赤ちゃんは手に希望や夢を握りしめて生まれて来る

今書いている小説の一節です。

 「ねえ、リオ、この子を抱いてみて」
 「え?」
 「怖いよ。壊しちゃいそうで」
 「大丈夫よ。そっと抱けば。でも落とさないでで。立ったままだと危ないからそこの椅子に腰掛けて」
 理生はベッドの足元の椅子を小さなベッドの側に移動させて腰掛けた。
 恐る恐る両手を首とお尻の下に差し込んで持ち上げて、慎重に自分の胸の辺りに抱き寄せる。
 柔らかく、温かく、か弱い。相変わらず人間というより猿の子のように見えるが可愛らしく、愛おしい。
 ギュッと握った両手をモゾモゾ、モゾモゾ動かしている。
 「赤ちゃんはみんな最初は手を握っているのよね。赤ちゃんは手に希望や夢を握りしめて生まれて来るんだって。落とさないように、失くさないようにギュッとね。そして生まれ出て時間が経って、握った手を開いた時にその夢や希望が手から離れて飛び散って行くの。そして、その自分の手から飛んで行った夢や希望を探して取り戻すために人は生きているんだって。さっき看護師さんに教えてもらったのよ」
 この手を開いたら夢や希望が飛び散るのか。じゃあいつまでも握っていたら良いのに。と理生は思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?