水辺にて①

影が伸びてゆく。
肌に張り付くような潮の匂いが、目の端から鼻の奥へと流れ込んでくる。

6月。
網戸を開ける。
鈍く光っていた街灯の輪郭がくっきりと現れ、同時に湿気た香りが頭の後ろらへんをくすぐる。
波は良い。風も良い。
陽が昇るのを待ち続けるバス停の青い看板が、木々の隙間に見え隠れしているのも、なんだか良い。
私もこの景色に溶け込んでしまおうと、サンダルを引っかけて外へ出た。

夜はまだ涼しいが、背にはもう温もりが差している。
空っぽのレジ袋を宙めがけて目一杯広げて、風を感じる。こんな夜明けには、こんな夜明けに似合う歌がある。

いつしか凪いだ水面と、あたりを包むしじま。どんな歌が似合うだろうか。

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