プロレタリア川柳作家T.AKIRAの過去と現代

石川県旧高松町出身の鶴彬(つる・あきら)。県内出身だからこそ名前を知っていたんだと思うけど、県内出身だと認識していなかったし、日本画家か何かだと思っていた。プロレタリア川柳作家と呼ばれる鶴彬は、その川柳が治安維持法に触れるとして収監され獄中で赤痢に感染して亡くなる。劇中で彼の川柳が映像で映し出されるのだが、作品だけを見るとどうして法に触れたのかわからない。治安維持法がそういう法律だったのだろうけど。

鶴彬の略歴が流れるように紹介された後、一人の青年が眠りから覚める。どうやら彼の夢だったようだ。鶴彬と彼・鶴田彬を演じるのは同じ役者である。鶴田が所属する会社は日本全国に関連会社を持つ大企業である。会長の発案でグループ企業合同の川柳発表会が開かれることになる。その発表者に彼が選ばれた。川柳を習うため町の川柳勉強会に参加する鶴田。そこで井上(新保正)と喫茶店のマスター・山形(中里和寛)、会社員の甲斐(仁野芙海)と出会う。この川柳グループのシーンは何度もあって、和気藹々の雰囲気がよく伝わってきた。ただ、グループの最初のシーンは少し長く感じた。その後のシーンで補えたのではないかと思う。私の集中力が切れた場面だった。

プロレタリア川柳作家の鶴彬と現代の鶴田をリンクさせた手法は面白かった。治安維持法の効力があった時代と現代を比べられることも良かったし、何より鶴彬を知れたことが良かった。

同じ時代に発表されたプロレタリア文学の代表作、小林多喜二『蟹工船』では大企業に直接雇用されている労働者が劣悪な環境で働かされた姿を描いていた。現代の『T.AKIRA』では大企業と力の弱い下請けの中小企業が描かれた。無理な注文や労災隠しを大企業に強要され、追い詰められた下請け企業の社長が大企業の担当者に殴りかかる。時代が変わっても本質的なことは『蟹工船』発表から90年が経とうとしている現代でも変わらない。見ていて虚しさを感じるところだ。

『T.AKIRA』はハッピーエンドだった。水戸黄門みたいに会長が現れて丸く収めてしまった。会長は川柳勉強会の井上で、単純な私は驚いたのだが、鶴田はすんなりと「会長だったんですね」と納得していた。もっと驚いて欲しかったなぁ。

赤痢で獄中死してしまった鶴を救う人はそこにはいなかった。鶴彬の夢を見ていた鶴田には助けてくれる人がいた。それが鶴と彼の違いで、現実と物語の違いだった。川柳を新聞などに投稿し社会に呼びかけた鶴と、1企業の社員として社内で告発した鶴田とではスケールは違うけど、確実にこの会社にかかわる人たちはこれまでより働きやすくなるのだと思う。今実際にありそうな話。今勤める会社に同じことが起こったらどんな結果になるだろうと、少し考えた。


劇団ジョキャニーニャ『T.AKIRA』

作:新津孝太
企画:吉田莉芭
出演:岡崎裕亮、間宮一輝、中山優子、春海圭佑、中谷匡秀、新保正、中里和寛、仁野芙海、関家史郎、百々春菜、中川佳奈(9/22.23)、島上かんな(9/21.24)、朱門、金代晶

公演日程:2018/9/21(金)21:00~
2018/9/22(土)14:00~
2018/9/22(土)19:00~
2018/9/23(日)15:00~
2018/9/24(月・祝)11:00~

会場:金沢市民芸術村PIT2ドラマ工房


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