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きのホ。 5th衣装

7/17に公開された株式会社古都レコード きのホ。の5th衣装です。
ナンバリングは仮称です。

前回はジャパンメイドのマッシュアップ、着物袖がなじむ形でのジャンルミックスの衣装でした。
今回は着物袖がなじむ形でのジャンルミックスの衣装に頂いたオーダーを加えてデザインを組んでいきます。

オーダーは着物袖の継続と『音楽劇「いまゾーンB、そっちは?」の要素を入れる。』です。
意訳込みでもう少し書くならば、ぶれえめん(音楽劇内でのグループ名)のライブ衣装でもあり、きのホ。の新衣装でもある。
ツアーファイナルのみ(ですよね?)ぶれえめんの衣装が変わっていて、新衣装に合わせてる、、?とびっくりしました。
音楽劇の要素を入れるとはいえ、脚本の左子さんにお話を伺ったり脚本を見せて頂いたり、稽古に同行したり、、、といったことは無く。
打ち合わせはしましたが設定に踏み込んだ話はあまりしていません。(プレゼンはしています。)
意外じゃないですか?そんなことないかな。どうだろう。
その意図はお聞きした上でお受けしています。
使う要素の方向性やヒントを沢山頂いそれを衣装に起こす、です。

前回は具体的な要素をそれと分かる形で複数組み込んだため要素の紹介記事になりました。
今回は形にのまま落とした要素は少なく、個人的な感覚で形やヴィジュアルに変換しているため要素をそのまま紹介しては関連性すら怪しい感じになりそう。
とはいえ過程で得られる楽しさを書きたい、衣装を通して知った文化を紹介したいエゴもあるので要素紹介します。そこそこ深くリサーチしてボツにしたものが複数あるのでそれも書きます。

これ前置きですがもう少し。
今回は先に書いたようにぶれえめんののライブ衣装でもあり、きのホ。の新衣装でもあるわけですが、リリースの時期的にきのホ。にとっては夏衣装です。ぶれえめんの衣装と今のきのホ。の夏衣装のイメージの乖離が大きく、、、どうしよう。が今回のスタートです。

さて本題に入ります。
毎度のことながら長文乱文誤字脱字、何卒ご容赦ください。



1.トラディショナルジャパニーズユウレイ

音楽劇の要素を入れる、打ち合わせで設定に踏み込んだ話をしていない。
という事は、ツアー初回公演以降にデザインがスタートしている。
その少し前、受注が確定したタイミングで劇の内容を踏まえた上での「京都×幽霊」という初期テーマが存在していました。ここにしっかり劇の内容が入った物が最終的なオーダー内容です。

受注確定から初回公演までにリサーチしていたことは結果的にほぼ採用に至らなかった。具体的なイメージとして繋げられそうなのは一つで衣装デザインその物は幽霊に強く関係はしていない。
ただ今回の衣装のベースを作るに大切な学びだった気がするので書きます。

京都、引いて日本&幽霊の文化で思いつくものは幽霊画でした。歴史的に見ると文学の方が幽霊の登場は先ですが、衣装はヴィジュアルを作る仕事でもあるので幽霊画を入り口にします。

参考資料を先に記載します。

意識して幽霊画を調べようと思ったのは初めてでどこから掘っていけば良いのか全く分からず。その為まとまった量の知識を得るために本を読みました。もし興味を持ったら読んでみてください。自分はとても楽しく読めた。
陰翳礼讃は幽霊について触れる部分があるので読み返した。

さて、日本画に描かれる幽霊にどんなイメージをお持ちでしょうか?
自分の場合は脚が透け(脚元が描写されておらず)、白装束をまとっていて、のような。

歴史を見ていきましょう。
初めて絵画化された幽霊は13世紀の北野天神縁起絵巻内での菅原道真で、詞書(ことばがき)を読まない限り幽霊と見分けられない正装姿で登場します。
一見すると人間だが、幽霊。日本三大怨霊の一人ですね。

これ以前、平安時代に幽霊は文学の中で活躍します。ただ絵画化はされず、妖怪や鬼などの人外の怪奇の方が先に描かれます。
その後の17世紀、岩佐又兵衛著の山中常盤物語絵巻において牛若(源義経)の夢の中に亡き母の常盤御前が現れます。

