僕の黒髪を切ってくれたひとたち

あまり人には話してこなかったけど僕は北海道と北海道のハーフで、辿っていくと父方は九州、母方は関西。先祖のお墓は増毛と砂川のあたり。北海道に北海道という名がついてちょうど150年らしい。北海道はおおいに盛り上がるわけでもなくセイコーマートの店内放送だけが誇らしげにアナウンスをしてたよ。北海道が開拓された少し後に、ひいおばあちゃんおじいちゃんの親たちが北海道に移り住んだんだと思う。ちなみにファイターズは北海道に来て15年。ホームグラウンドが札幌ドームから北広島になるみたい。とおいね。北広島は札幌の近くの郊外都市で、広島県広島市と姉妹都市だったような気がする。こちらに帰ってきて嬉しいポイントのひとつが、ファイターズ戦がテレビで中継されたり、テレビニュースも頻繁にやってたり、スポーツ新聞の一面もだいたいファイターズなこと。僕の野球熱、再燃の兆し。

というわけで、僕には今のところ黒い髪の毛が生えてくるし今のところ抜けたらちゃんと生えてきてる。2歳ぐらいまで髪の毛があまり生えなかったものの、しっかり生えてからは家の洗面所にある「床屋・父さん」に通いつめ、物心ついた頃から今までずっと同じマッシュルームカットな髪型をしている。(厳密に言えば中学生の頃だけ癖っ毛が強くて髪の毛をアイロンのようなもので真っ直ぐにしたり、髪の毛をワックスとスプレーのようなものでつんとさせてみたりした。高校生のときは兄の行きつけの美容室に挑戦してパーマをかけたりしていた。床屋父さんの経験しかなく、見知らぬ人に髪の毛をいじられるのはとても勇気がいることだった。でも異性にもてたいと考えていた。思うようにはいかなかった。結果に恵まれていたら音楽を演奏したいとは思わなかったと思う。恋をすることそして振られたことが僕の原動力だった。やや恥ずかしい話)

そんな思春期の最中、僕はロックンロールに出会ってしまう。ライブハウスにいくと前髪のそろった人がじつに多く、僕はごく自然にマッシュルームカットを復活させた。この髪型の魅力はメンテナンスのしやすさにある。ただ乾かすだけ、ぱつんと切るだけでいい。
18歳の頃、バイト代も限られていたからピーズ好きなロックンロールフレンドのれなちゃんに散髪をたのんでいた。絵やデザインの才能のせいか腕が良かった。いつも紙パックの赤い日本酒を飲んでいたのでそれをお礼にしていた気がする。れなちゃんは今、自分の好きなことを仕事にしていてかっこいい。このあいだ吉祥寺のライブハウスで偶然会ったときは片手に紙パックの影はなくオレンジのお酒を飲んでいて僕はそれはそれであたたかい気持ちになれた。
20歳頃からは同級生のお父さんが美容師だったので、今度は「美容室・友達のお父さん」にしばらく通う。そこで僕はバンドのフロントマンたるもの、かっこよくあらねばと思いパーマをかけてみたり髪の毛を茶色めにしたりもした。友達のパパは話しているだけで楽しくて髪を切り終わるとビールをくれた。それをお店で一緒にのんで、また話をした。自分の親に話さないこともたくさん打ち明けたな。
22歳の年、東京には床屋・父さんも美容室・友達のお父さんもないので、恋人に散髪してもらっていた。物書きで料理上手でカレー好きだったせいか腕前がよかった。レコードをかけながらバスタブの縁に座って切ってもらう。レコードを一回ひっくり返した頃に散髪はおわる。風呂場の排水がよく詰まった。100均に画期的グッズがあるよって大志さんが教えてくれて解決した。ちなみに、誰に切ってもらっても前髪だけは自分で担当していた。だいたい切りすぎて眉毛が見えちゃっていた。
そう、僕はおでこが広く眉の形もしゃきっとしていないし、うすい顔なので、おでこを人前で出すことは結構ためらいがある。風呂上がり前髪を上げていると母さんや大志さんが褒めてくれて嬉しかったけど、僕にはこの髪型しかないと信じてきた。それにこんなに楽ちんなのでやめられなかった。だけど近頃メジャーシーンに名を馳せるバンドもマッシュルームカットが多く、僕がバンドをやっていると話せば、なんとかなんだかってバンドとか好きでしょうなどと身に覚えのないことを言われ、その度に心をいため、相手を呪った。顔が良い男はなんでも似合うのにわざわざマッシュルームにしなくたってもいいじゃない。ね。酔っ払いのおばさんには蛍原さんと言われることが多い。顔が似てなくもないだろうし蛍原さんに好感を持っているので笑顔で対応する。品の良いおじさんだけが、ビートルズみたいだねと言ってくれる。僕はやっと満足気な顔をする。髪が伸びるほど髪型に対するコメントは増えてきて疲れるし、バイト先なんかでも、やはりあまりいい印象を与えないのではとか、いちおう心配にもなる。お隣さんに会うときも、はたしてこの髪型はと自分で思う。6月23日には25歳になる。

来たる木曜日、ついに髪型を変えようと意気込んでいる。札幌に帰ってきたので「美容室・友達のお父さん」(もちろん本当はすてきな名前があります)に行ける。ぜつだいな信頼。まさに絶好機。したいヘアースタイルなんてないし僕に他に似合う髪型なんてあるのかという不安は拭えない。髪の毛のすごいところは、伸びるところだし、似合うも似合わないも見慣れてしまえばいもういいし。思い切って切られてみよう。変わり映えしなければ勇気がなかったんだなって笑ってほしい。いっそ似合わなさを笑ってもらえるくらいがいいのかも。そしてけっきょく僕は髪の毛に触れられるたびにうんざりするのかもしれない。思うほど人は自分を見ていないよ。もちろん髪の色はこのまま黒でいるつもりだよ。

そのときどきの悩みと共に付き合ってきた髪型の話はこれで終わりです。自分で読み返してなんてことをこんなに長々書いたんだろうと思いました。

きょうの日記
友達が家にあそびにきてくれてとてもたのしかった。またあそぼうね。


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