カルテⅠ 流氷、キマイラの男(ネタバレ含みます)

さてさて、出崎版ブラック・ジャックの感想やらを書いていこうと思います。

※当然の様にラストシーンから何から全部書いてます。初見で楽しみたい方はご注意を。


まずはその記念すべき第1話である「KARTE Ⅰ 流氷、キマイラの男」です。

まずは公式サイトより作品紹介を引用。

原作は『ハリケーン』というタイトルで、孤島に暮らす瀕死の老富豪を看病する若い妻とその秘書が、遺書を書きかえるまで、老富豪を延命させてくれとブラック・ジャックに依頼してくる、という物語でしたが、このアニメ版ではその老富豪がキマイラ病という謎の風土病に冒されていて、ブラック・ジャックは治療法不明のその奇病に立ち向かう、という物語になっています。これは原作マンガではブラック・ジャックと敵対しつづけるドクター・キリコがアフリカで謎の風土病に冒される、というエピソード『99.9パーセントの水』からの引用です。https://tezukaosamu.net/jp/anime/110.html

引用ここまで。

紹介にもある通り、「ハリケーン」という原作の話をモチーフにしております。しかしそこに原因不明の奇病に立ち向かうブラック・ジャックという要素が加わることでイントロダクションとして非常に適した形になっています。

・あらすじ

クロスワードという富豪に手術を依頼されるブラック・ジャック。クロスワードはとある孤島に古城を改築した豪邸を構えている大富豪、そんな彼は突然全身が激痛に襲われる発作を起こす謎の奇病に侵されています。水を飲めば痛みは収まるもののその後に全身から飲んだ水を汗の如く排出してしまうのです、ベッドの端から流れ落ちて床がびしょ濡れになるほどに。その病気はクロスワードの館の反対側にある村でも発症者が次々と出ている風土病のひとつ、「キマイラ」と呼ばれる物でした。水を飲めばおさまる激痛の発作、そして水を排出し患者の身体はみるみる消耗する…そして最後には青い炎のような光を吐いて死に至る致死率100%の難病に、村の唯一の医者である女性の兄も感染し発症、最後には息を引き取ってしまう。

次の発作で自分は青い炎を吐いて死ぬと語るクロスワード、彼は元々この島の出身で家族全員がキマイラにかかり、村人に自分以外の家族を焼き討ちにされた過去を持つ男でした。そして彼はブラック・ジャックに「命乞いの為に呼んだわけではない、発作が起きる自分の身体を開いてキマイラの正体を明らかにする為に呼んだのだ。」と迫ります。発作が起きる患者を解剖する、これまでクロスワードを診た医者は誰もしてこなかった…できなかったことでした。発作中の患者は激痛にのたうち大きく暴れ回る、そこにメスを入れて開胸を行う事はあのブラック・ジャックですら「そんなことどうやってやるつもりだよ」と自らを嘲笑う程に不可能な事でした。

一方で村では井戸が枯れる現象が起きていました。キマイラの痛みを和らげるのに必要な水が手に入らない…それはクロスワードが地下水を巨大なポンプで汲み上げるせいだ、アイツのせいだと村人の憎しみの炎は大きく燃え上がります。そしてそれを表すように村人達は燃え盛る松明と鋭利な武器を手にクロスワード邸を焼き討ちにかかります。

時を同じく、クロスワードの手術の為にブラック・ジャックが彼を車椅子で運び医務室へ向かいます。そこでクロスワードはポツリと「しまった、今日はあれにまだおはようを…」とこぼします。彼には小百合という若い日本人の妻が居ました。小百合は過去ブラック・ジャックに美容整形手術を施され、そのおかげで大富豪クロスワードと結ばれた女性です。クロスワードの子供を身籠った彼女と、クロスワードとは歳の差はあれど愛し合っていました。「戻りますか。」と尋ねるブラック・ジャックに「ワシがうろたえてはあんたのメスが鈍る」とクロスワードは断りを入れてエレベーターの中から妻へ朝の挨拶を口にします。それが彼の最後の言葉でした。

手術台についたクロスワードは最後の発作を起こします、手足を拘束してものたうち暴れ回り手がつけられない。ひるむブラック・ジャックでしたが「彼の目がやれ、切れと訴えかけている」とついに執刀を開始します。

