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SW!CH 1st衣装

2018年12月6日のデビューライブで公開になった株式会社ディスクユニオン発のアイドルユニット「SW!CH」の1st衣装です。
大学卒業後に最初に請け負った衣装案件でもあります。お互いにスタートアップであったのでかなり思い入れのある衣装です。

SW!CHのコンセプトは、人生を変える「スイッチ」を押してやってきた、ディスクユニオン発のアイドルグループ『SW!CH(スイッチ)』です。
それぞれ過去に芸能活動をしていたメンバーや、人生の岐路に立ちアイドルという選択肢を選んだメンバーなど、自らを「スイッチ」させた個性豊かなメンバーが集まっています。
プロデューサーさんとの打ち合わせでの衣装イメージは、コンセプトをなぞり、日常からスイッチしてアイドルになった女の子、です。また、衣装衣装している感じではなく、リアルクローズよりの雰囲気で、ファッションでいうモード、クラシック感のある衣装。

この衣装以降2nd、3rdと担当させて頂いているのですが、1stからSW!CHでは一貫して360°でのデザイン組みを一番意識しています。これはステージユース前提のパフォーマンス衣装だからです。360°でのデザイン組みはつまり、横見をしっかりデザインする。意外と単純なことです。
当時アイドル業界には、自身の趣味も含めて無縁でまるで無知であり、プロデューサーさんから今のアイドルは成長過程も見せるということを聞き、なるほどと思った記憶があります。つまりはこの衣装はパフォーマンスをヴィジュアル的に補強するツールでもあるから、ステージユースのための、視覚的に認識しやすい、動きのあるデザイン。あとは、スタートアップなので、ある程度キャッチーなデザイン。それの最適解が360°でのデザイン組みでした。

以下衣装の詳細、過程の話になります。長文乱文になるかと思います(なりました)がご容赦ください。

引きで見ても際立つ大きな切り替えは、コンセプトにもあるスイッチから着想を得ています。すごくダイレクトです。
また、前提イメージは日常からスイッチしてアイドルになった女の子です。なのでリアルクローズ、この時はデビューが冬だったので季節感を少し意識してステンカラーコートに下はシャツワンピースを着ているイメージ。SW!CHのメンバー募集のポスターが青系で作られていたので、コートはネイビー、ワンピースはブルーのストライプ(少し春っぽいですが)です。
その二つを、切り替えて、、、ではなく、イメージとしては上からコート、下からワンピースをぶつけて互いの生地が跳ねているイメージでデザインを組んでいます。
なので、ペプラム(フリル)は身頃を一周切れ目なく回っいて、ネイビー生地とストライプの二重になっています。二重に見えるようにストライプの方をネイビーより確か10mm長めに出しています。これは10mm大きく裁断しているのではなくて、5mm大きめに裁断しています。
ネイビーの身頃、ペプラム2種、ストライプのスカートの4枚を一緒に重ねてしまうとシームが厚くなりすぎてアウトラインに支障が出てしまうので、うろ覚えですが、確か、4枚の生地の縫い位置をずらしてシームが厚くならないようにしていたはずです。そのずらしで残り5mm。

ちなみに右身頃のペプラムと右袖のフリルは続いて見えるような高さに合わせています。

この切り替えにより、前後左右で違った衣装の見え方をします。これがこの衣装のステージユース前提の360°デザインです。

襟は台襟付きのシャツ襟にしようか迷ったのですが、コートベースなので台襟は無しにしています。首に沿わせる為に襟は上下の2枚組みです。
また、クラシック感を出す為にサイズは小さいながら角ばったアウトラインにしています。襟部分だけではなく、身頃は全体的にかなり生真面目なライン採りをしています。

前開きは比翼仕様、第一ボタンはデビュー衣装ということもありスワロフスキーのラインストーンを使ったビジューボタンを採用しました。比翼下のボタンもスワロフスキーではないですがラインストーンをあしらったメタルボタンを採用しています。

プロデューサーさんとの打ち合わせで、パフォーマンスの補強、動きが大きく見えるように袖裾はフリルに、肩からフリルまではコントラストを強く見せる為にタイトにしています。身頃のペプラムと袖のフリル裾は、跳ねた生地感を出す為に断ち切りで、裏からバイアステープを四つ折りで叩いて補強をし、生地自体は薄いですが分量があるにも関わらずシルエットが潰れることなく裾のラインが大きい凹凸を描いています。
今や懐かしいですが、納品翌日に雑誌TOPYELLNEOの取材がありそこで着用するとのことで、縫いあがりの布は若干硬く袖のフリルの凹凸があまり綺麗に出なそうだったので(一回洗濯したら柔らかくなる)、身頃に縫い付ける前にアイロンと霧吹きでフリルが良い形になるようにして(癖取りの容量)縫い付けました。水分が乾くまでに平置きにしまうと潰れてしまうので、縫い付けまで吊るしで保管していました。

