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入管法改定案のこと

「イエスは彼らに言われた。『あなたがたに尋ねますが、安息日に律法にかなっているのは、善を行うことですか、それとも悪を行うことですか。いのちを救うことですか。それとも滅ぼすことですか。』」(ルカの福音書6:9)

当時のユダヤ社会には、安息日規定というものがあった。ユダヤ人にとって土曜日は安息日と呼ばれ、その日にはいかなる仕事もしてはいけないという細かな規定が定められていた。だから、指導者たちは、イエスの弟子たちがお腹を空かせて麦畑の穂を摘んで食べているのを見て、非難の声を浴びせました。また、イエスが人を癒すことも安息日のルールに違反することだと考えて、イエスを罠にはめて訴えようとしました。

冒頭の聖書の言葉は、イエスがその指導者たちに言われた言葉です。そもそも、「人が安息日のために造られたのではなく、安息日は人のために造られたのです。」(マルコ2:27)ですから、安息日に神様のみこころにかなっていることは、人に善を行い、人のいのちを救うことです。安息日の規定を守ることによって、人に悪を行い、人を滅ぼすことではありません。

人が定めたルールを守るために、人のいのちを殺す。こんな矛盾が世の中にはまかり通ってしまっています。今の日本にも同じことが起きています。

移住連のHPから

2023年3月7日、入管法改定案が了承され、これから審議が開始されようとしています。移住連やSTARTという団体などが反対を表明しています。私は、Choose Life Projectというメディアのyoutube配信を通して、この件について詳しく知ることができました。

入管で収容中に亡くなったウィシュマ・サンダマリさん

2023年4月6日、当時の様子が記録されていた監視カメラの映像の一部を弁護団が公開しました。上記のChoose Life Projectの配信で観ることが可能です。映像には、2021年3月6日にウィシュマさんが亡くなってしまう前日までの、衰退している彼女と入管の職員たちのやり取りが収められています。見るに耐えない内容でした。

尿検査で飢餓状態であることが判明していて、一刻も早く点滴を施す必要があったにも関わらず、入管は彼女が亡くなるまで点滴を与えませんでした。彼女自身が点滴をしてほしいと訴えていたにも関わらずでした。

STARTの方々など、外部から何度訴えかけても、責任者は「大丈夫だ」の一点張りだったそうです。入管は「救えるいのちを救わなかった」のです。2007年から現在まで、収容施設内で18名のいのちが失われています。

どうして、このようなことが日本で起きてしまっているのでしょうか。それは、入管職員一人ひとりの道徳的な問題というよりも、入管組織の問題です。入管が実質的に目的としているところは、収容者を追い詰めて、強制送還に応じさせることです。だから、ウィシュマさんが飢餓状態になっていても、さらに彼女を追い詰めるために、必要な治療を与えなかったのです。これは、確かな拷問です。

しかし、社会からは入管の対応を正しいと見なして、むしろウィシュマさんを責める声も上がっています。「不法入国者、不法滞在者は国に帰るべき」、「法を犯している犯罪者なのだから、処罰を受けて当然だ」などの声です。法律を守るために、人のいのちを殺してもいいのでしょうか。イエス様は、そんな誤った考え方をしている私たちに、冒頭の言葉を語られたのです。神のみこころは、法律を守ることではなく、むしろ善を行い、いのちを救うことです。

日本人も外国人も、神様が「神のかたち」に造られた人間です。人は人のいのちを尊ばなければなりません。今回、監視カメラの映像が公開されたことで明るみに出ましたが、入管が隠れて行ってきたことは、人のいのちを踏みにじる重大な罪です。

多くの外国人の方々が日本に住んでおられます。在留資格を持たずに(持てずに)、日本に滞在しておられる方々がおられます。それぞれに事情があるのです。むしろ、日本人が当然のように享受している権利やサービスが受けられなかったり、コミュニケーションがうまく取れなかったりして苦しい思いをしている方々が多いです。だから、法律違反している人達だと遠目から非難するのではなく、寄り添って隣人になろうではありませんか。イエス様は「良きサマリア人の例え」をもって、神のみこころを教えてくださっているのですから。

また、在留資格制度の法律自体に不備があることを知ることは大切です。国際基準を満たしていない法律のゆえに、「不法」扱いを余儀なくされている方々が何と多いことでしょうか。

在留資格制度の不備

日本の難民認定率は0.7%(2021年)です。この認定率の低さや長期無期限の収容など、またその原因である法律の不備は、国際社会から非難され続けています。

それにも関わらず、在留資格制度を国際基準まで改善するのではなく、難民認定されない99%以上の「不法滞在者」を強制送還しやすくするために、政府は法律を改定しようとしています。これは、改悪だと思います。

2021年にも改定案が提出されましたが、ウィシュマさんの事件で入管の暴挙に対する社会の関心が高まり、廃案されました。しかし、殆ど同じ改定案が再び提出されました。政府は、この問題に真摯に向き合っていないと言わざるを得ません。

改定案の具体的内容は、主に4つです。送還停止効の例外(3回以上の申請者を強制送還)、送還忌避罪の創設(帰国に応じなければ罪に)、監理措置制度(民間の「監理」の下で施設外生活)、補完的保護制度(”準難民”の設置)。詳細は、上記の移住連のサイトなどをご参照くださればと思います。在留資格制度が取れずに苦しい思いをしている人たちを助ける制度ではなく、取れない人たちをさらに追い詰める制度です。まず政府がするべきは、在留外国人が安心して暮らすことができるために、在留資格制度そのものを改善することではないでしょうか。

だれのための法なのか

入管法改定案の審議は4月中に行われ、採決されるのではないかと予測されています。人のいのちに直結する重大な法案です。この法案は人のいのちを救うものではなく、人のいのちを殺すものになり得ます。

もっと時間をかけて、市民の声を受け止めがら、議論するべきものだと思います。今、移住連やSTARTが反対の署名を集めています。市民の声を上げていくことによって、この改定案が廃案となりますように。むしろ、在留資格制度が改善され、日本人も外国人も共生しやすい社会へと変わっていきますように。

神様は国籍によって人を差別されません。すべての労苦と苦痛を見つめておられます。「主よ なぜ あなたは遠く離れて立ち 苦しみのときに身を隠されるのですか」と私たちは問います。しかし、主は見ておられます。正義をもって国々をさばき、虐げられた者をかばってくださるのです。私は神様の義を信じます。

「あなたは見ておられました。労苦と苦痛を じっと見つめておられました。それを御手の中に収めるために。不幸な人は あなたに身をゆだねます。みなしごはあなたがお助けになります。」(詩篇10:14)



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