常盤御前は白装束の姿で描かれ脚もあります。菅原道真と違い現世ではない夢の中に現れていますが幽霊とします。

そしてやっとイメージした姿の幽霊が登場します。
円山応挙 「返魂香之図」18世紀

白装束に脚の透けた幽霊です。
脚の透けた幽霊像は死を前に衰弱した様子の儚さを表現したものでもあるとの言説もありますが、当時の建築や生活様式、そこにあった美意識から生まれた物でもあるんだろうなと、何となく思います。禅に係る美意識。詳しく?は陰翳礼讃にて。

現存するもので円山応挙以前の幽霊画がないため「返魂香之図」が幽霊画の始祖とされています。
これ以降多くの幽霊画が描かれますが、丸山応挙の物も含め掛け軸に描かれた物が多い。掛け軸は床之間に飾る物です。

幽霊画を飾る理由ってなんだ。
これを書くと長くなるのでザックリ。始めこそ供養のために描かれたものが安永期(18世紀・江戸時代)に流行った百物語の会(蝋燭100本灯して怪談を話すたびに一本消し、最後の一本が消えると、、のやつ)の会場の装飾として扱われたり、後には民間信仰の中で魔除けや雨乞い、雨止めの儀礼の法具、呪具に援用されていきます。幽霊画を掛け請雨の祈祷を捧げたのでしょう。

円山応挙の「返魂香之図」は年に一度一日だけ公開され、その日は雨が降ると語り継がれているそうです。

ここまでで何かピンときたら鋭い。
かなりかいつまんで幽霊画について書きました。一旦置いて、掛け軸について。


2.表装

引用の久渡寺HPに掲載されている「返魂香之図」の幽霊画の外枠?に柳の枝葉が描かれています。この部分も含めて作品としての掛け軸です。

掛け軸は絵画本体を補強する為に紙や布で裏打ちをして、絵画にふさわしい装飾を施し仕立てられています。この技術を「表装」と呼びます。
掛け軸と同じように布や紙を張って仕立てる障子、襖、画帖、衝立、屏風、貼り付け壁、掛け軸、巻物、額装を「表具」と呼びます。

表具、掛け軸の歴史は古代中国、日本では飛鳥時代にまで遡ります。詳細はここでは省略。詳しくは引用記事にて。

この掛け軸の形式が今回衣装背面のセーラーカラー風パーツの切り替えに繋がります。イメージのみですけどね。
掛け軸の表具の表現がとても面白く最初はしっかり取り入れる気でいたので東京国立博物館に本物を見に行ったりしました。他にもヒントが得られそうな期待も込めて。
結果としては他の要素とのヴィジュアルや構造のつながり、バランスを組む中で最終の形になっています。幽霊画を調べなければ掛け軸にたどり着かなかったかもしれない。(過去3着のリサーチに掛け軸は無い)
国指定の伝統的工芸品に京都の京表具も含まれています。

余談ですが、掛け軸型フォトフレームなる物があるのでチェキとか飾ったら恰好良さそうだなと思いました。


3.白装束

幽霊画に描かれる幽霊のほとんどが身に纏う白装束。日本で一番メジャーな死装束。

死者の衣服としては白装束、衣服の種類だけで見れば経帷子。
経帷子は巡礼者や修行僧が身に着ける装束です。死後に西方浄土に向かい旅立つとされているため経帷子を着せる習慣が始まったとされています。
頭に着ける三角布は天冠(てんかん、てんがん)と呼ばれ閻魔大王に謁見する際の正装の装飾品。
他は、手甲、脚絆、杖、頭陀袋に入れた三途の川を渡るための六文銭(お金)。旅のための装束ですね。
経帷子のベースは白い夏用の着物です。

仏教における死者の衣服ですが、浄土真宗は死後旅に出る考えがないため死後の旅支度はしないそうです。知らなかった。

白装束が白の理由は諸説あり、仏教において穢れていない色で清らかな姿で浄土へ旅立ってほしいという想いから。あとは古来から特別な組み合わせとされてきた紅白(赤白)。生まれたばかりの子供を赤子、赤ちゃんと呼ぶように赤=生命や誕生。対の白=死を表すとされているようです。

