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君たちはwRAAをどう説明するか

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はじめに

 発端はこのツイートでした。

 贔屓球団の都合上、無邪気にベイスターズ比較的マシだねで終わってもよかったところだったのですが、それで飲み込むには咀嚼が足りなかった。ので考えてみたよ、という回です。疑問点のくだりはTwitterでもだいたい同じ話してたので、そこで見てくれてた人には話が被るかも。


疑問点を洗い出す

 何がよくわからなかったのかを挙げてみると

  • そもそもなんの数字?

  • セ・リーグが全球団マイナスになっている?

  • 「リーグ平均比」なのにパ・リーグも合計が0にならない?

というあたりでした。ひとつずつ解いていきます。


そもそもなんの数字なのか

 何この数字?って騒いでいたら有識者もとい有識馬の方から示唆に富んだツイートが。

 delta社が算出しているWARのオフェンスコンポーネントだけ抜き出したものでは?とのこと。以下のリンクはdelta社の野手WAR算出方法解説。

 要するにパークファクター補正を加えたチームwRAAなのでは?ということで調べたところ、だいたいそんな感じだったのでとりあえずこの数字がなんなのかは解決。元ツイの「打撃で増やした得点」というパッと見何が言いたいのかよくわからないキャプションも納得です。


セ全球団がマイナスなのはなぜなのか

 これも有識者の方から知恵をいただきました。

 言われて見直したところ、先に貼ったdeltaの野手WARロジック解説ページにも平均値は野手のみ用いている旨の記載がありました。たいていの電化製品の故障は説明書をちゃんと読めば書いてあるんだなあ、という感じ。


パ全球団の総和も変なのはなぜなのか

 このへんまでくると薄々感づいているというか、「打撃で増やした得点(リーグ平均比)」なる文言を見て勝手に何らかの相加平均だと思い込んでしまっただけなのですが、せっかくなので自分の手を動かして体感してみることにします。

 こないだ遊びで作っていたwRC+を算出するスプレッドシートでwOBAを出せることを思い出したので、パ・リーグ6球団の数値を使ってwRAAを出してみることにしました。
 パークファクターの考慮とかwOBAの係数の調整(これは別にしなくていいと思うけど)とかこの日起こった福岡の惨劇の反映とかしていませんが(チーム成績をNPB公式サイトから拾ってきたから)、今回の目的は数値の正確性ではなくwRAAは相加平均ではないことを実感することなのでまあいいかと思い放置。結果としては見事に元ツイートに雰囲気的には似ている数値が出てきてくれたので個人的な欲求は満たされました。平日の深夜に何してんだろうね。

 余談ですが、西武の数値が真面目に計算した場合以上に凄惨なことになっているのはパークファクター無視した影響がまあまああるかなと思っています。やっぱパークファクターも触らないとダメ?なんか今年ひどいことになってるっぽいし。


wRAAのことをどう説明する?

 ここでようやく表題の話になるのですが、「wRAAをどう説明したら(筆者のような)🐒にもわかりやすく伝わると思う?」ということを考えてみたいと思います。そういうテイで理解したっぽいことを出力して皆さんに添削してもらおうという魂胆もかなりあります。よろしくお願いいたします。

 打者1人の能力として見たとき、得点は打点の裏返しの記録になります。つまり、打点が「勝負強さ」だけでなく前の打者の出塁能力に左右されるのと同様に、得点も打者自身の出塁能力だけでなく後ろの「勝負強さ」などに左右されます。なので単純にチーム総得点を割り振っていくことは特に打者個人の能力を考えるにあたっては不適切なわけで、そのため得点期待値を用いることで後ろを無視して純粋な一人の能力を抽出できるようになります。この話の重心は恐らく「個人評価」にある。

 もちろんこの延長線上にWARがあり、そしてチームWARと勝敗数はよく相関することが知られています。ですが、チーム単位の話として「打撃で増やした得点」と言ってしまうと、なんとなく直感に反するような気もしてしまいます。先述の通り、個人を評価するために編成や打順などのチームの文脈を取り払おうとする指標であるため(ここが多分そうだろうと思ってるけどあんまり自信がないところなのでよろしくお願いします)。

 ではどう説明するかということなのですが、素直に得点"期待値"だよ!って叫べばいいのかというとそうでもないような気がするというかなんというか。「チーム打撃成績と平均的な野手の打撃成績の差から算出した得点増の期待値」。なってないはずだけどトートロジーに見えてきます。とはいえチームwRAAを説明しなさいと脅されたらこのように説明しようかなとは思いますが。
 ついでに、WARのオフェンスコンポーネントならwRAA算出に使うスケーリング前のwOBAにパークファクターが入るよ!ってデカい声で叫ぼうと思います。古来から「声のデカいは七難隠す」と言われております。自信がなければないほどデカい声で叫びましょう。バカを見つけた賢者が教えてくれます。

 最後にちゃぶ台を返すようですが、そもそもチーム単位の攻撃力がすごいって話をしたいときにwRAAを用いるのは適当なのか?という話はさせてほしい。なぜ野手の評価を得点ベースでするかと言ったら勝率と関係しているからで、今回のケースで意図していたことはチームの勝率はそれほど関係ないと思いますから、wRC+とかでもよくない?まあ21点取る『暴』を目の当たりにしたら得点ベースで話したくもなるか……


おわりに

 元のツイートへのリアクションは、自分の贔屓チームの数値で一喜一憂したりあるいは一歩踏み込んだ人でも「ホークスに平均が破壊されてる!」みたいなものが大半を占め、「これなんの数字なん?🤓」的なものは少なかったように見えました。筆者がひどく逆張りなことがバレるからみんなももっと逆張りしてくれ!

 持論というほどではないですが、特にNPBファンに顕著な傾向として、「指標は自分の好きなチームや選手がすごいということに理屈付けしてくれるもの以上のものではなく、その線を踏み越えて来ようものならいっそ見なくていいとなる程度だし当然理屈にも興味がない」という事があるように感じます。ですから極端かつ大変失礼な仮定になりますが、もしもそこそこフォロワーのいるアカウントが適当な乱数にそれらしいキャプションをつけてツイートしたらその指標を精査することなく盲信するのではないか?と思ってしまいます。

 いわゆる「ポジる」のを目的にいい感じの指標を探すのもいいけど、指標を目的として指標を見るのもまた楽しいですよ、ということを提案し、このあたりで筆を置きたいと思います。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


おまけ

 wRAAの話をしている割に前提になるwOBAの話をしなかったのは単純にめんどくさかったからです。あと自分がぐだくだ解説するよりはほんとうに素晴らしいBaseball Concrete様のブログを広めたほうが世のためであるという気持ちもあるので、最後にリンクを貼っておきます。セイバーメトリクスに興味を持った日本語を母語とする方はまずはここを導入とするといいと思います。


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