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femme fatale「フェイズ」衣装

先日公開されたfemme fatale「フェイズ」MV内に登場した写真の衣装デザイン・制作を担当しました。
ディレクション・スタイリングは
庄司洋介( https://twitter.com/_yosuke_shoji_ )です。

MVでの使用他ライブで主に使用していただく予定の衣装になります。

色はfemme fataleのお二人の指定で、あとはお任せでこちらからデザインを提案させていただきました。ライダースベースは庄司の提案で、そこから二人で大枠のデザインやルールを作り、詳細なデザイン〜造形化までを宮﨑が担当しています。

ライダースジャケットとタイトスカートのクールな上下セットをベースとしてそこに可愛さを切り込ませてfemme fataleの可愛さを表現することを目指しました。
「可愛い世界観にクールな物を切り込ませる」の方が順当さを感じますが、今回は「クールな物に可愛い世界観を切り込ませる」という順番になっています。

ファンの皆さまには周知のことかと思いますfemme fataleのお二人が持つ可愛いさは、可愛いだけでない強さをどこかしら感じさせるもので、楽曲やMV、言葉からその強さが滲み出ているぞ、、、と。
よって可愛さを切り込ませるという言い方をしています。
デザインプロセスとしては、ベースの衣服を切り裂いてそこに可愛さを入れる、衣服を切り取って可愛さを入れる、ような感覚です。
余談ですが、Twitterでこの切り替えのことを素材のこともあるかと思うのですが、「下着を切り貼りしたかのようなデザイン」と表していた方がいらっしゃって、実はそうは考えておらず、参考になりました。ありがとうございます。(記事を読んだ友人から煽ってるように見えると言われたので追記します。本当に参考にさせて頂きました。自分が意図していなかった見え方をすることは、 事実衣装にそう見える要素がある為です。製作者として作る衣装に込める、発現される要素の全てを理解し扱い、どう見えるかまでを操作することが目指す理想の衣装デザインです。そのためにはまず人からどう見えるか、をより多く知る必要があります。実際、様々なご意見を見つけようとSNSを活用している部分もあります。)

また今回新たな試みとして衣装デザインの一部をお二人に協力頂き作成しています。これについても詳しく書きたいと思います。デザインプロセスの映像、写真をTwitterに掲載していますので、この部分についてはそちらをご覧いただいてから読んでいただけるとより面白く思って頂けると思います(そう感じて頂けるよう尽力いたします)。

以下デザイン・制作過程になります。長文乱文になるかと思いますがご容赦ください。

ベースのライダースジャケットはいわゆる普通のライダースジャケットのサイズ感ではなく、首回りはメンズよりも広く、ボディ部分はレディースよりもタイトでお二人それぞれのジャストサイズで展開しています。
前開きはレディースだからメンズだからではなく、戦慄さんは左前、頓知気さんは右前になっています。この前開きだけでなく、アシンメトリーになるデザイン、切り替え等生地配置は全て二人で反転させた位置で配置しています。これは戦慄さんが向かって左、頓知気さんが向かって右の立ち位置を前提にしてのデザインです。
首回りを広く取っているのは、単純に少しセクシーさが欲しい為とネックレスを制作するので、それとのバランスを図ってのものです。ネックレスはデサイン制作共に庄司が担当しています。後述しますが、レザーパッチの制作も庄司が担当していますので、是非彼のTwitterから見てみてください。

スカートを冒頭でタイトスカートと書いているのに、プリーツスカートじゃ無いかと思われるかと思います。これも少しややこしいですが、ベースはタイトスカート(厳密にはセミタイト)でプリーツスカートに展開しています。開きの位置はスナップボタンが付いている位置で、二人が左右反転の位置になっています。この開き位置はライダースの開き位置をサンプリングしています。また、このスカートは巻きスカートになっていて、これによりオーガンジースカート(これも巻きスカート)とのドッキング・取り外しを上下レイヤーにプラスで一部重ねで表現できるようになっています。この内部構造は完全にオリジナルの仕様で、プリーツスカート、オーガンジースカートそれぞれ2本+1本計5本のファスナーで留めることで成立させています。

どうしても詳細な仕様を書きたくなってしまうので、Twitterでご紹介した切り替え線位置に付いて書いていこうと思います。
下着を切り貼りしたかのようなと、表していただいた切り替えは、具体的なイメージではなく、お二人の雰囲気、名前から連想した物になっています。
庄司との打ち合わせで使用していた言い表し方は、戦慄さんの切り替えは「戦慄可愛い」、頓知気さんの切り替えは「頓知気可愛い」、「かっこ可愛い」みたいに可愛いの前に別の形容詞としてお二人の名前をつけた形です。