ここで葬式を思い浮かべると白黒で、個人を弔うための喪服が黒である理由が気になります。詳細は引用記事にて。


4.死後世界

幽霊即ち死後の人間。死が絡むテーマをアイドル衣装で扱うのは当然初めて。音楽劇は喜劇、ヴィジュアルで扱うにはどうすれば良いのでしょうね。幽霊、死を匂わせる衣装の方が得意かも。とはいえ、それで良いはずがない。
先に曖昧なルールを設定しましょう。

・モノクロベース
・ポップに向かう(外見的なユーモアではなく
・キャプション無しで幽霊や死が伝わるヴィジュアルにしない

モノクロベースは現代の葬儀など死に係る儀式や服装のカラーから、
ポップとキャプション無しは今後も使用する衣装である為、死を扱うにあたって不謹慎さを回避するためです。不謹慎さを回避したいのは怖いから。ブラックジョーク的に面白くなる可能性はあるけど、一定期間使用するライブ衣装の時点で相応しくないね。
そんなこんな?で、一般的なイメージを取り入れマイナスポイントを回避するためのルール。


話は変わり、平安時代、死後極楽浄土に往生するために念仏を唱え、阿弥陀如来の救いを信じた浄土宗のような死後の救いを信ずる宗教が民衆に受け入れられ広がったのは、今日を生きることすらままならぬ現世の厳しさ故にでしょう。

時は過ぎ、江戸では何故か地獄が民衆に親しまれることになります。閻魔信仰。
江戸人の地獄観は地方寺院の宝物を都市部の寺院で披露する「出開帳」で育まれました。宝物は何かしらの信仰性を伴い、地獄絵も含まれており閻魔信仰へつながります。これは閻魔王を地蔵菩薩の化身を考える本地垂迹に基づいています。
閻魔信仰は毎年正月と7月16日に行われ、人々は故郷の閻魔堂へ閻魔大王に自らの不正や悪行を報告し許しを請うために参詣に出かけました。

葛飾北斎の「新板大道彙(しんぱんだいどうずい)-御蔵前」には江戸の町人が閻魔詣りにて巨大な閻魔王象のもとに集まり祈りを捧げる様が描かれています。閻魔堂への道筋には出店や見世物が並び、、祭りだな。

平安時代に広がった浄土宗との差がすごいですね。
江戸時代では都市社会の発展が深く関わっているとの言説がありました。人口が増え、貨幣経済が進んだことにより人間関係がより複雑になっていく。その中での、金、愛欲、裏切り、、人々は俗世の煩わしさに悩むことも多くなりました。平安の世と変わり社会が発展する中で生じた現実的で日常的な悩みが、死後の救いではなく現世での救いないし解決を願う想いが閻魔詣りのように「あの世」である地獄ををこの世に見せる形を築いた。
また江戸人が作るこの世の地獄は、死後裁きと苦しみを受けるようなネガティブな物ではなく俗世の煩わしさから解放される祈りの祝祭空間でした。

二つの宗教観を書きましたが、何か衣装に繋がるという事は無く、死に係るテーマを扱う上で日本人がどのように死後世界を見てきたのかを探り、その中で印象的だった物をピックアップしてみました。
衣装には直接繋がりませんが、この二つをピックアップした理由は何となく伝わるでしょうか、、、?文字にするのはこじつけがましくナンセンスなのでやめました。


5.どうしよう

本当にどうしましょうか、色々リサーチしてみて分かることは一点を選ばなければ濃くヴィジュアルに繋がる要素を得ることは難しいということ。
繋げられたとて、劇の外へ出られる像を作れなかった。単純に力不足かもしれません。
面白い物はたくさんあったのですが。

ぶれえめんは幽霊の二人が成仏することでメンバー全員の願いが達成されます。そのために必要なことはワンマンライブの成功です。(あってるよね?)
念仏を唱え、祈り救われる浄土への往生、地獄での苦行を経た救いとは全く別ルート。願いを達成するために、条件が見えた状態で挑む。
救いや許しを請う切ない物ではなく、力強く立ち向かう、、立ち昇る(天国に行くから昇る。造語的な言い回しです。)ような。
まぁパワフルですね。成仏とか幽霊の消えゆく儚さの対を行く、4K画質で顕現する勢いです。

