北海道に行った話

皆さんはオフ会に行く時、どんな気持ちで向かうだろうか。
楽しみだなーとか移動めんどくさいなーなんて考えるだろうか。

そのオフ会で女の子と会うならばオフパコを期待して行くだろうか。
もしかしたら今日こそ告白するぞと、気合を入れて挑む人もいるかもしれない。

これは俺がオフ会に誘われて北海道まで行った時の話。


FEZ

FANTASY EARTH ZEROは一度作ったキャラは国の変更ができなかったが、サブキャラを作れば他の国で遊ぶことができた。

ネツァワル王国に籍を置く俺とS氏はサブキャラで遊びに来ていたF嬢と仲良くなり、彼女の本国であるホルデイン王国にもサブキャラを作っていた。

Skypeで集まってその日の気分でどっちの国で遊ぶか決める。
FEZは国ごとにプレイヤーの雰囲気がかなり違うゲームだったので他国で遊ぶのも新鮮で楽しかった。

3人で遊ぶことが増えて、次第に毎日のように遊ぶようになり
S氏がF嬢に好意を寄せていることに気付いた。
俺なら好きな子と2人で遊びたいと思うのだが、S氏は何故か俺にも声をかけてくれた。

いつものようにSkypeの会議通話に参加すると待ってましたと言わんばかりに北海道に遊びに行かないかと誘ってくれた。

予定

北海道はF嬢住んでいる場所だ。
とうとう会いたくなっちゃったんだなーと思ったが、何故それに俺まで誘うんだと訝しげに思う。

察しのいい俺は狙ってる感出したくないんだな?わかった!と自分なりに納得して即OKした。
俺は友人思いなのだ。

この日にしよう!と言われて飛行機を取ったが、翌日にS氏に日程変更して欲しいと言われて飛行機を取り直した。
キャンセルと取り直しで無意味に数千円を無くしたが文句は言わなかった。
俺は友人思いだから。

北海道での宿選びもお気に入りがあると言うからS氏に任せたがカプセルホテルだった。
北海道まで行って何故!?確かにまだ新しくて安いからコスパはいいと思うけどさ!もうちょっとあるんじゃない???

どうせ別々に泊まるなら俺だけ他に泊まってもいいんじゃないかなーとか考えながら公式HPを眺める。

あ。俺は気付いてしまった。

そりゃ宿代に予算割きたくよな!すすきのがすぐそこだもん。
俺は友人思いなので財布に5万ほど現金を追加しておいた。

北海道

どう飛行機に乗ったのか不思議とさっぱり覚えていないが北海道に着いた。
多分人生で1度目か2度目の飛行機だったのにルートすら思い出せなかった。
まぁ人生そんなものだろう。

待ち合わせは札幌だったので新千歳空港から電車で向かう。
思ったより距離あるんだなーと考えながら揺られていたことだけを覚えている。
初日の夜は宿でS氏と合流する。
早速飲みに行こうと言うのでウキウキで外に出る。

前来た時もここで飲んだんだーと自慢げに語りながらメイドさんBARに入る。

は????

今だとコンカフェと呼ばれるのかな?
普通のカジュアルなBARで店員さんがメイドの格好をしている。

え?は?すすきの?は????

S氏のオススメの店に一瞬戸惑ってしまったが、まさかまさかそんなわけがあるはずないと思ってシステムを確認する。

どっからどう見ても普通の飲み屋だ・・・。

現地で言うキャバクラでは◯◯タイム的な夢のような時間があって、大体はその説明がメニュー表に書いてあったり、店員さんに聞いたら教えてくれたりするのだが全く、一切、そんな話は出てこなかった。

てめぇふざけてんのかと拳を振り上げそうになったがただの景気付けの可能性もあったので冷静を装った。

1時間ほど過ごした頃には完全にふらふらの上機嫌のS氏が出来上がってしまっていた。

全然だめだコイツ。

内心くそでかため息を付きながらビーフジャーキーをモーモージャーキーと呼称するメイドさんのお店を後にして宿に戻る。

その後一人で飲み直してもよかったが、明日はF嬢と待ち合わせもあるので寝ることにした。

明日の夜は一人で外に行こう。
俺は心に強く誓った。

オフ会

S氏と一緒にF嬢と札幌で待ち合わせる。
当日の予定は全く聞いてなかったがまずはふれあい動物センター的なところに行くようだ。

大丈夫か?多分だけどF嬢あんまり小動物とか興味ないぞ・・・?
いや、もしかしたら行きたいって話があってのチョイスかもしれん。
流石に好きな子の好みぐらいは探ってから選んでるはずだ。