そして村人の焼き討ちも始まります。警備を押し退け、屋敷に火を放ち村人達は暴れ回ります。小百合は運良くクローゼットの中に匿われるも、彼女をかばった秘書兼小百合の浮気相手デイビッドは村人達に殴り倒されてしまいます。

開かれたクロスワードの心臓付近には青白く光り輝く「何か」がいました。しかひそれを見つけてすぐに発作の最終段階が訪れ、クロスワードは口と開かれた胸部から青い光の柱を発しながら絶命してしまいました。

手術室へ到達する村人たち。そこには息絶えたクロスワードを抱えたブラック・ジャック…彼は村人たちに「クロスワードは誰も憎まず、ただ病気と懸命に戦っていた」と語ります。

「道を開けろぉっ!」

ブラック・ジャックの咆哮に村人達は引き下がり、道を作ります。そしてブラック・ジャックは小百合のもとへクロスワードの亡骸を連れて歩き出します。

その後テレビのニュースではキマイラが取り上げられています。村唯一の医者であった女性がその驚くべき生態を語りつつ、まだ何もわかってないことと変わらない、これからも戦わねばならない…と言った辺りで物語は終わります。


・共演する親子

声優界で親子ともに声優、というのはままある話でありブラック・ジャック役大塚明夫氏とクロスワード役の故大塚周夫氏もその一組です。

特筆すべきは大塚周夫氏の芝居の凄まじさ。静かで淡々と威厳ある老人を演じながら、己の死を悟り不気味な笑い声を上げながらキマイラを語る一種この世ならざる存在かのような芝居すらこなす…しかもそのひとつひとつが本当にかっこいいんです。ブラック・ジャックに過去を語るシーンのラストの笑い声は大塚周夫氏にしかできません…ちょっと邪悪な笑い方が抜群に上手いんですよ。

それに応える大塚周夫氏も流石の一言。以前書いたように、出崎版ブラック・ジャックというのは頭身が高くガタイも良くちょっと四角形な造形のダンディな奴、だから普段は凄くクールな演技が多いんですよ。

それだけに最後のシーン、ここ一番での「道を開けろ!」の叫びに、ガツーンと真正面からぶん殴られたような衝撃を受けるんです。と、同時にこういう所が「あ、ちゃんとブラック・ジャック先生だ!」と感じられるんですよね。ブラック・ジャック先生なら絶対ココは怒って叫び出すぞ!って所でバッチリ決めてくれます…流石に原作よりかはそれでも控え目ですけどね、原作ならもう二言三言叫びながら村人達の中に割って入ろうとしそうですし。


・クロスワードと小百合と、時々デビッド

あらすじではクロスワードとブラック・ジャック、そして村人に絞りましたが…妻の小百合も重要な人物です。

彼女は老齢のクロスワードと結婚し、彼の発作にも付き添って大量の水を冷蔵庫から持ってきます。ボトルで持ってきて、ちゃんとコップに移し替えて渡すんですよね、一回一回小百合が注ぐんです。恐らくそれは発作が起こる度に毎度やってるんです、とんでもない献身性と言いますか…。

そんな彼女と浮気をしてるのが秘書のデビッド。初っ端から教会で彼女の身体をまさぐってキスするシーンがあります、さすがはOVA!

先も書いたように小百合の腹にはクロスワードの子供が居ます、人伝に小百合に妊娠の傾向があることを聞いたデビッドはそれを「自分の子だ」と言います。そこまでこの二人は関係を深めてるわけですね…まぁ小百合に「この子はクロスワードの子、女にはそういうのはわかる」と否定されるんですが。

その挙げ句「本気で小百合の事を好きだ」と告白しても小百合には振られる上に経費を誤魔化して横領してる事を指摘されます。ここの辺り、内面的に女から母に変わってるんですよね小百合は。クロスワードの妻であり母であるというメンタルになってるのでデビッドの本気の告白なんて何にも響かないんですね。

更にはクロスワードにも「小百合の気が紛れるならと放置してたが、もう小百合にも気が無いようだし何時でも辞めて出ていっていいぞ」と言われちゃいます…哀れデビッド。

しかしそんな彼も最後に良い働きをします!村人達の焼き討ちにあう屋敷の中で、小百合のもとへ駆けつけ彼女と使用人の女性をクローゼットに匿います。「俺決めた、会社辞める!」なんて言いながら。その後小百合の使っていた点滴器具を持って殴りかかりますが数には勝てずボコボコにされます…哀れだけどちょっとカッコよかったぞ。