また、劇中に見るように人間以外の4人は願いを達成した後「4人で頑張ってる」ようなのであの世(天国、浄土)でもライブをしているのでしょう。
今回の衣装はぶれえめんの衣装でもありますが、「あの世」でのライブ衣装でもある。

上で書いた曖昧なルールをもう一度、

・モノクロベース
・ポップにする(外見的なユーモアではなく
・キャプション無しで幽霊や死が伝わるヴィジュアルにしない

上記三つに、
・パワフル(儚さの対を行く)
・「あの世」でのライブ衣装 
も加えます。

これでたたき台と呼べるものには成ったでしょうか。


6.日の出ロゴ刺繍

堅苦しい?文章が続いていましたが、ここからは肩の力を抜いていきましょう。具体的なことを書いていきます。
着物袖はオーダーで継続、二重襟は和装の重ね衿の洋服化引用として2-4thで継続。
あと今回は最初から前回はセーラーカラーで乗せた背面の刺繍も継続する気でいました。理由は単純、衣装は広報資材である、という個人的な理念に適っている仕様だと判断しているためです。
今回用の図案は良いと思える物を作ってはいましたが、劇の外に出るものではなかったためボツに、日の出ロゴを継続しています。
衣装にしか存在しないグラフィックの継続使用を許可を頂いたことに感謝します。色は金と白。
水引きでは白は神様の宿る色でお祝いにもご不幸にも使い、金と白の合わせはお祝い。
今回の白は先に書いた「紅白」における紅の対の白として扱っています。この白の扱いは意味としてマイナスポイントのため慶事の最上格である金を合わせて相殺を図っていますが(意味として成立するかは不明)、他に金(に近しい色)を二ヵ所採用しています。後で書きますが、決定順序はそちらの方が先です。


7.ダブルライダース

衣装を見ての通り身頃部分はダブルライダースジャケット風です。上襟を省略しているため”風”。
個人的に和装とダブルライダースに何となく親和性を感じているためこれまでも何度か候補に上がってきていました。2ndの衣装記事を読んだ方、覚えていますでしょうか。2ndはライダースジャケットを通過したデザインです。
このライダースは儚さの対を行くパワフルに合せるものとして入れています。そもそもアイドルが初めての音楽劇での全国ツアーを行う「推して参る」と言わんばかりの姿勢を見れば強い(パワー的な意味で)衣装を作りたくなります。

引用記事にあるようにライダースは1950~1960年代にアメリカでバイカーズ、英国においてロッカーズ、1970~1980年代にロンドンでパンクファッションの一角になります。(この記事めっちゃ面白いので興味ある方は是非読んでみてください。)
無骨、反体制、不良そんなイメージ。
全く合理的な説明はできませんが、不良的なイメージを組み込みたい欲が前回衣装からあります。

ほぼ余談ですが、映画「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」を思い出してもいて、白装束にダブルライダースのベストを着たバンドマンとか格好良いかもな、と思っていました。よって袖(の上側)が白いです。

ついでに襟について。
これまでは二重襟を継続してきました。今回はそれの少し変形です。基本的なシャツカラーは継続し、ライダースの上襟は無し。セーラカラーはラグランスリーブと前身頃の継ぎ目から生えています。襟よりマントっぽい。
3種類の襟。1+0.5+0.5=2のような。

ライダースのファスナーは左右ともに配置し、身頃縫い付けの物は切れることなくセーラーカラー裾まで入っています。肩部分、セーラーと身頃とラグランの接続箇所の縫い順がこれまでで上位に食い込む縫い順の複雑さで、10数センチの間に内縫い、重ね縫い、落としミシン縫い留めの3種類の縫い方を使って作っています。
画像載せます。セーラーは表だけにファスナーが通っています。前回同様、ネックラインとセーラーは接続していません。
妥協できず頑張って構造作ったけどシャツカラーで隠れて見えなくなります。


8.逆蓮

あの世はBZT(弁財天)48の一強だそうで。弁財天についてもリサーチをしました。
衣装を見ての通り採用はありませんでしたが、そういえばそうだった、で仏様の像は蓮の花の台座の上にあることが多いのが気になりました。
極楽浄土の風景としても蓮の花のイメージがあります。
その台座は蓮華座、蓮華台、蓮台と呼ばれています

