見出し画像

「芸人だから雑に扱ってOK」という認識はなぜ起こるのか。

オシエルズの矢島です。

よくダンスや音楽のショーなど、お笑い以外の営業でMCをさせていただいたりするんですが、その時に如実に感じるのは、「観客は常に芸人にやっていい雑なイジリや発言における共通認識を持っている」ということです。

ダンサーや演奏者には決してやらない雑なイジリの具体例でいうと、

・「面白くねぇぞ!」とか「いやボケろや!」などのディスり系のヤジを飛ばす。
・自分の告知をしている時に「興味ねぇよ!」とか、出演する芸人さんの名前を言うと「誰も知らんわ!」とか言う。
・終演後「まだまだだなぁ!」「俺の方が面白いぞ」「俺が師匠になってやろうか?」などのダルい絡みをしてくる。

ザッとこんな感じです。
まぁ、お笑いの営業でも結構いますが、他のパフォーマーさんと一緒になった時には、なおさら自分たちにしかされない扱いなんで、余計に思い出深いです。

意外にもお酒が入ってない方でも、平気でこういう絡みをしてきます。2番目のやつは特にムカつきますね。そりゃ業界のこと知らなきゃ誰やねんってなるでしょうけど、それって言う必要なくないですか?じゃあ俺も他の業界の方が告知してる時に、誰も知らなかったら「誰も知らんわ!」って言っていいんですか?って話ですよ。

演劇にもダンサーにも、音楽にも大道芸にも、そのエンターテイメントにおける何らかのリスペクトってあるはずなんですが、残念なことに、お笑い芸人にはそういう感覚を持ってないお客さんって多いんですよね。

まぁ、そういうことを言われても仕事をやりきるのがプロなのかもしれません。実際、私もそういう風に自分を言い聞かせて日々舞台に立っています。お笑い芸人の仕事は、どんなに自分が不快な思いをしても、相手には気持ちよく帰ってもらうことですから(とか言いつつ、我慢できずキレたこともありますがw)

観客にキレることはプロとして失格かと言われれば、僕は自己を正当化するつもりはないですが、他の観客の利益を守るためにやむを得ず言う必要があるんだろうなとは思います。とはいえ、めったにそんなこと起こりません。年に1回あるかないかぐらいですが…。

常々思うんですが、芸人に雑なイジリとかイチャモンをつけてくる人は、それを言うための別料金が取れないもんですかね?

そういえば京都には、横柄な客から別料金を払ってもらう「おいおい税」というものがあるそうですね。そんな風に、芸人はタダでさえギャラが安いんだから、そういう客から別途料金を払ってもらったほうがいいと思うんです。自分の主催するライブで初めて導入してみようかしら…。

「(特に売れていない)芸人だから雑に扱ってOK」という認識は、プロを目指す人の誰もが受ける洗礼だと思うと同時に、それをずっと放っておくのも違う気がします。

なぜお笑い芸人にはそういうことが言いやすいのかというと、観客の評価が「面白いか面白くないか」「笑えたか笑えなかったか」という簡単なものだからだと思います。

僕は自分のネタでもピアノを弾くので、自分の技術レベルがどのくらいかも分かりますし、ピアニストさんの上手い下手ぐらいは、強弱とか手の動きとかで分かります。

でも、正直それ以外のパフォーマンスの上手い下手は分かりません。その道の人なら細かく色んなところが分かるんだと思いますが、僕には全部が上手く見えるし、全部がすごいと思ってしまいます。

要するに、他のパフォーマンスに比べて、お笑いっていうのは評価がしやすいんですよ。だからすぐに感想も言えるし、演者に対してフィードバックができちゃう。だからつい言っちゃうというのもあるんでしょうね。

日本即興コメディ協会の代表として、笑いの適切な扱い方を教える身としては、日本全体に暗黙で存在する「他のパフォーマーとは一線を画するお笑い芸人への不当な扱い」には声をあげなきゃいけないという使命感があります。

すべてのお客様がそうするわけではないんですが、一部で存在するそのようなお客様に対して、何も言わずに右頬を出して引っ叩かれるのを待つような美徳は必要ありません。僕らは芸人として、おかしいことをおかしいと言っていくべきだと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?