ショートショートエッセイ

東京は息を吸うだけでお金がかかるので、息をはくように文章を書きたいです。

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干し柿と棺桶

おばあちゃんは干し柿が好きだった。 でも、私がそのことを知ったのは、おばあちゃんの人生がかなり終盤に差し掛かった頃だった。 おばあちゃんは、私が物心ついた時から…

降ります!

日々の通勤は電車を使うことがほとんどだけど、週1回のジムに行くときや、微妙に電車だと遠回りになる場所は、バスを使うことが多い。 東京は、結構バス網が張り巡らされて…

おにぎり論

前に、祖父の作る塩むすびが好きだと書いたのだけど、基本的におにぎりが好きだ。 お茶碗に盛られたごはんはあまり量が食べれないのに、おにぎりにした途端、はむっと食べ…

学生時代に使っていた古い東芝のノートパソコンを、さすがにもう処分しないとと思いながら、数ヶ月、いや数年が経った。 予定のない週末に、少しお酒を飲んで寝ようとした…

答案用紙はラブレター

この季節になると、地下鉄のホームに「受験生頑張れ!必勝!」みたいなポスターを見かけることが多くなる。 職場でも、「娘が今週末受験だから、飲みにも行けない」なんて…

銀座であんみつ

最近、銀座のあんみつの老舗が閉店するとニュースになっていて、そういえばと思い出したことがある。 小学生の頃、母の出張にくっ付いて、よく東京に来ていた。 その当時…

サンタさんとごま和え

この前、お子さんがいる会社の先輩と 「いやー、ヨドバシからまだ届いてないんですよね、子供のクリスマスプレゼント。」 「あー、今年は運送業者も大変そうですもんね。」…

新宿ミュンヘン

私が初めてお酒を飲んだのは、20歳の誕生日を迎えた、その0時だった。 「こうと決めたら絶対にこう!」という頑固さがあるので、お酒は20歳になるまで飲むものかと心に決…

しょっぱくて、何が悪い

以前祖母との思い出を書いたのだけれど、これはその祖母の夫、つまり私の祖父との話。 我が家は共働きだったけれど、夜ご飯はできるだけ家族揃って食べようというルールだ…

世田谷代田、下北沢。

街が好きだ。 特に、時の流れにそって街が表情を変えていくところが好きだ。 上京して初めて住んだのが、世田谷代田という街だった。 下北沢から小田急の各駅停車で1駅。 …

電球を交換したら地雷を踏んだ話

地雷というのは不意にやってくる一瞬の衝撃だけれど、踏んだ時の記憶はずっと後まで残る。 小学校に上がるか上がらないかの頃、父と二人で実家のリビングにいた。 録画し…

ガールズ

すぎゃとは高校生の時に出会った。 それから10年ほどが経って、お互い変わったり変わらなかったりするけれど、ついにすぎゃが結婚することになった。 すぎゃと私は同じ高…

フクラハギ、カタイネ。

大きな仕事を終えた時は、達成感よりも安堵を覚える。 5ヶ月ほど、会社で翻訳のようなプロジェクトを進めてきた。 英語のメッセージを、日本人の社員やスタッフに伝わりや…

火山灰ドライブ

父と二人で行ったドライブは、それっきりだったと思う。 元々車酔いが激しかったので、好んで車に乗るタイプではなかったのだけど、家で遊び相手もいない土曜日に、「一緒…

歌うようにパンを食べる

パンには旬がないけれど(正確に言うと小麦のおいしい季節はある)、パンが一番おいしく感じられるのは雨上がりだと思う。 綺麗にしつらえた真っ白なテーブルクロスにクロ…

世の中仕事は色々ある

いつだったか登録した転職サイトから、定期的に「おすすめ求人!!」のようなメルマガが送られてくる。 「完全リモート、金融コンサル」 「年収600万、ノルマなし営業」 …

干し柿と棺桶

干し柿と棺桶

おばあちゃんは干し柿が好きだった。
でも、私がそのことを知ったのは、おばあちゃんの人生がかなり終盤に差し掛かった頃だった。

おばあちゃんは、私が物心ついた時から、既に持病を患っていた。
糖尿病で入退院を繰り返していて、歩くと転んで危ないから、手押し車のようなカートを頼りに、日常生活を送っていた。

入院していない時期は、私が小学校から帰ると、おじいちゃんとおばあちゃんが我が家で「おかえり〜」と言

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降ります!

