昔、九州へ行った話

2大エピソードの一つ、《宮ちゃん》の話をしようと思う。
この話と後日書こうと思っている離婚の話は少し長くなるので時間のある時に読んで下さい。


彼女の名前は宮ちゃん

毎日のようにFEZをプレイしていた頃、俺たちの部隊(ギルド)に1人の女性プレイヤーがいた。名前は宮ちゃん。

部隊長のキルハートをはじめ、サーバー内でもそこそこ上手いプレイヤーが集まっていた我々の部隊の中で宮ちゃんはダントツに下手だった。

宮ちゃんは下手なだけではない。
宮ちゃんは鼻息が凄いのだ。すんごい本当にすんごい。
対人ゲームだからもちろん興奮もするだろう。
宮ちゃんの鼻息はブフォーーーーーッと勇ましく鳴り響き、僕らのグループ通話の声は鼻息によって消し飛んだ。

宮ちゃんは鼻息だけではなかった。
キーボードを壊すのも大得意だ。
ゲームで死んだ時、煽られた時、彼女の鍛え抜かれた両腕の脂肪は完膚なきまでにキーボードを粉砕する。
ガチャガチャガチャガチャン!バンッ!バンバンバンッ!
僕らの耳は宮ちゃんの鼻息とキーボードを壊す音で満たされていた。

九州へ行こう

宮ちゃんはパーティに呼ばれず、通話にも呼ばれず、当然のように部隊の中で孤立していた。身内の切り捨てるのが苦手だった俺は、キルハの拾ってきた子だし俺が面倒見なきゃ!と一緒に遊ぶようにした。

騒音の激しい彼女だが、二人で遊ぶ分にはゲーム音を上げるだけで済んだ。
本人の声より鼻息の方が大きいのだから彼女の声は聞こえない。
適当なあいづちを続けた。彼女は特に何も気にしなかった。
多分会話は必要なかったんだと思う。

彼女の住んでいる九州の熊本へ旅行に来ないかと誘われた。
俺は九州にはまだ行ったことがなく、熊本なら温泉もあるし馬刺しもうめぇよな!と快諾した。当時の俺はフットワークが軽すぎたのだ。

現地での移動をどうしようかと悩んだが車を出してくれると言うのでありがたく甘えることにして、俺は富山から電車を乗り継ぎ初めて九州の地に辿り着いた。

邂逅

熊本と壮大な自然の中で、俺は1人駅に降り立った。
Skypeのチャットで到着時間を伝えている。
既にホームの外で待っていてくれているようだ。

田舎育ちの俺には少し珍しい自動改札を抜けて宮ちゃんを探す。

見つからない。

人のまばらな駅の構内には先に待っていてくれているはずの「同年代の女の子」が見つからないのだ。

改札を間違えたか?
携帯を手に取り通話をかける

少し遠くで電話を取る人影が見える

いや・・・人、か・・・?

当時の俺が後日、この瞬間をコメントに残していた。
「イエティとかビックフッドの比ではないコニシキだとしか言い様がない」
その時、俺は20歳を少しすぎたばかり。
この世には魑魅魍魎が跋扈しているとまだ知らなかった。

うら若きyakipanが直結・・・今で言うオフパコを微塵も期待していなかったと言うと嘘になるが、一瞬で切り替えは成功した。
キーボードぐらい壊せて当然。だって横綱だもん。
俺は不思議と色々納得していた。

違法改造車

コニ、、、宮ちゃんに案内され、車へ向かった。
真新しいが埃の被った黒のダイハツのムーヴ。
それが宮ちゃんの車だった。

先に運転席に乗り込み、隣に乗りなよーと誘ってくる。

瞬間。衝撃を受けた。

見るからにフルノーマルだった軽自動車が、宮ちゃんが乗った瞬間にシャコタンになったのだ。

「とりあえずご飯にする?何食べよっかー?」
おかしな事など何もないかのように聞いてくる彼女。
先刻、目の前でぺしゃんこなるまで潰されたであろうサスペンションのことを考えながら。
「肉・・・。」と答える以外の選択肢を持ち得なかった。
二人で始めて食べた食事は肉になった。

