マチネの終わりに

 一昨日読み終わってからも、余韻が尾を引いている。そんな本は今までなかった。
 人生の考え方、生と死への哲学的な考察、すれ違い、運命論、嫉妬、そのほかにも色んなものが詰め込まれていた。考え始めればきりがないのかもしれないが、考え込んでしまう。
 登場人物ほどの境地にたどり着くのに20年近くかかるのかと思って暗くなったり、本来とは違う自分を演出する蒔野に自分を重ねたり、結婚とは考えていたよりも難しいのかと思ったり。そんなことを考えてるからだろう。なんとなく暗いのだ。
 僕は彼らのように天才的な音楽家でも、海外ジャーナリストでもない、凡庸な可もなく不可もなくな人だ。作品にのめり込みすぎて、大したことない自分を激しく自己嫌悪した。
 でも、「未来は過去を変える」という言葉は多少その自己嫌悪を和らげる。悪かった過去も変えられるような人生を生きればいいのだと思える。
 ここまで感情を鷲掴みにして揺さぶる作品というのは僕の中では多くない。名作と言われるのも納得だ。映画とは違った良さがある。映画では省略された部分も解決できた。
 良くも悪くも心を抉る作品だった。しばらく引きずることになりそうだ。

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