この蓮の花の造形を衣装に組み込もうとしました。

ここで一つ衣装というか、衣服の規則(偏見)。衣服は基本的に身体を支持体に布で作る造形です。布は柔らかい。よって重力に従うことになる。
もう少し簡潔に、上から下に向かうのが基本的な流れ、ということ。一般的になっているもの、例えば襟、パフショルダー、極端な形のパッド入りショルダー等を除けば、下から上に向かう形は基本的には違和になる。アイドル衣装では視線は顔から下に向かうのが基本と考えているので流れを遮るのは意図しない限り望ましくない。
和装ではそのような造形は見たことがない。
また手足を身体の端と表現するように(末端冷え性とか)、頭から端に向かう上から下への認識は身体その物にもあるのかもしれませんね。

そういった意味で蓮華座を組み込もうとすると違和しか生じませんでした。
ここで衣服の規則に乗取って下に向かう形、つまり上下を反転させるとどうでしょうか。可能性が見えて来ました。
見えてきたが、、一つ不安が。

和服の前合わせは通常右前(左の衿を上)に着ますが死装束においては逆になります。これは逆さ事と言い、死装束のほかに北枕、逆さ屏風、逆さ布団、逆さ水等いろいろ。
逆さ事の起源は諸説ありますが、死後の世界は現世と様々なことが逆であるため、死後故人が困らないようにするため、死者の世界と現世を区別するため等。死装束の左前は、かつて中国では貴人は左前、庶民は右前で衣服を着るものとされており、死後は貴人も庶民も平等に神仏に近い尊い存在になるという考えから、死装束は左前に着せるという説もあります。

つまり、仏様の台座から引用した物を逆さにして使うのって大丈夫なのか??と。
逆さ事は慣習の色が濃く宗教的な作法ではないそうですが(知らなかった)、調べた手前気になります。

ここで逆蓮(さかばす・ぎゃくれん)を見つけました。

唐様、中国風の建築様式(鎌倉時代に宋から伝わった禅宗寺院の建築様式)での高欄(落下防止にとりつけた柵状の物)の親柱(高欄の端や曲がり角の太い柱)頭部に着けた蓮の花を逆さにしたような飾り、です。
恐らく親柱頭部の飾りとしては擬宝珠(ぎぼうし・ぎぼし)の方が記憶にある方は多いかもしれません。擬宝珠の方が一般的なようで、逆蓮は「代えて取り付けた物」と記載があります。

ザックリ書くと。寺院の柵の柱の上についている装飾の一種です。

逆さにして良いのか。
蓮華座を起点に逆蓮から引用する形にします。
衣装のどこに逆蓮の要素が入っているか分かりますでしょうか。トップスの裾の金(渋めの色合い)色生地のギャザーフリルです。
ここまで書きながらこれもダイレクトな引用には至らず。

金色は逆蓮ではなく、蓮華座の色を引用して採用しています。またこの金色は後に書く真鍮装飾に合わせ渋めの色合いです。良い生地。

伝わらない前提で書きますが、この金色フリルが全体のデザインを作る突破口になっています。これを決めるまで大変だった。


途中

後になって蓮華座でも上向き下向き両方の蓮の装飾があることに気づきました。反花と呼びます。


9.生地/色柄

現場で衣装をご覧になった方はお気づきかと思いますが、袖の生地が若干透けています。透明生地ではないので若干です。

袖の上側白色生地と、袖の下側と身頃の紺色生地はからみ織りの生地です。

からみ織りは生地の織りの名称です。
衣服の中で多く見かけるのは平織りと綾織り(ツイル)、朱子織り(サテン)でしょうか。例えばオックスフォードシャツなんかは平織り、チノパンやデニムは綾織りです。チノ(一般的にツイル)は経(たて)糸、緯(よこ)糸共に同じ色、デニムは経糸のみ染められています。朱子織は経糸と緯糸が交わる点を目立たないようにして、どちらかが表面に長く出るようにする織りで滑らかで滑りが良く光沢があることがほぼ。ツイルやサテンは織り方を指す名前だったりします。
ちなみにTシャツによく使われる天竺生地は編み生地です。ニット生地。