小百合の点滴と急に書きましたが、彼女は本編中風呂場でコケて腹を打ち胎盤剥離を起こして大出血してしまいます。そしてブラック・ジャックがオペにかかるわけですが「母体は80%、子供は20%の確率で助かる」なんて言います、しかし小百合は「子供だけは何としてでも助けてくれ」としか言いません…完全に母親です。

それにブラック・ジャック先生は「両方助けるつもりだよ」と返します、くーっかっこいー!それを有言実行しちまうのもまたカッコいい、我らがブラック・ジャック先生です。


・伝説の風土病にして悪魔、キマイラ

そして…何をおいてもとかく恐ろしいのが風土病「キマイラ」です。

最終盤に明かされるその真実はなんと「普段は見つけにくい場所に居て、血液の浸透圧に差が出た時に活動するその時にしか発見できない」というもの。そりゃ落ち着いてるクロスワードを何度切り裂こうが見つかるわけはありません。

作品紹介で『99.9%の水』(キリコが原因不明の水が溜まる奇病に侵される話です)がモチーフだと書かれていますが、内容的には『弁があった!』も入ってそうですね。アレは息が通ってるときにしか開かない(=手術中にはどうやっても見つからない)弁が存在していた、という話です。99.9%の水の要素がより顕著なのはKARTE Ⅳの方でしょう、病気のトリックとしてはあちらの方が近いと思います。

そしてこの話ではクロスワードの館に盗みに入る少年も登場します、少年の父もキマイラに侵されています。その父に飲ませる水を汲む井戸が枯れかけてしまっている為、もっと深い井戸を掘る為に金目の物を盗みに入ってるわけです。

彼は番犬に足を噛まれ大怪我を負いますが、ブラック・ジャックの処置により大事には至りませんでした。

その後彼の父もキマイラには勝てず、息子から差し出された水を口にする事なく青い光を吐いて死んでしまいます…彼は号泣し、村を上げての弔いの時にも涙を流していました。

しかし…そんな彼も村人達の焼き討ちの列に加わってしまうのです。村唯一の医者、ミネアが止めても聞きませんでした。彼女も兄がキマイラにかかり本編中に命を落としているにもかかわらず、憎しみの報復に異を唱えていました。

クロスワードもそうです、自分以外の家族を皆殺しにされ逃げ延びた先で井戸に落下し沈み溺れかけるという凄惨な過去を持ちながら彼はキマイラにのみ敵対していました。金目の物を盗まれ続けても、特に彼から進んで村に報復とかはしてませんでしたからね…執着するまでもないくらいの金があると言われてしまえばそれまでですが。

この話を初めとして、出崎版にはブラック・ジャックが原因不明の奇病と戦う、どちらかというとミステリーだったりSFな話がいくつかあります。割合としては原作よりも多いと感じますね。そしてこの話に限らず、とかく人が死にまくります。時に病気、時に戦闘、時には呪いで…全滅エンドも珍しくありません。奇跡を描きながら、反面で現実的なところを嫌でも突きつけて来る非常にダークな話が多いです…しかしそれ故に少しばかりの希望がより輝き、ブラック・ジャックが頼もしく見えるんでしょうね。

しかしそんな出崎版にも「ああ、ここは原作らしいなぁ」と思うのは終わり方ですね。その後小百合がどうなったかとか、クロスワード邸がとかデビッドがとか、一切描かれないんです。手術室からクロスワードを抱いて出ていくシーンで殆ど終わりなんです。この引き際は「間違いなくブラック・ジャックを見てるんだ」と感じられて非常に好きなところですね。胸の辺りがざわざわして落ち着かないところでもあるんですが…。

ちなみに、ピノコは出て来ますがあまり大きな役目はありません。少し大人っぽくなってるピノコではありますが、まだ扱いに困ってるんでしょうか…?


・おわりに

第1話の感想はここまでです。あらすじや引用含めてとても長くなってしまいました。

第2話以降も名ストーリー揃いなので早く書きたいですね…。

まぁ次回はカルテ10の感想を書くんですがね!順不同で行こうかと思います!

それではまた。お読みいただきありがとうございました。



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