冬の温度

冬の温度を思い出した。

もうすぐ2年になる部屋を朝早くに出ていつもの駅へ、いろんな思い出のある東京駅からバスに乗り成田空港へ。第3ターミナルも、たくさんの出来事や気持ちをら思い出せる場所。来るたびに、気持ちも状況もちがう。次はどんな気持ちで飛行機に乗るんだろう。

新千歳空港に定刻より早く着陸して、まず外の空気を吸った。これだ。低い太陽が雪と雪の溶けたアスファルトに反射してまぶしい。なにより鼻から肺まで入ってくる空気が冷たい。空気の匂いの違いは、空気がきれいかきたないかというより冷え方の違いなんだと思う。はしゃぐ気持ちをおさえながら雪を掴んでまるめて放ってみた。新雪を踏む音も、車が走ってしゃりしゃりした雪を踏む音も、すべてがなつかしくて嬉しかった。

父さんといとこが空港まで迎えに来てくれて、そのまま苫小牧へ。約2年ぶりにばあちゃんに会いに行った。

家族たちは、こんな親不孝めな僕にも子供の頃と変わらなく、接してくれる。とやかく干渉することもない。だからこそ僕はしっかりと生きて行かなくちゃならないな。ジャックラッセルテリアの姉妹は11歳になってて、前よりもずっと年老いていた。
でも、ばあちゃんは変わらず元気だった。再来週、79歳になる。会えるときに会いに行かないとなって思ってたんだけど、ほっとした。あったかそうな靴下をプレゼントしたら、とてもよろこんでくれた。5年前に死んだじいちゃんにゆっくり手を合わせた。じいちゃんに手を合わせるときだけ、みんなには言えなかった本当のことを伝えた。バイクにまたがっていた昔のじいちゃんの写真が、僕に似ていると言われて、僕ははじめてじいちゃんに似てることを実感して、なんだか嬉しかった。じいちゃんばあちゃんは、ずっと昔札幌ですごく繁盛する肉屋をやっていた。ばあちゃんが、商売や接客業をずっとやっていた頃をなつかしく話していて、僕もそんなふうに働けたらな、と思った。

ばあちゃんといとこたちに手を振って着いた苫小牧駅で、19歳のあの夏や、エルキューブでライブをしたあの日やあの日のことをはっきりと思い出した。あれから4年も5年も経っていた。そりゃあ僕だって24歳になってしまうよね。

がらがらで静まり返った列車に乗って、2012年の夏の魔物に公募で行ったときの寝台列車のことを思い出している。19歳のような無敵さはもうない。なにもこわなくなかった。あの頃はたくさんふさぎこんだ出来事があった。今ぼくは、そういうことを恐れているのかもしれない。それかもう、少しの痛みには鈍くなってしまったのかもしれない。それでいいかは、わからないけれど。

そんなことをココア飲みながらいい気分で書いていると、切符拝見します。と車掌さんに言われ、これは特急券が必要な電車だと知った。ふぐに特急の料金を支払った。車掌さんは最初怖い顔をしていたのに、去り際にやさしい顔で笑ってくれた。ここにいられないような、気持ちになった。

僕はこんなんでほんとうにいいのだろうか。

2年、やりたいことをろくにやれずに過ごした。無駄ではないだけど、思ったようにいかないことがもはや当たり前になってしまっている。

僕のやりたいことで、やっていることで、誰かが笑ってくれていただろうか。誰かの力が湧いたんだろうか。

自分にだけは嘘をついていない。つもり。
ほんとうにそうかい。僕自身に問いかけても、なにもわからない。僕はまた大切なひとに、嘘をつくんだろうか。

さっきの車窓さんが、やさしくて丁寧な調子で終着札幌です。とアナウンスした。

ただいま札幌

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