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会社に流れる“時間”をいかにコントロールするか?

会社ごとに「流れる時間の速度」は違う。30年かけて「100」の事業を作るのか? それとも3年で「100」の事業を作るのか? この時間軸をどちらに設定するかで、日々の仕事のスピードは変わってくる。急成長するスタートアップを作り上げるには、時間軸を後者に設定し、日々のプロジェクトをとにかく速く速く速く進めなければならない。経営者の役割は、この「会社に流れる時間」をコントロールすることなのだ。
 
これはいわば「メトロノーム」に近いかもしれない。4ビートなのか8ビートなのか、会社におけるメトロノームのピッチを決めるのがCEOであり創業者である。
 
創業期の会社は、まだメトロノームが小さいため、速く動かすことが可能である。しかし、メトロノームが大きくなるにつれ、同じペースを保つのが難しくなってくる。会社の規模が10人になり20人になり30人、100人、300人……と増えてくると、メトロノームがどんどんどんどん大きくなり、動かしづらくなる。
 
しかし偉大な会社は、どれだけ規模が大きくなっても、早いペースでメトロノームを動かし続けることができる。テスラのような会社は、世界でいちばん大きな規模になっても、すさまじい勢いでメトロノームを動かし続けているわけだ。どれだけ会社が大きくなろうとも、ビートを徹底的にコントロールし、速いペースを保ち続ける必要がある。経営者は徹底して「時間」にこだわりを持ち、コントロールしなければならないのだ。今回はそんな話を書いていく。


■大切なのはアウトプットの「質」より「スピード」である

私たちスタートアップは、実際に世の中で流れる時間よりも、10倍、20倍の速い時間で成長しなければならない。だが世の中の常識的な時間の流れに引っ張られてしまうと、世の中の平均に回帰してしまう。すると、そこで成長が止まってしまうのだ。そうならないためには、どうすればいいのか?
 
大切なのは、アウトプットの「質」よりも「スピード」を重視することである。
 
たとえば「人事制度を作り変える」というプロジェクトがあったとする。やり方には2つのチョイスがある。ひとつは「半年かけてプランニングして、さらに半年かけて従業員に周知をし、1年後にリリースする」というパターン。もうひとつは「少し甘くてもいいから、1ヶ月でプランニングをして、すぐに発表をして、来週からリリースする」というパターンだ。
 
前者であれば、社内での波風はあまり立たない。新しい制度に、みんながなんとなく馴染んでいくだろう。一方で後者のやり方をとると、人事制度が突然変わるため、社内はざわつくと思う。整合性の取れていない部分があり、社内のさまざまな人から不満も出てくる。「この人事制度で彼女は不利益を被った」とか「彼は過剰な評価を受ける」といったアンフェアが生まれることもあるだろう。しかし私は、それでも後者のやり方をとるべきだと考えている。
 
1人、2人のアンフェアネスをケアして全体の生産性を10分の1に落とすのではなく、多少のアンフェアネスには目つぶって、10倍速くアウトプットを出す。これを「問題だ」とするカルチャーがあると、会社に流れる時間はどんどん遅くなってしまう。そうではなく、社内のみんなが「また変わったよ」と半ば呆れぎみに、みんなが納得するぐらいの状態であったほうが私はいいと考えている。なぜならば、アウトプットの「質」よりも「総量」を上げることが重要だからだ。
 
1年かけてプロジェクトを進めるよりも、1ヶ月でプロジェクトを進めたほうが、実質的には12倍のアウトプットを出していることになる。これはつまり、生産量が12倍高いということだ。時間あたりのアウトプットの総量を上げる。この積分値を最大化することが重要なのだ。
 
スピードを上げると、もちろん失敗は多くなる。だが、それはむしろ良い状況なのだ。逆に失敗が少ない状況はあまり良い状況とはいえない。プロジェクトの成功確率は「5割」くらいでいいと考えている。むしろ成功確率が「9割」の会社は、多くの場合、ゆっくり物事を進めすぎているのだと思う。もちろんアウトプットの質も重要だが、それよりもコンスタントに短い時間軸でアウトプットを出し続けていくことが大切だ。その中には「いいもの」が必ず出てくるからだ。
 
失敗をしてもいいから、とにかくひたすらバットを振り続ける。さまざま施作を継続的に速いスピードで行い続ける状態を、会社の中で作ることが重要である。

■会社が大きくなるにつれ、時間の流れは遅くなっていく

会社を立ち上げたばかりであれば、まだレガシーもないため、スピード感を持って「すぐに作って、すぐに出す」というやり方を取りやすい。創業者が全てを決めてどんどん進めていけるため「完璧さ」にも固執しづらい。
 
