう。

しかし好きという感情は、時に人を狂わせる。

好きな相手が側にいてくれない。思ったとおりに自分を好きになってくれない。
もしかしたら他に好きな人や付き合っている人がいて、自分には可能性すらないのかもしれない。
それは想像するだけでも凄く残酷で、生きてる事すらしんどい程に苦しい事んだろう。

それでもなんとか足掻こうとした結果がストーカー行為だったり、相手や自分を傷付ける行為になってしまうんだろうか。
ただ、その行動が嫌われたり避けられたりする原因になってしまっては本末転倒じゃないか。

相手の事が本当に好きならば、本当に幸せを求めているのならば、好きな相手の幸せぐらい願ってやりたいと思う。
どんなに苦しくても、しんどくて泣き叫びたくても。
好きな人が笑顔で居てくれるように頑張る自分で在りたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?