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ガンギマリの歯

3ヵ月に1度、歯のクリーニングをしに歯医者さんに行くのが楽しみ。
待合室の窓から山がよく見えて、好き。
クリーニングはとても気持ちよくて、眠ってしまいそうになる。
うとうとしている最中に、スタッフさん2人がかりで口を引っ張られて歯の撮影をされる。
皮膚を剥がすつもりなのかと思う程引っ張られる。
「右を向け」「左を向け」「私は右に行くがお前は左にいろ」など指示を矢次早に受け、自分の中心を見失う。
「歯を閉じて、イーッてしてください」と言われると、いつも思い出す。
中学生の頃、仲の良い友達がいた。
その子がある日の放課後、彼氏とのキスの話をしてくれたのだが、彼氏がキスをする度に舌を入れてこようとするのが嫌で、歯を喰いしばって壁を作り防御するのだという。
堪えられずに「どういう感じでガードしてるの?」と掘り下げたら、友達は「こういう感じで」と、しっかり閉じた歯をむき出しにして見せてくれた。目はガンギマリ系だった。
2人で笑い転げた。
どうしてもこの事を思い出してしまう。

真摯に歯の仕事をしてくれているスタッフさんは、私が今何を考えているかなんて知る由もない。
一生知らないでいてほしい。

学校は嫌いだったけど、今でも嫌いだけど、こんな思い出があると楽しかったような気がしてきてしまう。
あんなに嫌だったのに。怒っていたのに。
時間が経ったから何でも良いものとして変わってしまうのは納得できない。
ただ、中には良いものがあったのだろう。そんな気がしてしまう。馬鹿だとは思う。

1つ思い出すと、紐でくくられたように一緒に引っ張られて出てくる。
ガンギマリ系で話をした自転車置き場、授業中にふざけて怒られ続けた4つの机、美術室から見えた校庭、好きな人から借りたパーカー、良かったものは、良かったと思った心は、山が綺麗に見えて嬉しいと感じる気持ちに繋がっていて、その美しさはさめることなく、持ち続けているべきだと。
また3か月後にそう考えるだろう。
馬鹿だけどいいと思う。

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