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『クレプトキング 月を見ていたかった兎』を終えて……

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『クレプトキング 月を見ていたかった兎』ご来場・ご視聴頂きましてまことにありがとうございます。
二時間半、オモシロおかしい時間を過ごして頂けたのなら、幸いでございます。

前作『クレプトキング』の続編ではありますが、幕を開けるまではどのようなご感想をいただけるかはわからないものです。
至極当たり前の事を言ってるなぁと我ながら思います。
『ラストスマイル』のように何度も再演をしている作品だとある程度は予想できるのですが、新作となると限られた短い時間の中で作って送り出す事に精一杯になりがちで、幕が開いた後の評価を想像する間も無く初日を迎えるものでして、今回はお客様の反響やご感想を想像する事も無く本番が始まりました。
なので、全く予想してなかった(Twitterでの)反響・ご感想の数の多さにいつもよりも素直に驚く事ができました。

近年の作品ですと『ラススマ』が圧倒的な反響があったのですが、それと同じかそれ以上の手応えを感じております。
たくさんのご感想ありがとうございます。
また感想を呟く事は無くとも作品に思いを馳せ、静かにタイムラインを見守ってくださっている方、
「いいね」などで感動を伝えてくださっている方にも大変感謝しております。
おかげで本番期間中も終演後も作った喜び(生き甲斐)を感じさせてもらっております。

この場を使って「あとがきみたいなもの」を述べようとキーを打っていますが、作品に関して伝えたい事は板の上にあった物が全てだと思っておりますので(尺の関係で実現しなかった事はたくさんありますが…)、内容やキャラクターの解説などしてご感想や想像の方向性を強制するのは野暮だと思う性分です。

終演後は反響頂けた要因である「本作品の良い所は何だったのだろうか?」と改めて考えている次第です。
なので、以下はまずそれを中心に書いてみます。

いつもと違うやり方だった所に答えのヒントがあるのでは?とまずはそれを列挙します。


▼今回、いつもと違う作り方をした点
・設定資料をいつもより書かなかった。
・謎を追う事がメインストリームに組み込まれていた。
・見得を切ったり、客向きに喋る演出がいつもより多かった。
・いつもよりアクションシーンの尺は少なかった。代わりに台詞が多め。ラストのアクション以外は手数を抑えるようにした。

パっと思いつくのはこれくらいですね。それぞれについて補足します。

・設定資料をいつもより書かなかった。
今回のキャラ設定は物語の出発に必要であろう最低限に止め、物語で描かれない事まで言及しませんでした。
理由は色々あるのですが、一つとして物語に描かれない事まで書いてしまうと、ついついそれについても言及したり、におわせたりしたくなる結果、「全体尺が伸びる原因になるのでは?」と思ったからです。
例えば来栖の幼少期のエピソードも設定には書いておらず、書いてる過程でエピソードが必要となった所で作りました。
裏設定を作り込まなかった恩恵として、板の上ある物だけで勝負する気概が生まれたのは確かです。
ただキャストにとってはいつもみたいな設定があった方が入りやすかったのかもしれません。
今後はいつもの設定量と今回の間くらいがいいのかなぁと目測を立ててますが、作品やキャラクターによるでしょう。


・謎を追う事がメインストリームに組み込まれていた。
今作は「犯人=于賀谷」を明かした上で事件の真相や彼の動機を明かさず、それを月斗達と共に追って行く話でした。
「謎よりもお客の興味を引く物はない」という言葉を何かで聞きましたが、まさにその通りですよね。
自分は推理モノをあまりたしなんでこなかったのもあり手持ちの情報量は少ないので、謎で引っ張るやり方は圧倒的に拙いですね。今後はもっと上手く扱えるようになりたいポイントです。