しかし、人が増えて会社の規模が大きくなるにつれて、時間のコントロールは難しくなる。次第に完璧さを求めるようになってしまうのだ。プロジェクトの発案者も、みんなに気を遣って「1年プラン」の長い時間軸の企画を出すようになってくる。だがよくよく内容を見てみると、実際のところその多くは1ヶ月でできるようなものである。
 
結果的に、本来必要な期間の10倍の時間を使ってしまう。本当は10倍多くの手が打てたはずなのに、みんなが1つのことをやるのに時間をかけ過ぎてしまい、会社の成長速度が落ちてしまうわけだ。とくに創業社長が交代してしまうと、その傾向は強くなってくる。そうならないためには、つねに高い目線を持ち続け、会社の時間が遅くならないようにコントロールする必要がある。
 
そもそも会社とは、大きくなるにつれて成長速度が自然と遅くなっていくものである。「成長率」を維持するのは本当に難しいのだ。たとえば1年目に1億円の売上を立てた会社が、2年目に10億円まで成長し、それが3年目で20億、4年目で30億……と売上を伸ばしたとする。同じように10億ずつ成長していても「成長率」は下がっていることになる。1憶円から10億円のときは10倍の成長、10億円から20億円のときは2倍成長をしているが、20憶円から30憶円まできてしまうと、1.5倍しか伸びていないことになるからだ。90憶円→100憶円になると、もはや10パーセントの成長でしかない。10%の成長企業など、成長企業とは言えないくらいだ。
 
会社が大きくなるにつれ、成長率はどうしても寝ていってしまう。するとだんだん「なんとか50%成長を維持しよう」「30パーセントを維持しよう」と目標が下がってしまうのだ。そうならないためには、会社に流れる時間をコントロールし、意識的にアウトプットの総量を増やさなければならない。それが成長率をどれだけ維持できるかにかかわってくる。
 
私が前職で作ったラクスルは、上場して5年間、毎年約50%の成長を続けている。この点については、私とその仲間は誇れる仕事をしたと思っている。しかしこれを50%ではなく、さらに100%の成長を継続する文化を作れれば、同じ期間で10倍以上の大きな会社が作れたということだ。そしてこの成長率の50%、100%、200%の差を決める要素が何かといえば「会社に流れる時間」なのである。
 

■みんなが心地良いペースで働いてはいけない

みんなが心地よく働ける環境を作り上げようとすると、時間がゆっくりになっていく。そのほうが働くのはラクだ。しかしこれを許容してしまってはいけない。「会社に流れる時間」とはある種の文化、カルチャーだからだ。一度ゆっくり進めるカルチャーが当たり前になってしまうと、それを元に戻すことはほとんど不可能である。
 
だからメンバーには「自分の思い思いのペース」で仕事をすることを許容してはいけない。「いつまでにこれをチームで成し遂げよう」とリーダーが目標を設定したら、それをそのままメンバーに落としていく。「現場のモチベーションを大切に」や「現場がやりやすいように」といったことを重視しすぎると、時間の流れは遅くなってしまう。ハイボールでデマンディングではあるが、やはり創業者はこの「速い時間で多くの大きなことを成し遂げる」ことに強いこだわりを持たなければいけない。
 
たとえば我々は、来月に新しいオペレーションセンターを、東京のカントリーサイド、千葉の海浜幕張という場所にオープンする。当初の予定では、オープンは来年の1月だった。発案したメンバーは4月の時点で「センターを8ヶ月かけて作り、来年の1月にオープンしたい」と提案をくれた。しかし私は、それに対して「8月にオープンしてください」と要求した。準備期間を8ヶ月から、3ヶ月に大幅に短縮できないかと要求したわけだ。そして実際、それは実現できた。100人規模の新しいカスタマーサポート・オペレーションセンターを、わずか3ヶ月で作れたわけである。
 
「3ヶ月でやろう」と決めたとき「いや、3ヶ月じゃ無理だ」「半年なのか1年なのか」と議論してしまうと、物事の進みは遅くなってしまう。ゆっくり進めるのが当たり前になってしまう。そうではなく「どうやったら3ヶ月でできるだろう?」と発想を切り替える。こうしたカルチャーを作ることが重要なのだ。
 
