いつかピアニストに恋をするかも

思えば僕のしっかりとした恋心が芽生えたはじめてのひとはピアノの弾ける女の子だった。小学六年生の時、その子が気になりはじめ、その子のピアノは格別だと気がついた。隣のクラスの何人かの子の伴奏とはなにか違っていた。贔屓目はあったにせよ、その子のが弾く卒業式の歌・旅立ちの日に のあの前奏は、いつぞやのかわからない練習用の古ぼけたカセットテープのそれよりもずっと潤いを含んだ繊細さで弾んでいた。カセットテープがいくらのびきっていたとして、僕の記憶はもはや今やそれと同等に古ぼけている。それこそが僕の感じる過去への美徳なのか。僕が女性に惹かれるきっかけはずいぶん単純なままだけれど、気持ちが加速する理由はその頃から変わらないのかもしれない。

そういえばその子がくれたブックカバーと美ら海水族館のステンドグラスみたいな栞は今も使ってる。誕生日にくれたのか、ただのお土産だったのか僕はもうわからなくなっている。階段でどんな話をしたかは覚えている。僕もそんな贈り物を贈れる人になりたい。そういえばその栞はどの読みかけの本に挟んであるんだろう。

職場の人となんとなく酒を飲んで帰る道、なぜだろうそんなことを思った。いちにちあけて飲む生ビールだったし、今日はこれでいいんじらないかしら。

酒のせいで心にもないことなんか言わないが酒のせいで心にもないことを思ったりはする。好きな靴にとっては歩きにくい道だよ。

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