もう一度恋愛してみた話

恋愛は難しい。
一般論の恋愛のコツみたいなものはネットに山程転がっているが、そのどれもが正解ではない。
人の感情は付けられている名前ほど単純なものではない。

これは元嫁と離婚した後、性懲りもなくもう一度頑張ってみようと思ってしまった愚か者の恥ずかしい話。


出会い

元嫁との離婚が成立した後、自由に使えるお金が戻ったのもあり、飲み屋街に出ることが再び多くなっていた。

キャバクラの黒服をやっていた中学時代の同級生が自分の店を持つらしい。
オープン直後のバタバタが落ち着いた頃にお祝いも兼ねて遊びに行った。

お前の好みの子を付けるからと自信満々だった店長がひなちゃんでーす!と笑顔で紹介してくれる。

色んな店に遊びに行っても指名を入れるのは1人だけ。
飲み慣れてる人ほど難しいこのルールを自分の美学として曲げること無く現在でも守り続けている。

そのルールを知っている中学時代からの腹黒な悪友は、自分の予想通りひなを指名にした俺を見て満足そうな表情だった。

ひな

ひなは俺の好みを絵に描いたような容姿をしていた。
今でも当時の彼女は俺の人生で一番好みの外見の女性だと思っている。

何度か店に通ううちに仲良くなり、外で会うことも増えてきて付き合うことになった。

その時彼女は専門学校に通う学生で、10歳近い歳の差もあった。
照れるように笑った顔や頬を膨らませる癖がたまらなく可愛かった。
結婚を一度失敗している俺は今度こそはという気持ちが強く、俺の全てを捧げる覚悟でいた。

金曜日の店が終わると迎えに行ってそのまま遊んで日曜に家まで送る。
テストが近ければ一緒に勉強したり、車にマットレスや布団を持ち込んで車中泊旅行をしたり。
今思えば一番恋愛らしい恋愛をしていた時期かもしれない。

彼女との約束は1つだけ。
浮気だけはしない。するなら絶対隠す。

これだけは天地がひっくり返っても譲れない約束だ。

同棲

彼女が専門学校を卒業と就職を控える時期になった。
既に社会人として何年も仕事をしていたし、収入には余裕があった俺は部屋を借りて同棲を始めることにした。

男女問わず、一人暮らしを一度経験した方が良いとは思っている。
その時の俺は女性に対する不信感がまだ残っていて、彼女には毎日帰ってきて欲しかったんだと思う。

他の男に目をくれないで欲しい。
俺が一番だとずっと思っていて欲しい。

そんな気持ちだったんだろう。
俺は自分の仕事が終わったら真っ先に家に帰り、夕飯の準備をして彼女の帰宅を待つ。

自分の食事はスーパーの5個入り200円の肉なしコロッケで先に済ませ、後で帰ってくる彼女には美味くてしっかりをしたご飯を作った。
行きたいところ、やりたいことは全部メモに残したし、休みが合えば全部叶えるよう努めた。

アウディのA5が新車でギリギリ買えるぐらい貰っていた給料のほぼ全てを彼女のために使った。
自分にできる愛情表現は全部やるつもりだった。

離別

ひなが友達と街コンに行ってきたいと言ってきた。
まだ20歳を過ぎたばかりだったし色々経験したかったんだと思う。

行って欲しくない。でも束縛はしたくないから行くならこっそり行ってきて。
そう伝えた。

男女が出会いを求めるような場所には行かないで欲しい。
ただの独占欲だ。

行ったことを知ってしまったら俺はきっと疑ってしまう。
勝手に嫉妬して怒りの感情を持ってしまうことが怖かった。
離婚の話もしていてし、そのあたりは察してくれると思っていた。

しばらくして、ふと思い出して聞いてしまった。
そういえば街コン行ってきた?楽しかった?
何故わざわざ聞いてしまったのか。行かないでって言われたから行ってないよと言って欲しかったのか。それで安心したかったのか。

行ってきたけどご飯美味しくなかったー

聞いた俺が悪かった。
こっそり行ってきてと言ったのは俺なのだ。
彼女は俺がそう言ったから黙って行ったのだし、俺が聞いたからちゃんと答えてくれたのだ。

それなのに怒りがこみあげてきた。
人として未熟すぎた。
嫉妬、失望、マイナスの感情で頭が埋め尽くされていく。

誰だって出来るチャンスがあれば浮気する。
異性に期待するな。期待をするから裏切られる。
今でも度々口にするこの恋愛観は元嫁の時ではなく、この時に出来上がったものだ。

その場のノリで連絡先は交換したけどもうブロックしてあるし連絡も取ってない。
一回行ってどんな感じかわかったからもう行かない。

多分その言葉は真実だったんだろう。
彼女は誠意を持って俺に接してくれていたと思う。
だけど、どれだけ身を削っても、持てるもの全てを尽くしても、結局は裏切られるんだという気持ちが心を支配してしまっていた。

俺はたったそれだけのことで彼女を信じられなくなってしまった。
何日も真剣に考えたが、その時の俺はとても弱くて脆すぎた。

「毎日ネトゲやりたいから別れようぜ」

彼女に伝えた言葉だが、ひなは数日の俺の様子から察してくれていたんだと思う。
一緒にいる間、ネトゲなんて全然してなかったのに文句の一つも言わず納得してくれた。

荷物をまとめ、部屋を引き払い、最後に彼女を実家まで送った時は自分の弱さに涙が止まらなかった。

後日談

一番脆い時期だったとは言えあまりに狭量な自分が嫌になった。
恋愛には向いてない人間なんだと思った。
人間としての感情が壊れているのだ。

そんな人間が恋愛をしたってロクなことにならない。

俺はこの時から両薬指に指輪をしたり、ネトゲでもチャラい発言をしたりと恋愛対象から外れるように心がけるようになった。
それらしい雰囲気になってもやっぱり逃げたくなる。
人を好きになるもの、人に好かれるのも怖い。

実際、彼女のことをどれだけ愛していたのかと聞かれると答えに詰まる。
確かにめちゃくちゃ可愛かったし手放したくないとも思った。
ただ、死ぬまでの全てを捧げると思ったのは一度失敗した自分への誓約だったように感じる。

相手を失ったまま、そんな誓いの気持ちだけを残してしまった。
この残りの人生は誰かのために使わなければならない。だけどその相手がわからない。
それは呪いのようにずっと追いかけてくる。
多分他人には伝わらないけど、焦りともどかしさと無力さを抱えて今も毎日を生きている。

心の底から愛の言葉を叫びたくなるような恋愛感情を抱く事はないだろう。
本心から人を好きになって信じる事ができて愛してると自信を持って口に出せる。そんな機会はこの人生では訪れない。
本気でそう思っていたし、そうでなければならないと思っている。

過去の恋愛のトラウマから立ち直れているのか立ち直れていないのか。
そんなことも自分では何一つわからないけど、いつか語りたいと思う。
俺の最後の大恋愛の話を。

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