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どんな時でも手を動かす やることで身につくし、身についたことは残るから


【杉の舎】屋久杉工芸


県道から見える杉の舎さんの看板

屋久島空港すぐ近くの『杉の舎(すぎのや)』さん。

店舗は多くの観光客や島民が行き交う賑やかな県道沿いですが、店舗裏の工房は、豊かな緑に囲まれた趣のある木造建築。

木枠のガラス戸を開けると職人の渡辺さんと、大住(おおすみ)さんが出迎えてくださいました。

左から大住さん、渡辺さん


鋭い刃が上下に動く帯のこは、大物の屋久杉をカットしたりする作業。「指を刃の近くまで動かすので、慣れていても緊張感を伴う」とお二人が口を揃える。

大きな屋久杉を切るための帯のこ

やすりのベルトが自動で回るベルトサンダーは、カトラリーや一輪挿しなど、小ぶりの作品の形を整えるとのこと。

渡辺さんが工房奥にあるベルトサンダーで、ぷかり堂でも人気の丸い一輪挿しを削る作業を見せて下さいました。天井まで渦高く伸びる複数のベルトが、スイッチと共に動き出します。手のひらよりも大きい丸い杉を胸の高さ程で水平に固定し、高速回転で回す木工ろくろで縁を少しずつ削っていきます。

丸一輪挿しを削る様子

らせん状の木くずが勢い良く木材から飛び出し、空中にも更に細かな木くずが舞います。

慣れた様子で渡辺さんは、更に繊細で滑らかなカーブを削りだしていきます。安定感のある所作に見とれてしまいました。


一旦手を止めて、使っている道具を説明して下さいました。槍のような、木製の持ち手に先端が鋭くカーブした80センチほどの削り道具。なんと渡辺さん自ら作製した手作りとのこと。ご自身の身体や力加減などに合わせた、より作業しやすくアレンジした道具達。複数あるようです。

槍のような削り道具
作業しやすくアレンジした削り道具

お次は、ぷかり堂で販売している通称「いちりんこ」という小さな一輪挿しを、大住さんが実際に削る作業を見せて下さいました。


いつもお店で見る「いちりんこ」は、表面はつるつるで、カーブや直線もきれいに仕上がっていますが、目の前のビフォー「いちりんこ」は、ざっくりとカットされ、花を挿す穴がポツンと空いた一見積み木のようなミニ木材。大きさも形も様々です。



いちりんこを削る様子

これらが、あの個性的な「いちりんこ」にどのような変貌を遂げるのか?モーター音を聞きながら期待が高まります。

と、迷いなく削り始める大住さん。木材を握った瞬間、設計図が浮かぶのか、みるみるうちに滑らかなカーブが生まれ、側面の木目がどんどん浮き出てきました。

綺麗なカーブをつけたいちりんこ

予想以上に速い手さばき。角だらけだった木材達が、あっという間に唯一無二の「いちりんこ」に大変身。お見事です。

完成!

そして、もう一つスプーンを製作する作業も見せていただきました。

こちらも木目の流れや質感大切にしたもので、味わいのあるスプーンです。

スプーンのもとになる木材

一つ一つ彫刻刀のような道具で削り出していきます。

膝の上で固定しながらやるのが一番しっくりくるのだとか。

膝の上で作業する様子

固定して、さらに力を入れ続けるので気づくと体が固まってしまうそう。見た目よりも体に負担がかかるようです。


実際に当店で販売しております

売り場に移動し、作品を見ながらゆっくりお話しさせて頂くことに。看板猫さんがお出迎えしてくれました。

看板猫の「ないちゃくん」

大小様々な作品が目の前にずらりと並んでいます。元々師匠の中島さんが創業された「杉の舎」。そこに弟子となるお二人が加わるきっかけになった時の話を聞いてみました。


インタビューの様子

ぷかり:中島師匠との出会いや工房を始めたきっかけって何だったんですか?