悪夢の始まり

食事を終える頃には数時間前まで未確認だった新しい既知の生物にも慣れてきてゲーム内同様、友人付き合いの会話ができるようになっていた。

今日の宿はまだ決めておらず、食事に向かう途中で山沿いにある温泉宿を見かけたので電話して泊まれるか聞いてみようと思っていたが、
まだ日も暮れるにはまだ早かったのもあって、すぐ近くだと言う宮ちゃんの家でお茶を出して貰うことにした。

俺はこの判断を一生後悔することになる。

少し広めな1Kタイプの部屋に案内され、コーヒーと軽食を出してくれた。
その部屋は2階にあって「木造でも床って簡単に抜けないんだな」なんて考えながら移動の疲れを癒やした。

気遣い上手のネトゲ友達はトイレばかりかシャワーも使いなと促してくれて、さっぱりさせて貰えるのは有難い事だとご厚意に甘えてしまった。

トラウマ

汗だけ簡単に流してシャワーを出る。

パンツはあった。シャツもあった。
先程脱いだばかりのズボンがない。

とりあえずパンツ丸出しで部屋に戻るが財布や携帯を含めて荷物の一切がなくなっていた。
下着姿で庭先に出るぐらいなら恥ずかしくないのが田舎育ちの性である。
困ったイタズラをするもんやな!なんて言いながら適当に座る。

「これで外行けないよね」

隣に擦り寄り、そう言いながら体を触って来る巨大な喋る肉塊

俺の装備はシャツとパンツだけ。
もちろん防御力は皆無に等しい。

全身に緊張が走る。

心拍数が跳ね上がり、生命が危険だと本能が告げてくる。

胃を鷲掴みにされたような不快感と苦痛。

力士を彷彿とさせる肉厚な手のひらが貧弱な布でできたパンツに触れた時は全身の毛が怖気立ち、レイプされる女性の気持ちを理解した。

人生何度目かとなる女性に対する本物の恐怖を体験しながら、今日は疲れてるから寝ようと伝える事が精一杯の抵抗だった。

布団に入るのはヤバイかとも思ったが、元より逃げ場がないのだから仕方ない。
追うように布団に入ってきた獰猛な肉食生物を刺激をしないようにすぐにでも寝るしかない。
全身を撫で回されながらも俺の心は決して折れなかった。
諦める時は死ぬ時だと心に誓った。
生きるために寝るか、このまま死ぬかの問題だった。

解放

翌朝、食事はちゃんと用意してくれた。野菜炒めを卵で包んだような料理だった。
この料理を俺は豚飼料と名付けている。

体を触って誘惑のようなものをしてくるのは変わらなかったが、俺の俺様が無反応なのだから段々と攻勢も緩やかなものとなっていた。
最後にはもう時間ないよ・・・?なんて言ってくるのだから優しい心もあったのかもしれない。

帰りの電車の時間に合わせて荷物も返して貰い、駅まで送って貰った。
今思い返せばお前もう一回よく車乗ったなって思うが、素直に荷物を返してくれたのでその時はすっかり許してしまっていた。

帰りは寝台列車で10時間以上かけて大阪まで戻った記憶がある。
深夜に電車に揺られながらネトゲ仲間のS氏に涙ながらに電話し、そのまま泣きつかれて眠りについた。

悪夢は終わった。
家に帰れるんだ。
明日からまた変わらない日常を過ごせるんだと喜びを感じていた。

後日談

FEZでの戦争は2種類ある。
ゲームのシステムとしての戦争。
もう一つが自分が死ぬか相手の存在を殺し尽くすかの戦争だ。

家に帰った俺を待っていたのは日常ではなく戦争だった。
宮ちゃんが俺と直結したと言い回っていた。

平和を愛する俺も実害があっては黙っていられない。
俺に九州旅行(語弊有り)を経験させてくれた友人を処断するのは心が痛かったが、毒を食わせて皿まで食わせるをモットーにFEZというゲームから彼女の存在を抹消した。

そうして俺は重圧肉だるまによる軟禁、レイプ未遂を経験したトラウマを得るに至った。細身で胸の控えめな女性が好みなのはこの時の事件が大きく影響しているのかもしれない。

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