降ります!

日々の通勤は電車を使うことがほとんどだけど、週1回のジムに行くときや、微妙に電車だと遠回りになる場所は、バスを使うことが多い。
東京は、結構バス網が張り巡らされていて、乗りこなすと便利だよなあと思う。
普段電車で通り過ぎてしまっている区間も、バスに乗ると、「あのお店、ここにあったんだ」とか「この商店街良さそうだな」とか、見えなかった街の風景が見えるから、そういう意味でも、たまにバスに乗って視点を変

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おにぎり論

おにぎり論

前に、祖父の作る塩むすびが好きだと書いたのだけど、基本的におにぎりが好きだ。
お茶碗に盛られたごはんはあまり量が食べれないのに、おにぎりにした途端、はむっと食べやすくなって、好き。
というか、好きか嫌いか選べと言われたら、全国民の過半数は好きと言う食べ物だと思うので、別に珍しい話ではないけれど、私自身がおにぎりを好きになったのは、明確なタイミングがあった。

高校3年生の時、私には食欲がなかった。

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光

学生時代に使っていた古い東芝のノートパソコンを、さすがにもう処分しないとと思いながら、数ヶ月、いや数年が経った。
予定のない週末に、少しお酒を飲んで寝ようとしたら、上手く眠れなくて目が覚めてしまった朝2時。
手持ち無沙汰ゆえに、いつもやらないことをやろうと思い立ち、デスクの上で、もう絶対要らないチラシや雑誌が積み重なった下に、ひっそり潜んでいたそのパソコンの電源を、ずいぶん久しぶりに付けてみた。

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答案用紙はラブレター

答案用紙はラブレター

この季節になると、地下鉄のホームに「受験生頑張れ!必勝!」みたいなポスターを見かけることが多くなる。
職場でも、「娘が今週末受験だから、飲みにも行けない」なんて嘆きを耳にしたり。
本格的な受験シーズンだ。

私は高校まで北海道で育ち、そこから東京大学に入った。
一応現役で合格したし、一応4年で卒業した。
客観的に見て、胸を張れる学歴だと思う。
それでも「受験」という文字を見ると、受験生だったあの頃

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銀座であんみつ

銀座であんみつ

最近、銀座のあんみつの老舗が閉店するとニュースになっていて、そういえばと思い出したことがある。

小学生の頃、母の出張にくっ付いて、よく東京に来ていた。
その当時、母は札幌で仕事をしていたのだけど、仕事だけでは飽き足らず、もっと勉強したいと言って、東京の大学院に通っていた。
平日は朝から晩まで仕事、土曜の朝に飛行機で東京に行って、日帰りか日曜に帰ってくるというハードスケジュールをこなしていた。

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サンタさんとごま和え

サンタさんとごま和え

この前、お子さんがいる会社の先輩と
「いやー、ヨドバシからまだ届いてないんですよね、子供のクリスマスプレゼント。」
「あー、今年は運送業者も大変そうですもんね。」
なんて話をしていた。
世の中ではこの週末、沢山のクリスマスプレゼントが行き交うのだろうけど、それを運んでくれているのはサンタクロースではなく人だという当たり前に、気付いたのはいつだったろう。

我が家では、「サンタクロースを信じない人に

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新宿ミュンヘン

私が初めてお酒を飲んだのは、20歳の誕生日を迎えた、その0時だった。

「こうと決めたら絶対にこう!」という頑固さがあるので、お酒は20歳になるまで飲むものかと心に決めていた。
だから、20回目の年を重ねる瞬間まで、取っておいたのだ。

初めて飲むビールはとても香ばしくて爽快で、味わったことのないおいしさだった。
家族からは「強いだろう」と言われていたので、体に合わなかったら落ち込んじゃうなと内心