渡辺さん:鹿児島で教師をしていたのですが、他に何か出来ないかと考え、木工をやってみようと。

屋久島を訪れ、木工に関する場所を巡っていた際、はとやさんというヤクザルの屋久杉の置物で有名な工房で、中島師匠が作り手を探しているかもと聞き、宮之浦の【仙人村(せんにんむら)】の中島師匠に会いに行きました。

それがきっかけです。

ぷかり:それはいつ頃ですか?

渡辺さん:丁度、中島師匠が【※仙人村】を作っている頃で、20年くらい前だと思います。

※現在宮之浦にある宿泊施設を併設している工房のこと。その一帯を仙人村と呼んでいます。

ぷかり:そうなんですね。雰囲気のある建物なのでもっと昔に作った建物かと思ってました。

渡辺さん:中島師匠に弟子入りし、一年後に大住さんも入社しました。

大住さん:懐かしい…。

渡辺さん:こちらの小瀬田の【杉の舎】は中島師匠が40年くらい前に作って、2013年からこの【杉の舎】を中島師匠から経営も任されて、[いちりんこ]もその時誕生しました。

ぷかり:そうなんですね。それこそぷかり堂が2012年に出来て、まだ実績のない状況だったんですが、中島さんに何か卸して頂けないかとお願いしたら、「何か出してあげないとねぇ。」と考えてくださり、一番の看板商品のお箸「仙人さんの箸」を卸して下さったんです。

渡辺さん:今、私が【杉の舎】を引き継いで丸11年くらいですね。中島師匠も、こちらの工具や機械を使いたい時など来て、ここで製作したりしてますよ。大家さんとして雨漏りを直しに来たりも(笑)

大住さん:私は入社した時は販売やお店のことをする役割でした。小さい子達の子育てしながら・・・

ぷかり:そうなんですね。大住さんが製作されているというのは知らなくて、結構あとになって知りました。いつも店頭にいらっしゃるイメージだったので。

大住さん:製作することになったキッカケは次男で、次男が発達障害を持っていることが分かって、これからのことなど考えていたところで、製作の方もやってみないかと提案がありました。元々ものづくりも好きでしたし、工房内で手仕事を学んでみたら息子の将来や自分の暮らし方にも良い影響があるのではと思い始めてみました。

ぷかり:そうだったんですね。

大住さん:次男が種子島の学校に通学するようになって、その後入所施設の中に工房があって色々な作業をするんですが、雨の日に室内でできる作業はないかと施設から相談を受けて、【杉の舎】の屋久杉の磨き作業とか、簡単な小作業なら入所者の方々にもして頂けるのでは。ということになりご縁ができました。

ぷかり:なるほど。

大住さん:今では、【杉の舎】が材料を提供して、種子島の福祉施設や鹿児島でのイベント等で自分たちで製作して販売もしているんですよ。

渡辺さん:大げさに言うと地域貢献にもなっていたり、人手が足りない作業もあるのでこちらも助かっています。

ぷかり:社会的な拡がりになったんですね。

大住さん:夏休みに子供が屋久島に帰ってくるんですが、川で遊ばせながら、屋久杉のスプーンをくり抜いたりしてました(笑)

ぷかり:えー!

大住さん:中島師匠の教えで、『子育ても大事だけど、手を動かさないといけない。やることで身に付くし、身に付いたことは残るから』と。学びの時期でした。余るほどやってトントンです。

ぷかり:私も子供たちをおんぶしながら店に出ていました。その時は大変でしたが、社会とつながり続けるということが大事だと思っていました。今ではその積み重ねはかけがえのない宝物になっていますね。

取材後記

取材時に、昨年春に鹿児島にオープンしたホテルシェラトンのスイートルームに、渡辺さんの作品がオブジェとして飾られいるとお聞きしました。その日の夕方のニュースの中の特集でシェラトンホテルを紹介しており、偶然ワタナベさんの作品を見ることが出来ました!

モダンな広々としたゴージャズなお部屋に、悠然と堂々と佇んでいる屋久杉のオブジェ。品のある存在感が印象的でした。

​また、ホテル入り口のラウンジにも展示されているとのことで画像もいただきました。

これからのお二人のご活躍、杉の舎さんの発展、楽しみにしております。

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