どんな衣服もそうですが、腕をあげると裾が吊ってくると思うのですが、これは袖の下側の生地の距離が足らず裾を引っ張っているからです。
ちなみに、身頃がタイトだったり、腰部分でベルトで固定していると袖側が引っ張られて腕が上げにくくなります。
これがすごく嫌で、全て伸縮生地で作らない限り完全に吊らないようにすることはできないのですが、この1st衣装と3rdは袖を上下2枚に分け、下袖AHラインを本来は凹型ですが身頃側に合わせた凸にし、伸縮生地で作っています。この凸型の下袖は理屈上半分楕円のAHと同じです。腕をあげるとあげると楕円に、下げると脇部分で生地が折れて半楕円になります。これにより吊りを軽減させることができました。
袖は、上げる角度を決めて(平置きにした時に一番落ち着く形、ジャケットは低いですし、シャツやTシャツは高いです。物にもよりますが)製図をするのですが、この場合腕を水平にした時を0°として、上袖は下に45°下袖は真上に腕を上げている形です。この場合下袖の分量が脇に溜まってしまう場合がありますが、伸縮生地で縦横短めにとっているので下袖が上袖を引っ張り袖が腕にしっかり沿うアウトラインになります。

学生時の教授からの社交ダンスのパターンは凸型下袖になっているという話と、パターン講師の先生に初期(中世とか)の服でAHが半楕円になっている服が見つかっている。という話を思い出して、製図の仕方は教わらなかったのですが、やってみたらできました。出来たとはいえ、何度も試作をしパターンでは袖に一番時間を使っています。このパターンは別のアイドルではない案件やZOCでも形を変えて採用しています。

ウエストにベルトがついていますが、これはフェイクではなく前後にペプラムと身頃の間に隙間がありそこを通して一周できるようになっています。コート部分にはベルトループがついていて、スカート部分はベルトループだとドレープが偏ってしまう可能性がある為、帯状の生地を叩いてベルトが通る穴を作っています。これによりギャザーっぽい布の寄り方をします。
ちなみにベルトの裏側はメンバーカラーになっています。

スカート部分は前後2枚でとるとストライプ側がサイドのシームで角になってしまいこれが目立ち、可愛くないので確か4枚で接ぎで継ぎ目の柄の雰囲気が柔くなるようにしました。

スカート裾については、シャツワンピース、シャツの裾は三つ折りになっていることが多いですが、そこそこ分量感もあり、フリル、ペプラムと同じく裾の凹凸が潰れてしまうと可愛くないので、見返しにバイアステープを四つ折り(硬め)を使い裾を硬くして大きなラインを描くようにしています。SW!CH衣装においてこの仕様はすごく重要な物です。厚い生地を使えばと思うかもしれませんが、ライブパフォーマンスの熱量ってすごいので。またSW!CHはパフォーマンスに力を入れているのでここに寄り沿う生地の補強として重要です。恐らくまた書きますが、2ndではグログランテープ、3rdはデザイン上若干差異ありますが見返しとパイピングテープがこの役割を担っています。

裏側は、ストライプ部分は袋縫、ネイビー部分のAH以外は総パイピング処理になっていて切り替え部分1周はネイビー、その他の部分はメンバーカラーの四つ折りテープを使用しています。全員同じデザインですのでベルトがなくても見分けがつくようにするためです。AHがパイピングでないのは体に密着する部分であるためロックミシンで柔らかく処理した方が良いのと下袖に伸縮生地を使っているためです。ロックミシンのシームは伸びます。

メンバーの顔合わせにも参加させて頂いて、その時に自己紹介でみなさんの鎧として衣装を作ります。と話して、そのあと鎧は硬すぎたか、と思いましたがアトリエに籠って製作している自分にとって人前に立ちパフォーマンスすることはすごいなと思っていたのでこういった言葉選びになったのだと思います。

衣装は衣装でもアイドル衣装はパフォーマンス衣装なので、着用者を飾る器(花で言えば花瓶)ではなく、制服のように均等化するイメージでもなく、守りだけでない攻めの鎧だと思っています。メンバーそれぞれに、パフォーマンスに寄り沿い、且つ花瓶のように着用者を、パフォーマンスを美しく可愛く見せるツール、クライアントは会社様で、お客様はファンの皆さまですが、衣装はメンバーのためにメンバーがより輝ける手助けができる物を作りたい。だから攻めの鎧。結局鎧です。良い服、好きな服を着た時気持ちが引き締まったり、楽しくなったり、、それと同じです。
この後作った他の衣装達もそのスタンスです。皆自分にとっても大切な衣装で、一番似合っているのはその衣装を着ているメンバー達です。


#swich

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