・見得を切ったり、客向きに喋る演出がいつもより多かった(主に月斗)。
エンタメ舞台作っている割には(台詞を言う相手が隣にいるのに)正面切って台詞を言う演出が気持ち悪く感じてしまい、苦手です。
苦手意識からか役者にそういった演出する事はあまり無いです。
そういった演出を否定する訳ではありませんし、他の人が作ったのを観るのは全く問題無いのですが、自分の作品でそれをやるのは避けがちです。
ファンタジー作ってる割にリアル感ある会話が好きで、互いに横向きで会話させるパターンを使う事が多いです。横向きの会話というのは自然に見えるし、キャストもやりやすいと思うのですが、上手にやらないとお芝居が閉じてしまい観客に届きづらくなります。

ですが今回の月斗は気付けば客向きに台詞を喋ってる箇所を「こちらが演出しなくとも」勝手に増やしてくれていて、気付けば司会者のごとく多くの台詞をお客さんに向かって投げかけてくれました。

稽古で見ていて「いつもと違う事やってるなぁ」と違和感を覚えてましたが、その違和感はそのままに本番までスルーしました。
自分は違和感を感じてるけど「これはこれでいんじゃないかな」と、すごく適当な直感が働いたのだと思います。
エンタメ作品で主人公ならばずっと正面切って台詞言ってるのは別に珍しい事ではありません。
ここは自分のこだわりを抑えるべきだなぁと…何より役者自らやってくれてるので助かりますね。

自分は「おしゃれなものが手放しで好きなクソ気取りヲタクの部類」だと思いますので、どうも高品質と高級感と高意識などが合わさった意味での「高いもの」を作りたいと思ってしまいがちなんですよね。
そして「自然な演技」と「エンタメ演技」だと前者の方が「高いもの」と頭の中ではカテゴライズされています。
例えば来栖と氷俥の演技を比較するとわかりやすいのですが、氷俥の方が割と自然な演技をしていて、おそらく自分の頭に思い描いてる好きなタイプのお芝居なんですが、
いざ今作品の舞台上となりますと来栖がやってくれたような「まるで二次元から飛びてて来たようなタイプ」かつ「芝居心満載のエンタメな演技」が目を引くし、舞台上でのグルーヴ感(観客のノリを上げていく感じ・盛り上がっていく感じ)を作り出してくれるのですよね(役どころや経験もあると思います)。

自分の「好きなもの」と「ウける物・表現に適した物」は区別しないと行けない例ですね。
見得と客向きに語り掛ける事、自然を越えた舞台リアルのお芝居。
これらは今後、意識的に使って行こうと今更ながらに思いました。


・いつもよりアクションシーンの尺は少なかった。代わりに台詞が多め。ラストのアクション以外は手数を抑えるようにした。

毎回ですが…作らねばいけないシーンの数が多く、最終的には数秒のカットをかきあつめて尺を30秒減らす事に躍起になるくらいなので、アクションをやっている時間もオープニングダンスの時間すらも惜しい…という状態まで追い詰められます。
それを見越して頭のシーンの方のアクション付けの際から、なるべくストーリーに必要最低限のアクション量に止め、物語をすばやく展開させていけるようにしました。
それでも「戦う姿を見せておきたい」というシーン(例えば「来栖&すず」が不善戒をなぎ倒しまくりのシーン)は残しました。

まぁ結果として今回の尺なのですが……(2時間を越える事は大罪であると思っております。ほぼ守れてませんが……)
それでも前半の物語展開がよくなったのは確かです。


以上、いつもと違った点の補足と反省と今後の展望でした。
今作で培ったもので脳内をアップデートして、次の物作りに生かしていきます。


最後に本作品を作る際に頭の中で起きてた事で、教えたかった事や苦労話をお伝えしようと思います。
話したいんです。聞いてやってください。

本作は「クレキンにはまず強力な悪役だ」というポイントから「タイムシーバー」を思いついた事が始まりになります。
またタイムリープモノは愛する人のためにその能力を駆使して、困難を切り開く物語(自作だとラススマ)がメジャーな所から単純にその逆張りをしたくなり、「于賀谷」という来栖にご執心のキャラクターが生まれました。
愛する人のために時を越える能力を使い、自滅して行く人間を描きたかったのです。

