岩松了『市ヶ尾の坂-伝説の虹の三兄弟』を観てきました。(修正しました)

(2018年8月13日に修正しました)
実は岩松了さんと松村武さんがごっちゃになることがよくある。そんなの私だけだろうか。今回、この舞台を見てめでたくちゃんと覚えることができた。もう間違えない。 
3兄弟は市ヶ尾の坂にある一軒家に住んでいた。そこに訪れる芸術家の妻・カオル(麻生久美子)と次男・隼人(三浦貴大)の会話がまどろっこしくてリアリティがあった。同じような年齢なのだろうか。お互いを意識している。部屋の中を移動する隼人は、カオルとの距離を詰めないように動いている。会話は差しさわりのない会話でどこに着地するのかと思ったら、カオルが今度写真を持ってきますと言ってきた。次会うための約束なのか。借りたレコードも持って帰らない。またこの家に来るための口実にするのか。
距離を測りすぎて遠い位置から話す二人と対照的なのが長男・司(大森南朋)だ。彼もカオルのことを女性として意識していて、こちらはすごい勢いでグイグイくる。物理的に近いわけではないが、距離感が近い。
三男・学(森優作)は強いこだわりを持った人物だ。カオルの息子が好きだというキャラクターグッズを買ってきて、どうしてもカオルが買ってきたと言って渡せという。そのためにどのような店で買ったかを説明し、結局カオルはつじつまが合わせられるようにその店まで行くことになる。彼もまたカオルに好意を持っているようだったが、彼の様子を見ていると、カオルに、と言うより、異性そのものに対する興味だったかもしれない。
1992年の話だ。人との適切な距離感を保てない長男と、強いこだわりを持つ三男が、家の近くの別の郵便局にそれぞれ勤めているということに意味を感じる。当時は勤め人の多くが正規雇用だったイメージがある。フリーターという言葉はあっただろうか。派遣社員という職種はなかったか、あったとしても今ほど認知はされていなかった。そう考えると、意味があるような気がするのだ。
対して次男は定期券を使って公共の交通手段で都内に通勤している会社員だ。大きなスーツケースを持って出張に出かけるような、普通の会社員だ。次男はしばしば長男と三男の間でバランサーのような役目を果たしていた。両親がいない3人の兄弟が生きていくにはきっと次男の存在は欠かせない。次男もそれをきっとわかっていて二人を疎むことなくバランサーとしての役割を果たしながらも兄弟として対等だった。
3人の兄弟は実在しているかのような存在感があった。変わっているけど司は長男としての自覚があり、実際に長男らしく感じた。次男の隼人は本当に普通で平凡だが変わり者の兄と弟を疎む様子はなかった。二人のことを大好きだという気持ちが伝わってきた。ちょっと手のかかりそうな、学校でトラブルを起こしそうな兄と弟がいて、こんなにまっすぐに二人に接することができる次男は存在するだろうかという疑問は多少ある。だが三浦貴大の隼人にはそんな負の感情は見えなかったし違和感はなかった。三男の学は長男とは違う方向に「変わっている子」だったが、それは二人の兄に守られていたせいかもしれない。
女性は二人登場する。3兄弟が思いを寄せるカオルとカオルの家でお手伝いをしている安藤(池津祥子)だ。3兄弟が丁寧に描かれているのに対して、どうにもこうにも納得いかないのはこの女性二人だ。カオルは美しかった。見た目も話す言葉も美しかった。時折腹の底を見せるような言葉を発するところも、美しい彼女が発するからどす黒くも美しかった。そんな彼女に3兄弟の感情は振り回される。ただ、びっくりするほどカオルに共感できなかった。カオルはただただ美しく描かれるためにいた女性だった。ラストのチラっと見せた足首が、やっぱり彼女は性的対象として存在したんだと思わせた。私が彼女に共感できないのは、麻生久美子がその役割を完璧に果たしたからだ。
安藤はカオルの清楚さとは対照的ないわゆる肉食系の女性として描かれていた。つまり兄弟にとって性的対象である女性が2パターン用意されていたということである。女性2人に共感できないのは、人間として描かれているのではなく「性的対象である女性」を置いていたからだろう。登場人物すべてに感情移入をしようとして見ていたから混乱したが、登場人物のうちの男性側からの視点で見るともっとすっきりとした舞台だったかもしれない。この舞台では男性登場人物と女性登場人物をフラットな関係性を求めて見てはいけなかった。

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M&Oplaysプロデュース「市ヶ尾の坂-伝説の虹の三兄弟」

作・演出:岩松 了
出演:大森南朋、麻生久美子、三浦貴大、森優作、池津祥子、岩松了

日程・会場:
5/17(木)~6/3(日) 東京・下北沢 本多劇場
6/7(木) 福島・白河文化交流館コミネス
6/9(土)・6/10(日) 大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
6/12(火) 富山・富山県民会館 ホール  ※この公演を観ました。
6/14(木)・6/15(金) 愛知・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
6/17(日) 静岡・三島市民文化会館 大ホール

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