30年で「100」を作るのではなく、3年で「100」を作る。つまり10倍速く何かを成し遂げるには、もちろん資金調達や採用などといった、さまざまなやり方がある。しかし何よりも、会社にいる一人ひとりのメンバーが、30年のペースで働いている人の10倍多くアウトプットを出さなければならない。だから経営者は、すべての従業員に10倍多くのアウトプットを求めることになる。
 
しかし多くの人からするとそれは非常識であるため「無理だ」と言われてしまう。そのとき、創業者の最大の役割は「これでいこう」と言い切ることなのだ。みんながプッシュバックするものに対して「いやいや、我々が目指しているのは3年で100を作ることだから、そこからバックキャストすると、この時間で実現しなければならない」と言わなければならない。この点を意識しないと、会社はだんだんと「30年で100コース」に落ちてしまう。そして一度そうなったら、ハイグロースのスタートアップは作れないのだ。

■時間の流れは「目標」からのバックキャストで決める

“会社の時間の流れ”を速くするのは「いつまでに何を成し遂げるのか?」という目標を明確にすることがまずは肝心だ。我々には“Aim High & Strive for Excellence”というバリューがある。Aim Highとはまさに、短い時間軸で大きなことを成し遂げていくという意味だ。そして社内で「何がAimHighなのか」を具体的にセットする。この目標からのバックキャストで、時間の流れも決まってくるわけだ。
 
組織が大きくなると、承認プロセスが複雑になり、なかなか物事が前に進まない……という話をよく聞く。それはおそらく、この「目標からバックキャストで時間の流れを決める」ことができていないのだと思う。もちろん企業が大きくなるにつれて承認プロセスは必要にはなるが、それによって物事が進まないのは本末転倒だ。時間をコントロールする意識のあるCEOであれば、成し遂げたい目標とその時間軸に合わせて、承認プロセス自体を変えていく必要がある。
 
フィリップスの変革をしたCEO、ファン・ホーテンは、本質的に必要ではない承認プロセスをすべて取っ払う人だった。「短期間で社会に大きなインパクトのある仕事をする」と目標を決めたら、そこからのバックキャストで会社の仕組みを作っていくのだ。

■いちばんの敵は“常識”である

経営でいちばん大切なのは、お金ではなく「時間」だと考えている。もちろんお金の制約も大事だが、圧倒的に重要なのは時間の制約である。なぜならお金を増やすことはできるが、時間を増やすことはできないからだ。だから経営者は、時間をコントロールすることが何より重要なのだ。
 
そして会社に流れる時間の敵は“常識”である。「常識的に考えてこの時間軸では無理だ」と言う人が、必ず出てくる。とくに社外からきた、速い時間感覚に慣れていない人だとそうなってしまう。別の時間軸を持った人の常識からすると、非常識に見えるわけだ。そういう人が増えてくると、会社の時間はどんどんスローになる。
 
そうした“常識”に、自分たちの時間をコントロールされないようにする。それができれば、大きな会社であっても、意思決定のスピードを速くすることは可能である。たとえば創業者が今も残ってるNVIDIAのような会社であれば、規模が大きくなっても非常に速いスピードで意思決定をし、高速でプロジェクトを回している。また、イーロン・マスクもものすごい勢いで世界的にインパクトのあるものを作り続けているし、元uber社のカラニックも、5年6年でuberの仕組みを世界中に広めていった。日本の会社であれば、ユニクロやソフトバンク、楽天はものすごく速いペースでの経営を、もう30年間も続けている。とくにユニクロの柳井さんの時間感覚は、本当にすごいと感じる。
 
そうしたCEOの多くは、一緒に働くのが大変な人ばかりだと思う。周囲からは「クレイジーだ」と言われる人も多いはずだ。たとえばNVIDIAのCEOのジェンセンは「僕はスーパーハードワークで、ハイボールを投げ続けている。一緒に働くのは大変だ」と自分自身で言っていた。これは求められるアウトプットの水準が「高い」というより、多くの場合「速い」のだ。メンバーから「これを1ヶ月でやります」と言われたら「1週間でやってくれ」と言うし、「1週間」と言われたら「明日まで」と言う。

 しかし、これが創業者のすごく重要な仕事なのである。
「我々における常識は何か」を規定し、それを体現していくこと。自分たちにとっての“常識”と異なる“常識”が入ってきたときに、そこになびかないこと。会社が大きくなっても、自分たちの常識を5年、10年、20年と持ち続けていくことが、創業者に求められることだと考えている。


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