花奈さんがカーテンコールで言ってた内容はあながち間違いじゃありません。于賀谷が生まれたから構築されたストーリーなのだと思います。
于賀谷サマサマです。

于賀谷のコンセプトは「人の過去(人生)を盗むファントム」「時空ストーカー」、あとは「時をかけるストーカー」とか…w

「タイムシーバーを持つ、他人の過去を盗む時空ストーカー于賀谷!」
最強の悪役を作ったぞ!これは必ず面白くなる!と、最初は興奮してたのですが……
その悪役を倒すために月斗たちも過去へ行くとなると、想像もしてなかった壁にぶち当たりました。
タイムパラドックスが収拾つかないんですよね。時間軸の事を考えるたびに筆が止まるんです。

時間改変者の主人公と悪役がただ同じ時代にタイムトラベルしてるだけならば簡単なんですが、
悪役が更に過去をいじれるとなると話は別で、永遠に答えの出ない問題を堂々巡りに考え続ける迷路に突入します。

突破口になった考えは何点があるのですが、
・于賀谷もチート能力だけど、よく考えるとレン&月斗の方は更にチート能力者だと気付いた(でも于賀谷とのパワーバランス大事)。
・タイムトラベルの時間の改変のルールの正解は厳密には存在しないと気付いた(誰も時間を越えた人はいないから)。
・「改変者同士は書き換えを認識できる」設定を発明できた。


また于賀谷の心情についても書いてる時は理解しているのですが、それを演じるとなると様々な解釈が必要になり、演出の自分も演じてる鵜飼くんも相当苦労しておりました。
稽古終盤でもお互い迷子になっており、鵜飼くんが演じる于賀谷に脳内を刺激されようやく演じる時のポイントが見えて、それを伝えました。
それからは役の心情の流れを掴んでくださったようで、本番の于賀谷さんとなり、本番中も日々よくなっていきました。

ちなみにポイントに関してはここでは敢えてお伝えしません。

ただ報われない恋愛の中で愛する人を殺してしまうという事件は、人類が生まれた頃からずっとあったのだと思います。
愛する人を殺す感情はすでに存在しているのですよね。
異常ではありますが、残念ながら決して珍しい事ではないのです。

決して報われない恋愛にドン詰まり狂ってしまった人が最後に望む事って何かなぁ…と考えてみて、
やはり最後の最後まで一貫して、相手の気を引く事にあるのだろうなぁと想像しました。

オカルト的には有名な聴いた人間が自ら命を絶ってしまうという自殺ソングである「暗い日曜日(邦題)」という歌があるんですけど(自分はそういうの平気ですが、苦手な人は決して聴いちゃ駄目ですよ……)

その二番の歌詞ーーーーーーーーーーーーーーーーー

苦しさに耐えられなくなったらいつか、日曜に死んでしまおう
あなたが戻って来た所で、私は逝った後だろう
熱い希望さながらに蝋燭が燃えていよう
そして貴方に向かって力無く、眼を見開いていよう
怖がらないで、愛しい人 眼はもうあなたが見えなくとも
愛していた 命の限りと、語りかけるだろう
暗い日曜日
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

素敵な歌詞です。

人は恋愛成就の望みが全く無くなると、もはや本来の「恋人となる・付き合う」からレベルを一気に下げて、愛しい人に目にとめてもらうためなら(気を引くためなら)どんな事でもやってのけるようになるみたいです。それがたとえ自殺であっても……
そうすることでずっと受け入れてもらえなかった自分の情熱を相手にわかってもらえる…と考えてしまうからですね。