戦慄可愛い切り替えは爪痕のような切り裂き模様。頓知気可愛い切り替えは円形切り抜きで円の重なり部分が色反転するポップな模様。絵型を見ていただくと分かりやすいのですが、お二人で少しこの切りと生地配置のルールが違います。
今回この切り替え線位置をお二人に協力頂いて制作しています。
手順としては、切り替え線無しのライダースとスカートの絵型をお渡しして、そこに自由に切り裂き模様、円形模様をそれぞれ2パターン書いて頂きました。その線をこちらが設定したルールとデザインバランスを元にサンプリングして新たなデザイン線を制作していきます。ルールは先に書いた左右反転の生地配置で、ライダースとスカートを通して、戦慄さんは向かって左上から右下に、頓知気さんは向かって右上から左下に向かう配置になっています。バランスは、宮﨑が持ちうるバランス感覚です(これ以外に言い表しようがありません申し訳ありません)。
お二人に書いて頂いた線を参考にして切り替え線位置(デザイン線)を決めるのではなく、illustratorとPhotoshopを用いてお二人に書いて頂いた線をそのまま使用してデザイン線を作成しています。位置の移動やサイズ変更は最低限に、2パターンのそれぞれから線を採用し、様々な位置を試しながら最終線を作りました。Twitterに掲載したタイムラプス動画ではスムーズに作っているように見える(と庄司に言われた)のですが、キャプチャーする予定だったので、事前に頭の中で線の位置を確認し、ある程度採用線の候補を絞り込んでから挑んでいます。仕込みっぽくなるのが嫌だったので一発撮りです。ただ、上に書いた通り結局試しながらの部分が多くなりましたが、そもそも使える線が制限されているので、試せるパターンにも限りがあります。またルールが存在するためラインの絞り込みも全く自由の状態よりも早く進みました。
このデザイン線が上がった後からは通常通りで、絵型に起こし、パターンと先に用意していたトワルに書き込みながら位置を調整して行きました。

実はこの切り替え線位置は、一度こちらでガチガチにバランスをとった完成形で書いていて、提案できるプレゼン資料の段階まで仕上げていました。
ただ、その線が少し無機質に見えて、もっと生っぽく(完全に主観ですが)見える位置にしたいと思っていたのと、衣装家(製作者)とクライアント(着用者)の関係性としてこちらから新たに提案できることがあると考えていて、デザイン制作の流れとしては、クライアントの要望にこちらが持ちうる技術を駆使して応えるが順当な流れ、流れというか衣装製作はそうゆうものだろうと思っていたのですが、そもそも衣装は「その人の為に作る」ものなので、今回のようにほぼ自由にデザインする形で依頼を頂いた場合に見えやすい形では着用という形でしか衣装との接点を持たなくなる。もちろん見えにくい形で、衣装デザインはもちろん庄司のスタイリングもお二人が持つ文脈を回収、サンプリングしながらスタイリング&デザインを制作しています。
衣装制作に限定した言い方をすれば、依頼のご要望や、拾える限りのデザイン要素を取り込みながら衣装を造形化させることが宮﨑の役割です。
今回試したことは、こちらからデザインプロセスに着用者が入る余白(間)を作ることです。その段階で存在しないデザイン要素をクライアント側に作って頂く形で、これは上に書いた受注でのデザイン制作の流れの逆を行くものです。
これを提案させて頂いた段階で、この余白部分だけが空白で、それ以外の部分は空白にどんな線を組み込んでも、全体として成立するようにデザインや線配置のルール等は事前に作り上げていました。書いていただく線がどんな線であっても必ず上手くいくように設計しています。これは試みで実験的ではありますが、賭けではありません。
屁理屈な言い方ですが、この衣装にはデザインと、着用の為の二つの間があり、片方はプロセスに、もう片方は完成形にあります。こんなことを考えることが衣装家になる前の宮﨑の研究課題の一つであったり、、。

撮影して頂いたお二人が線を書いている映像を見てこの模様を選択した意味をより意味のあるものにできたと思っていますし、ニュアンスになってしまいますが、コンセプトや文で説明する以上にお二人の為の衣装という意味に良い要素が加えられたと感じています。
家を建てる時に、一部壁を自分たちで塗る、みたいなそんな感覚に近いのかもしれないと今思いました。

次はこの切り替えの生地や仕様についてです。
この切り替え内部は白生地、レース(ギャザー寄せ)、オーガンジ(ギャザー寄せ)の三重構造になっています。切り替え縁についているテープはレーステープをオーガンジーで包んで制作したものです。
ここから少しややこしい文になりそうなので、切り替え線内部の三重部分、戦慄さんのピンク部分、頓知気さんのオレンジ部分を模様部分、切り替え線外側の戦慄さんの水色部分、頓知気さんの緑部分を本体部分と言い表します。ライダースとスカート指定していなければ両方共通の仕様として書いています。

