チャリカルキ公演『居場所』
(ネタバレがあります。ご注意ください)
小松の街並みはかなり古く範囲が広い。金沢をしのぐほどだという文章をウェブ上で見たのはいつだっただろうか。町の中心には加賀藩三代目藩主前田利常の隠居城小松城の天守閣跡があり、その周辺にある教育機関や公共施設は小松城跡地に建つ。チャリカルキ公演の会場であった「こまつ町家文庫」は小松城址に程近い商店街にあった。手前に店舗、土間を通って中ほどに古本の本棚があるスペースがあって、ここまでは天井が高い。土間はそのまま奥まで続くが、おそらくその奥は水回りだろう。奥まで行かずに部屋に上がり10畳ほどの床の間のある部屋へ入る。そこが演技スペース兼客席だ。金沢芸術村にある里山の家のような感じを想像していたのだが、よく考えたら里山は農村地域で家はそこそこ広い。町家は間口が狭く奥行きがある土地に隙間なく家が建っているので、なるほど、そうだよなとこの狭さに一人納得。ここでものすごく飲み物を勧められたのだが持参していたため断った。後でよくリーフレットを読んだら、ワンドリンクの注文が条件だったらしい。ライブハウス方式だったのか。よく調べずに行ってしまって申し訳なかったなぁと家で反省した。
公演は2本立てだった。
二人の保育園児が安心して通える保育園を目指して冒険に出た。名前はタイキとジード。目指すは待機児童のない国。隣の国の保育園まで通っているタイキは弟と同じ保育園に行きたいと願っていた。親戚のおばさんに預けられていたジードはお母さんが安心して働けるように保育園に入りたいと願っていた。待機児童のない国にはそれぞれの事情を抱えた子どもたちが保育園に入りたくてこの国までやってきていた。そこへこの国の女王が現れて入園希望者一人ひとりと面談する。
二人の保育園児がパワフルで、とても分かりやすく保育園児の「男の子」「女の子」だった。二人以外の登場人物はすべてビーグル大塚が一人で演じる(一部、会場のオーナーや客席を巻き込む)。大塚は子どもも大人も演じるのだが、タイキとジードを含めてとにかくわかりやすい芝居だった。演じた瞬間にその役のイメージが固定するようで、見ていて迷いが生まれない。実際にあった待機児童についての事例が元になっているのでラストには、現実世界と同じだ…!と変な衝撃を受けてしまった。すっかりタイキとジードの大冒険というファンタジー世界に気持ちが飛んでいて、現実とは違う素敵なラストがあることを期待していたようだ。
場面が変わると今度は現実の大人の世界だった。女性が「タイキとジード」の絵本を読み終わったところだが、絵本の世界とはリンクしていない。
女性は売れない演歌歌手。マネージャーと二人で地方にキャンペーンにやってきた。そこで高校時代の先輩に再会する。かすかな記憶の中で先輩に告白された記憶があるようなないような。返事をしたかどうかも曖昧な記憶だ。崖っぷち演歌歌手はマネージャーに促されて先輩を色仕掛けで落とそうとする。ただ、この女性、美人なんだけど色仕掛けで落とすタイプではない。先輩が言うには告白の返事もその場で即答で断ったというサバサバした女性。普段はスーパーで働いているこの女性はただ歌が好きで、何かに媚びることなく自分らしく生きている感じがして、ただただ好感が持てた。
その後、事務所に契約を切られることになった演歌歌手だったが、大物作曲家が彼女を評価していたためハッピーエンド。その大物作曲家と彼女の間で橋渡しの役目を担っていたのはかつて振られた先輩だった。先輩は先輩で、今は亡き大好きな妻との思い出を大事にしながら幸せに生きている。演歌歌手のために一生懸命だったマネージャーも彼女が大物作曲家に認められたためこの後きっとマネージャーとしての力を発揮していくだろう。話は素直に素敵だった。ただ、この人たち、前半は幼稚園児と胡散臭い女王様だったんですよ。このギャップが味噌。狭い空間で見せられた二つの芝居と役者のギャップが観客を魅了した。満足度が高い。前半、幼稚園児が歌っていた劇中歌が2週間たった今も頭に残っているのもすごいと思う。
チャリカルキ20周年記念公演
Mama-CHARIKARUKI vol.12『居場所』
キャスト
≪タイキとジードの冒険≫
タイキ……森耕平
ジード……早野実紗(ナイスコンプレックス)
語り……ビーグル大塚
会場の店長
≪ここが故郷≫
丹羽島咲子……早野実紗(ナイスコンプレックス)
山田一郎……森耕平
長岡聡……ビーグル大塚
スタッフ
脚本 : ビーグル大塚
演出 : チャーリー軽木
音楽 : ツジヤマガク
チラシデザイン : 安達花鏡
企画・製作 : 劇団チャリカルキ
公演日程はこちら(全29会場30ステージ)
http://www.charikaruki.com/past/mama_12_schedule.html
※2018年7月4月15日(日)18時公演(石川県小松市 こまつ町家文庫)で観劇しました。
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