根源を探り、足下を知る旅

埼玉県秩父市大滝の巻


最初の話

 ついに、義父の兄弟が全員鬼籍に入った。
最後は長男の叔父で、90歳であった。

 生前叔父が言うことには、先代の出自は富山県であるという。富山の五箇村だと聞いていたらしい。現在の砺波市の中にある町である。
どうやら街の分限者であっった祖先は、相撲興行に失敗して出奔したのだといった。その際に、曽祖父にあたる息子を連れて出たらしい。
 叔父から聞いたのはそこまでであった。叔父にしても自身の祖父が語ったことか、父に聞いたことなのか、判然としない。なにしろ80代後半だもの。
 とにかくそれを調べてみようかと思った。今はネットという便利なものがあるし、昔のことでさえデータとして保存してあるのだから、五箇村がどんな土地かはすぐにわかるはず。今は市町村合併などで変わっているだろうけれども、辿れると思った。ところが五箇山は存在するが、五箇村自体は見つからない。五箇荘村ならあった。後でわかることなのだが、実は「五位山村」が正解。叔父の聞き間違いのようだ。
 大滝の役場で祖父の戸籍を取ったらわかると叔父が言っていたので、春、菩提寺の枝垂れ桜が美しい時期に訪ねてみた。
 平日の昼過ぎ、役場はまるで人気がなく、職員以外の人影はほぼない。そう言うこともあって、職員方は面白がって探してくださった。面白いことに、祖父を起点にして、曾祖父、その妻、祖父の従兄弟、義父の兄弟たちまで、たくさんの人の情報があった。ただ、取り出したのが祖父の戸籍だったため、曾祖父の情報には限りがある。しかし、祖父の出自については、曾祖父が富山を出奔してから群馬に移動して、群馬で生まれたことがわかった。

そうだ、群馬に行ってみよう。

ある朝、夫が唐突に言った。
 

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