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しょっぱくて、何が悪い

しょっぱくて、何が悪い

以前祖母との思い出を書いたのだけれど、これはその祖母の夫、つまり私の祖父との話。

我が家は共働きだったけれど、夜ご飯はできるだけ家族揃って食べようというルールだった。
大抵父が19時頃に帰ってきて、1時間ほどかけて丁寧な料理を作り、20時半あたりに帰ってくる母を待ってから、いただきますの時間。
当時小学生の自分には、これが結構つらかった。
12時過ぎに学校で給食を食べてから、20時半までのあいだ

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世田谷代田、下北沢。

世田谷代田、下北沢。

街が好きだ。
特に、時の流れにそって街が表情を変えていくところが好きだ。

上京して初めて住んだのが、世田谷代田という街だった。
下北沢から小田急の各駅停車で1駅。
初めて降り立った時、「閑静な住宅街」という言葉はこういうことを言うんだな、と妙に納得したのを覚えている。

私は高校を卒業したタイミングで上京することになったが、そもそも東京の土地勘などないし、受かると思っていなかった大学に合格してし

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電球を交換したら地雷を踏んだ話

電球を交換したら地雷を踏んだ話

地雷というのは不意にやってくる一瞬の衝撃だけれど、踏んだ時の記憶はずっと後まで残る。

小学校に上がるか上がらないかの頃、父と二人で実家のリビングにいた。
録画した格闘技の試合をテレビで見ている時に、パチっと電球が消えた。

父は「切れた」と言って、試合を一時停止し、面倒そうな足取りで、洗面所の棚に閉まっていた替えの電球を取りに行った。
幸いストックがあったので、父はダイニングテーブルから椅子を1

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ガールズ

ガールズ

すぎゃとは高校生の時に出会った。
それから10年ほどが経って、お互い変わったり変わらなかったりするけれど、ついにすぎゃが結婚することになった。

すぎゃと私は同じ高校に通っていて、2人とも軽音楽部に所属していたから、そこで知り合った。
かわいくて、スタイルが良いキラキラ女子、というのが第一印象。
演奏スキルが高いわけでもなく、ただ単にバンドに憧れて軽音楽部の扉を叩いた私たちは、自然と一緒にバンドを

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フクラハギ、カタイネ。

フクラハギ、カタイネ。

大きな仕事を終えた時は、達成感よりも安堵を覚える。

5ヶ月ほど、会社で翻訳のようなプロジェクトを進めてきた。
英語のメッセージを、日本人の社員やスタッフに伝わりやすいよう、日本語に翻訳するという仕事。
気難しい作家の文学作品を翻訳するわけではないので、ハイレベルな日本語センスや英語スキルを必要とするものではなかったのだけど、想像以上に頭と体と時間を駆使しなければいけなかった。

10人弱のチーム

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火山灰ドライブ

火山灰ドライブ

父と二人で行ったドライブは、それっきりだったと思う。
元々車酔いが激しかったので、好んで車に乗るタイプではなかったのだけど、家で遊び相手もいない土曜日に、「一緒に行くか?」と父から声をかけられて、「うんー」と生返事をしてついていくことにした。
確か、私が小学校2年か3年の頃。

その日の目的地は、有珠山。北海道でも有数の火山だ。
有珠山の周辺には熊牧場もあったのだけど、残念ながら熊ではなく、我々の

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歌うようにパンを食べる

歌うようにパンを食べる

パンには旬がないけれど(正確に言うと小麦のおいしい季節はある)、パンが一番おいしく感じられるのは雨上がりだと思う。

綺麗にしつらえた真っ白なテーブルクロスにクロワッサンを鎮座させ、朝日を浴びながら食べるホテルでのモーニングもそりゃ贅沢だろうけど、個人的にはパンのベストはそこではない。

前日の夜に雨がざあっと降って、まだコンクリートが湿気を蓄えている朝。近所のなじみのパン屋でパンを買う。
優柔不

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世の中仕事は色々ある

世の中仕事は色々ある

いつだったか登録した転職サイトから、定期的に「おすすめ求人!!」のようなメルマガが送られてくる。

「完全リモート、金融コンサル」
「年収600万、ノルマなし営業」
のような、まあありがちな求人も沢山あるのだけれど、そういうまともなものに混じって、たまにファンキーなやつが影を潜めている。

①「残業なし!AV動画のモザイク処理」

これは、私のどういった志望や傾向を捉えて、送られてきたものなのだろ

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