ラストシーンの于賀谷は来栖への思いを失っているので、上記の心情とはまったく違ってきますが、
愛する人(愛した人)に見つめられて死ぬのは、愛する者にとっての最上の幸福の一つではないのでしょうか……
※ただあのシーンで観るべきは「来栖の優しさと器」がメインなので、来栖の見守られた彼の死はその副産物であります。

パンフレットのあいさつ文は舞台をご覧になった人には「月斗・来栖と于賀谷の対比」だと想像できるように書いたつもりです。

愛した人を諦めて、その相手を思い浮かべてもさほど胸がざわつかない心になるためには普通、長い時間が必要です。
でも于賀谷は月斗の盗賊の篭手によって、その長い時間をまるでタイムトラベルで飛ばしてしまったかのように「諦」を得てしまったのですよね。
(「諦」に関してはパンフのあいさつ文をご覧ください)

これを演じる説得力を出すのは大変だったろうなぁと思います(簡単にやってのけると信じていましたが……)。

「人を愛する事…どうすれば愛する人に愛されるのか…何故、決して自分を愛さない人を愛してしまうのか…」という話題は、誰にとっても切実ですし、答えも沢山出てくる問題だと思います。
また機会があったら作品の要素に組み込んでいきたいですね。


そして副題の「月を見ていたかった兎」については、物語「冒頭」での認識と「ラスト」での認識が自分が望んだ狙い通りに感じてもらえているようで、ホっとしてます。
映像作品でタイトルをラストにもってくるパターンはおしゃれで好きなんですが、もし舞台上で映像を使えていたなら“あの瞬間”に「月を見ていたかった兎」をババン!と出したかったですね。


長くなりましたので、最後に下らない話をしておきます。

Pの前説にはなんと捏造部分があるんです!

「演出の宮城にこれだけは言えと言われて…」のくだり覚えてますか?
オチが赤いバルブというネタの……

アレ、捏造です。

しかもあのネタの滑り率は8割越えだったと思うので、自分は名義を貸した結果、面白い事を言う信用を貶められてきた被害者ヅラをしてもよいと思いますw
なので、僕はもっと面白い事を言える人間なんです。信じてくださいw

上記から生まれた決定的な因縁がありまして…(関係ありませんw)
自分はこの先少なくとも一年、長ければ二年以上になるかもしれませんが、
DMF/ENG提携公演の形で舞台をやる予定がございません。
悲しいですか。寂しいですか。
これはもう単純にスケジュールの問題です。

クレキンの三作目の構想はぼんやり決まっておりますが、それはまた劇場や企画が決まったあとになると思います。
割とすぐやるんじゃないかと期待していましたら、申し訳ないです。
ただファンの皆様の声は大事にされるとおもうので「キャストが年を取る前に早くやってあげて」の声をあげていただけたら幸いです。

来年は春と夏にオリジナルの新作に作・演出で入る予定です。
どちらも自分にとっては新ジャンルへの挑戦となります。

ENGとは別の会社さんとなりますが、自分の作品であることは変わりませんので、もしご興味ありましたら年明けくらいから出始める情報を追っていただけたらありがたいです。

そしてこの場をお借りして、私へのお仕事の依頼もお待ちしております。
コロナ下で色々と仕事が無くなりましたので、どうか干からびる前にお助けくださいませ。
また自作品の舞台以外の展開などのお話もヨダレを垂らしてお待ちしております(もちろん舞台も…)。

もしお話ございましたら、私までご連絡くださいませ。
yagimiya@gmail.com

今後ともENGとDMFと私をよろしくお願いします。


以下は個人的なリンクです。

▼DMFactory(自作品のためのサークル)の通販サイト
https://dmfactory.thebase.in/
前作「クレプトキング 脚本・設定資料集」はコチラでお求めいただけます。

▼自作品の上演希望の方に向けて「お手続き方法」と「作品ラインナップ」の紹介
https://note.com/yagimiya/n/n66ed2ecf370b


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