一応確認のためにF嬢の様子を伺う。
空気感を合わせて我々3人の一体感を演出するのだ。

うわぁ真顔だよ。

完全なる無がそこには存在した。

全ての飲み込む時空の狭間がそこにはあった。

今なら苦虫を噛み潰したとしてもその表情は変わることはないだろう。

眼の前にいる犬も保護犬でも拾ってきたのかと言うほど毛が抜けてやせ衰えている。目ヤニも酷く動物好きの俺ですら汚えと思ったが、F嬢は汚いと思うことすらしていないのではないか。
もしかしたら興味がなさすぎて今犬を見ているという認識すらないかもしれない。

現実を知るのが怖いと言うか可哀想と言うか。
10年以上経った今でもあの時どう思った?と聞けずにいるが、あの場所を選んだのは間違いなく失敗だと確信している。

そもそも普通に考えて札幌の市街地に動物園的な場所があるわけないじゃん?
あったとして猫カフェとかふくろうカフェとかじゃん?
下調べが足りてなさすぎる。

S氏まじか・・・と思いながら
犬、可愛いねと言っておいたがその場の空気はどうしようもなかった。

ネカフェ

シベリアの冬より寒い保護動物ふれあいセンターを早々に切り上げ、次の目的地に向かう。
先程はあれだけの失敗を犯したのだから次で挽回せねばなるまい。
起死回生。期待と希望を胸に辿り着いた場所。

ネカフェだった。

動物を見ながら一日キャッキャうふふするつもりだったのかもしれないがセカンドプランとしてどうなんだろうか。
俺調べてないけど札幌だし他にも色々あると思うよ?
普通のカフェとかでもいいんじゃない?そう提案したがお腹空いてないと一蹴された。

ネカフェのPCでFEZを一回づつプレイする提案を受けて遊んだ。
ネットゲーマーのオフ会としてそれっぽくてちょっと楽しかった。

しかし本題はそうではない。
今日は友人のS氏が想い人のF嬢のための一日なのだ。

当時、ヤンキーは襟足を伸ばすのがトレンドだったので俺はヤンキーを超えるものとして腰ほどまで襟足を伸ばしていた。
髪が長い共通点があったので小粋なトークで髪の話題に持っていきながらF嬢の髪を櫛で梳く。
いいか?S氏。女性は姫のように扱うんだ。見てるかS氏?

肝心のS氏は無関心だった。
距離を詰める最大のチャンスを作ったつもりが漫画を読んでいた。

君何しに来たの・・・?
この時まじでそう思った。

実際に会ってみて好みじゃなかった感じのよくあるやつの可能性もあると思って俺もそのように切り替えた。

解散

その後晩ごはんを食べたはずなんだけど覚えていない。

ただ、北海道まで来てチェーン店まじかと思ったのだけは記憶に残っているからチェーン店に入ったんだと思う。

食事を済ませて解散の流れになる。

S氏が先に帰っててと言ってきた。

え?本気で言ってる?
今日のこれで行けんの?普段ゲームで遊んでる時の方が多分空気感良いよ?

それでも本人の希望ならと思い、軽く挨拶を済ませて先に帰る。

15分ほど待ってからF嬢に連絡を送ったのは覚えてる。
何か話した?と聞いたのか告白された?と聞いたのか覚えてないがとりあえずS氏がフラれたようだ。

戻ってF嬢から詳しい話を聞きたい気持ちもあったがぐっと堪えてカプセルホテルに戻った。

S氏が戻ったら慰めてやらんとな。
そう思っていたがその夜はS氏からは連絡がなかった。

せめてもの供養としてゲーム仲間にメッセージを送る。
「S氏、北海道にてF嬢に散る(失恋)」

一人になった俺は夜のすすきのへ消える。
5万円を握りしめて。

後日談

その後S氏とは疎遠になってしまった。

ゲームは続けていたみたいだがあまり絡むことはなかった。
最後にS氏の情報を聞いたのは福島原発の復興作業に関する仕事を現地でやってるとかやっていないとか。

彼のオフ会と称した、非モテオタクの考えた最強デートコースを実行してみたら大滑りしたけどワンチャン告白したら行けちゃうんじゃないかチャレンジは失敗に終わった。
そこからもう一度踏ん張る力は、残念ながら彼にはなかったのだろう。

オフ会の内容で結果が変わっていたのかは俺にはわからない。
ただ、モテないやつはモテないだけの理由があるんだと俺は勉強させて貰った。

オタクだからモテないんじゃない。
相手に合わせたデートコース選びや準備。楽しい会話を提供できるようにするのも努力だと思う。
そういった努力や頑張りが必要なんだと彼に教えてくれたのだ。

F嬢は今では別の国、ゲブランド帝国の影の正室となっている。
実際会ったのは北海道の一度きりだし、一緒にゲームすることも連絡を取ることも稀になってしまったが関係は一生続くだろう。

消えてしまったS氏のことを時々思い出しながら、俺達はこれからも生きていくんだ。

僕たちは上りはじめる。この、長い長い坂道を。

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