模様部分と本体部分はテープで見えにくいですが、内縫いではなく重ね縫いをしていて、本体部分の縁は折り返しではなく全て見返しをつけています。また、模様部分は三重で重ねたあとで端を四つ折りテープで囲んで処理しています。
この段階で服を作る人はなんとなく察していただけたかと思いますが、このライダースとスカート、パターンの枚数はさることながら裁断枚数がとても多いです。
本体部分にダーツや切り替え線が入っているのに、模様部分にはそれらが無いのですが、この模様が切り替え線やダーツを跨ぐ以上なくすことは出来ないので、適宜逃して見えにくくしたり、模様部分最下層の白生地には切り替えやダーツがあり、レースとオーガンジーギャザーの分量でそれに対応するように調整しています。あと可能な部分で、重ね縫い部分にダーツを逃しています。
本体に可愛さとして模様部分を切り込ませている形なので、本体部分にはポケット(ライダースなので両玉縁のファスナーポケットを採用しています)があるのですが、模様部分にはポケットがありません。ポケットごと切り取って、をイメージしての形です。絵型段階ではポケットは模様部分まで跨いでいましたが、後に変更しました。コンセプト的な変更でもありますが、オーガンジーの生地耐久に考慮しての変更でもあります。

またこの模様は部分によって、切り替えや、襟を跨いでいます。先にトワルに書き込んで調整したと書いたのですが、襟を跨ぐ部分は平面上では検討が難しい為です。出来なくはないですが、トワルでやったほうが正確です。ただこれも本縫いでは生地の厚みやファスナーによって返りのバランスが変わる為完全に合わせることが出来ませんでした。ただ見る位置によっても変わるので、どこが正解かは自分がどう定めるかになってしまうのかなとも思いますが、悔しいですね。
前開き重ねで見えない部分にも模様はしっかり入っていて、下襟の返り部分は見返しに当たりますはその見返しも裾まで模様が入っています。つまりは裏側からしか見えない模様部分があります。

本体と模様の話はここまでになります。

次はスカートについてです。
冒頭にも書きました通り、スカートは二つの巻きスカートで成立しています。巻きスカートにすることにより、単純な上下重ねのレイヤーではなく戦慄さんは向かって右側から、頓知気さんは向かって左側からオーガンジースカートがプリーツの間から内側に入り込む形になっています。

プリーツ部分は、折りではなく、折りに当たる部分を全て別パターンで接いでいます。これは単純によりプリーツが崩れないよう強固にするためでもありますが、今回入る模様部分を折の内側まで入れてしまうと当然模様部分の折は厚くなり動きが悪くなってしまう可能性があった為です。
オーガンジーは三重重ねになっていて、戦慄さんはピンク、白、ピンク、頓知気さんはオレンジ、白、オレンジの順番です。それぞれ有色の裾は白のパイピングテープ折り返しの裾処理で分量感を際立たせ、白色の裾は三つ折りにしています。三重にしたのはふわっと感を増させる為ですが、重ねるほど色が濃くなり主張が強くなってしまう為、間に白を挟み色感をぼやかせています。白色をはこのために入れ込んでいて、裾の主張はいらないので三つ折りになっているということです。
また、戦慄さんは向かって右下がり、頓知気さんは左下がりのシルエットになっています。全体としては全円に近い分量を確保していますが、前身頃部分はオーガンジーが少し透けて模様部分が見えるようにしたかったので、タイトスカートに乗る前側は分量少なめに後ろ側は十分に分量をとりました。

袖は本体部分生地の半袖と、オーガンジー+本体生地カフスの長袖の2仕様になっていて、半袖途中の切り替え部分持ち出し内側にファスナーが仕込んであり、そこで着脱する形になります。オーガンジー袖は二重仕様で外側は裾広がりのフレア袖、内側はカフス位置でギャザー絞りボリューム袖です。
フレア袖裾は有色オーガンジースカート同様に白生地のパイピングテープ折り返し処理になっています。
前にも書いた気がしますが、好きな考え方なので何度でも書こうと思います。分量のある部分の裾を目立たせる理由は分量感の視認性を高める為で、これが例えば柄生地の場合はフレア、ドレーブが柄で見えるので裾を目立たせる必要はありません(柄の凹凸がうるさくなる可能性もある)、そもそも分量感、生地と生地の奥行き感は陰影同士、陰影とハイライトのコントラストで見えます。透明生地は光を通してしまうのでそもそも陰影が落ちにくく分量感が見えなくなりがちです。(このオーガンジーは通常のオーガンジーよりも目が細かく光沢が強く出るものを使用しているので、照明の具合によりハイライトは担保できているのではないかと思っています。)この裾のテープなしで分量感を強く見せたい場合にそもそも二重三重ではそもそも少ない可能性もあります。スカートに関しては白生地を挟んで色感をぼやかせているのに分量感の視認性を高くしようとしています。裾のテープは単純に距離として見えるのでその効果にも期待しています。


袖カフスはライダースジャケットからのサンプリングの三角マチ付きのファスナー開きの袖になっています。この袖ファスナーと、身頃両玉縁ポケットのファスナーはライダース準拠の玉付きファスナーです。
またレザーパッチをファムファタールのロゴ印刷で制作しボディに縫い付けています。庄司がツイッターに写真掲載しているのでそちらから是非ご覧ください。本革にレーザー刻印し、刻印部分にペイントしています。

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