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バイトをせずに、大人になった

高校生時代、バイトをしている友達が凄く羨ましかった。まだまだ若く未熟な子供(だと思っていた同級生)が、自分の力でお金を稼いでいる姿はかっこよかったし、羨ましかった。
「三連勤キツいわ〜」
「今日バイト休みだぜ〜!」
「バイト先の先輩がさ〜…」
こんな会話をしている同級生の中にバイトを経験したことが無い私が入れる訳も無く、「サッカーの練習だから」と学校が終わってすぐに家に帰り練習に向かうという毎日に明け暮れました。

当時の自分は、バイトをしている17歳とベレーザで試合に出ている17歳を天秤に掛けたとき、前者が思っている以上に重みを含んでいました。2つの重さがイコールとは言い切れないけれど、サッカーも大好きだし楽しかったし(いや、17歳のサッカーは色々あった)、でもそれと同じように、みんなと同じように17歳を過ごしてみたいという気持ちがありました。

結局私は一度もバイトを経験すること無く大学生になり社会人になるのですが、大学時代は有り難いことにサッカー選手として「夢」についてをお話しするというトークショーと、子供達とサッカーをするサッカー教室という2つを組み合わせたお仕事を頂きました。(あれだけバイトが羨ましかったのに、何故かバイトでは無く仕事として受けていました)※お仕事はこんな感じです
そしてさらに有り難いことに、高校時代に聞いていた時給換算での給料と比べものにならないお金を頂きました。
「ここのバイト、時給が良くてさ〜」
「こないだ時給がちょっと上がったんだよ」
という会話を聞いていたので、この子は○時間働いて一日で○円を稼いでるんだな、とか、今から買うこれは大体時給○時間分だなとかを考えていたのですが、実際自分が仕事をしてみるとその会話に収まらない額を頂くことになりました。

自分が自分の力でお金を稼げるようになった嬉しさはもちろんあったのですが、自分のサッカー選手として積み上げてきたものに対して価値が生まれ対価が払われていると考えると、高校や大学で同級生がバイトでお金を稼いでいる仕事と、自分がお話をする、サッカーをするという仕事で、本当に価値に差が生まれるのか?と毎回疑問に思いながらお金を頂いていました。

その疑問・問いに対する解が出たわけでは無いけれど、自分的に腑に落ちる出来事があって。2019/01/01の皇后杯決勝、パナソニックスタジアムでINACとやった試合で、試合への入場前にある女の子と出会いました。私はその子と手を繋いで試合に入場をするのですが、皇后杯決勝、日本女子サッカーの頂点を決める試合、そんな大きな試合のこの場にいる女の子ということはきっと自身もサッカーをやっていて選手に興味を持っている子なのかなと勝手に思っていました。
「(照れながら)名前を教えてください」
正直に、その時の私は一応代表選手としてプレーもしていたし、ベレーザでもその年のリーグ戦を優勝していたし、勝手に知られていると思っていたので名前を知られていないとはびっくりしました。自意識過剰ってやつですね。確か、自分の前に並んでいた長谷川唯の名前も知らなかったとその子は言っていたような気がします。

結果、私は試合で2ゴール決めるという活躍ができ優勝をすることが出来たのですが、試合後のスタンドには、その女の子が試合入場時に来ていたウェアに「サインが欲しい」と私を呼んでいました。サインをして女の子の顔を見上げると、涙を流している女の子の姿。
その子とたくさんの言葉を交わせた訳では無いし、その子が自分に出会って何を感じて涙を流したのかは分からないけれど、きっとアスリートの存在意義ってこういうことなんだなと、今でも鮮明に記憶に残っています。


話は変わりますが、今年の夏に行われた一年遅れの東京オリンピック。コロナ禍ということもあり、普通ではない状況で行われた大会で、無観客という異常な状況も生まれました。(それが通常になってきている今が怖いですね)SNSで情報がたくさん溢れる今、そんなSNSを見てオリンピック期間中に悲しくなることが沢山ありました。自分が傷付いた訳では無いのですが、正当な批評と非難・避難の違いがハッキリ分かったからこそ、悲しくなることが多かったです。
ということを話していると、東京オリンピック=ネガティブになりかねないのですが、決してそんなことはありません。オリンピック後、私を応援してくれていた人達の「ありがとう」という言葉が入ったメッセージを見ると、スポーツの力は凄いなと感じると共に、ありがとうと伝えたいのはこっちだよ、と伝えたくなりました。

その「ありがとう」を、私がアスリート側に伝えたいと心から思ったのが、先日名古屋で行われたJFLへの昇格入れ替え戦でのCriacao Shinjukuの選手、スタッフの方々です。いつも自分は応援される側で、何かを与えなければいけないと考えている側でしたが、心から応援したいと思う人達を心から応援をすることがどれだけ美しく、時に残酷なものなのか、自分の頬に流れてきた涙がそれを物語っていると感じました。

少し話を戻すと、自分が仕事をして稼ぐ額が同級生がバイトで稼いでいた額よりも多くなった理由は、サッカーにしか、スポーツにしか、また私にしか生み出すことの出来ない価値があるからであり、その価値を受け取る側の人生を良くも悪くも大きく変えることが出来るからなのかな、と今は両方の立場を経験して改めて、そして強く感じています。まだ自分が持ち続けている疑問が綺麗に無くなったわけでは無いけれど、今の自分なりの解です。

もちろんバイトが効率悪いとか、否定的に言っている訳では無く、私は今でもバイトへの憧れを変わらず持ち続けているし、カフェでのバイトは私の色褪せない夢の1つです。
どなたかカフェでバイトを募集している方がいらっしゃいましたら、是非お声がけください(笑)

ということで、2021年の総括を総括っぽくなく書いてみました。ここまで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。

私は来季、期限付き移籍でプレーをしていた「Linköping FC」というチームに完全移籍をしてプレーをします。
オリンピック以降、あまりSNSに触れること無く静かに頑張っていたのですが、来季は自分の葛藤やもがいている姿、頭の中をなるべくありのまま届けられるように、何かのツールを使って皆さんにお届けしていきたいなと思っています。
「こういうツールだと使いやすい」というのがあれば、コメントください。

皆さん、よいお年を!

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