そしてからみ織り。経糸が絡み合いその間に緯糸を通す織り方。織り目が荒めなのが特徴です。通気性に優れ夏物の和装や浴衣に使用されてきました。この織りの粗さが若干の透け感を作っています。
そう、ここにきて夏要素投入です。
上で書きましたが白装束、経帷子のベースは白い夏用の着物です。
今回は3色3種類の織り柄のからみ織り生地を採用しています。


花柄。今回衣装は「あの世」でのライブ衣装でもあるので、あの世=極楽浄土が描かれた絵画を調べながら雰囲気それに合う柄生地を探したり。
描かれる極楽浄土はパステル調の色合いの物がほとんどで、それに近しい柄生地は今回の方向性には合わない。合わないというか、デザインを進めていく中でもっとコントラストの強い印象強めの生地が欲しくなった。

例え話ですが、夜桜のように時間帯+桜の季語として朝桜、夕桜があります。どれも良いがこの中なら夜桜だな、という感じ。
夜桜に近しい?季語で桜月夜(桜の花が月夜に照らされ映えているさま)、花明かり(桜の花が満開で、闇の中でもあたりがほの明るいこと)があります。これらもイメージに近い。
とはいえ、採用生地は黒い背景にカラフルな花と葉がプリントされたものです。コントラスト高め。ライトアップ夜桜。この例えはあまり良くないですね。人工的現代風情。かつて桜を詠んだ俳人達があれらをみて何を思うか聞いてみたい。あれもまた良しか。
夏なのに春の季語引用してしまいました。戻ります。


さて次はチェック柄です。
書こうか迷い、書かねば色々書いたのに何故書かぬ、となってしまうので書きます。
上の方、幽霊画の部分で何かピンときたら鋭いと書きました。これです。
これで伝われば嬉しい。

この世には透過データ、透過画像と呼ばれるものが存在しまして。その透過部分は白とグレーの"チェック"で表現されます。画像編集ソフト等扱っている方はご存じのことでしょう。
幽霊の足元が透けているという部分に思ってしまった。透過チェックのプリントにすれば透けていることになるんじゃないか。時たま見かける透過ネタ。
衣装的な生地表現で考えるならばオーガンジーやチュールなどの透明生地を重ねてグラデで不透明に見えるようにするとか、その方が妥当な感じがします。
まぁ、透過チェックを起点にそのまま進めました。
だからスカート部分がチェックなわけです。
先に書いたモノクロベースの要素でもある。

最終的に白黒で3種類のチェックを採用しています。
からみ織りチェック、ブロックチェックプリント、シアーブッロクチェック。全て異なるテクスチャーです。
透過チェックは和柄である市松模様と同じ柄なのだから採用すれば良いのに、と思われるかも。白黒の市松模様の生地もサンプルピックしていましたが、印象が強すぎて、、ね、
ヴィジュアル優先。


10.真鍮チャーム

個人的にずっと作り方かった金属製のオリジナルパーツ、今回はシャツカラーにきのホ。ロゴ、ファスナーのスライダー(引き手)チャームとして紙垂を真鍮で作りました。レーザーカッターで制作しています(外注)。


以上です。ありがとうございました。


11.追記 スカートと袖 

チェック柄の理由は透過と現代の弔い引用だけど、あんなに多用しているギャザーについて書いていなかった。

着物は平面的なパターンで作られる。端的に言えば四角。なかでも着物袖は四角形パターンで作る、着物で唯一の分量装飾に見える。ドレープ。
だからそれと洋服での四角パターンの分量装飾をぶつけようと考えた。
洋服での四角で作る分量装飾、多分最も一般的なのはギャザーやプリーツを用いた物だと思う。プリーツは和装的な要素を含むのでより洋服的なギャザーで。
2/5人のスカート裾が水平でないのは四角パターンのスカートのため。四角形の真ん中に穴をあけて履く形。平面パターンで作る分量装飾。ドレープ。
ティアードは和装の重ね的な引用もありますが、どちらかと言えばチェックとギャザーで作れる印象を相応しい形で濃くするために採用しています。

袖は和服、スカートは洋服。パターンはどちらも四角形、みたいな対比です。


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