東京マラソンを楽しみにしていた皆さんへ。

僕の東京マラソン

僕も今年の東京マラソンは凄く楽しみにしていました。何故なら、僕の隣の席の上司Hさんが偶然今年の東京マラソンに当たっちゃったからです。でもその人、全然練習しないし、糖質制限とか言って毎日ハイカロリーなものばっかり食べているのです。昨日はグルテンフリー始めたとか言ってたくせにお好み焼き屋さんに行くと言っていました。笑 先日Hさんのお誕生日に脂肪が燃える系のサプリメントとプロテインセットをプレゼントしました。サプリメント飲んだら「本当にカラダが燃える」とか言って隣で汗ばんでいるのでちょっと面倒くさいです。笑
東京マラソンは毎年仕事として関わってきましたので淡々とこなしてきましたが、今回はHさんのおかげで楽しみで仕方なかったです。なので本当に残念です。嘘でしょって思ったら本当でした。でも、9月に当選してから今日まで楽しかったので、この楽しみがもう1年続くと思うと楽しみが続くので得した気分です。来年の参加料はチームのみんなで割り勘して出してあげよう、なんて話をしています。

また前日に東京マラソン1Milesというイベントを予定していました。TrackTownShibuyaの西本さんと横田さんと僕で実質作ったようなイベントだったので、できなくなってしまったのも本当に残念です。超豪華なゲストたち、超攻めた音響。みんなに見てもらいたかったし、僕も見たかった。これ、もしかしたら陸上界変わるかもって思ったぐらい。あ〜残念。サブトラックが幻になってしまいました。でも仕方ない。

今年のテーマShow Your Story

今年の東京マラソンのテーマは「Show Your Story」です。東京マラソンのレースディレクターである早野さんは僕が担当するRunLinkプロジェクトのボスです。早野さんはエリート選手から市民ランナーのことまで常に色んなことを考えています。「東京がひとつになる日」というコンセプト、毎年のテーマ、デザイン全て早野さんが考えています。ここだけは絶対外注しないと言っています。そういう気持ちが大会の面白さに繋がっているんだと思います。ストーリーが大事だっていっつも言っています。ある時会議室から「PVがどうだとかエンゲージメントがどうだとか、そんはことより大事なのは当日参加するランナーにどう喜んでもらいたいのか、テレビの前の視聴者にどう思ってもらいたいのか、そういうことをもっと真剣に考えろ」的なことを早野さんがスタッフに大声で言ってるのが聞こえてきて、僕はこっそりメモりました。こんなにランナー想いな大会はありません。

東京マラソンとは

東京マラソンとは大都市東京の機能を止めた巨大なお祭りです。東京マラソン2017のレポートによると沿道の応援は151.2万人だそうです。もはや3万8000人が走るマラソン大会ではなくなってしまっています。

https://www.marathon.tokyo/news/detail/images/EconomicImpactOfTheTokyoMarathon2017.pdf

東京マラソンは東京マラソン財団という組織が運営しています。多くの大会は新聞社さんだったりするので時期によっては野球とかサッカーとかお祭りとか色んなイベントの中のひとつがマラソンだったりします。東京マラソン財団は細かいことは色々やっていますが東京マラソン1発に全勢力を注いでいます。東京マラソン専門組織です。

競技運営のスタッフは、東京マラソンのコースとして道路を使わせてもらう為に、警察との調整や沿道の商店街や住民との調整を繰り返し繰り返し行っています。本番の大会は見えないところで現場スタッフが築き上げた信頼の上に成り立っています。第1回の時は見向きもしてくれなかった商店街の方々から今では忘年会にお呼ばれするほどらしいです。

昨年秋に行われたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)も、東京マラソン財団の皆さんに、ほぼお世話になりました。彼ら彼女らがいなければあの夢舞台は作れていません。パラリンピックのマラソンは東京でやりますので、恐らく大活躍されることでしょう。

コロナウイルスの問題

そしてコロナウイルスの問題は、公衆衛生(地域社会の人々の健康の保持・増進をはかり、疾病を予防するため、公私の保健機関や諸組織によって行われる衛生活動。)の問題になっています。僕が都民の命を預かる東京都職員の立場であれば万が一、東京マラソンがきっかけで感染拡大したらという想定で、やってくれるなって思うと思います。リスクを取りに行かないことが正解な気がします。難しいですねぇ。

今回の決定の経緯は僕は知りません。でも当然ながら東京マラソン財団単独で決められる次元の話ではもはやないことは容易に想像がつきます。主催者都合の決定なわけないです。中止にすることで、発生するであろう膨大な作業を想像すると、ぼくは気が遠くなる思いです。。

1年間かけて準備してきたことが全部吹っ飛んであと2週間切った中で仕切り直して大会をやらなければいけません。エキスポ辞めて、関連イベント全部辞めて、辞めた後どうするかなんて考えてたら判断が遅れてしまうので恐らく見切りでの決定でしょう。パートナー企業の皆さんも一緒です。

17日にボランティアのメルマガが送られてきました。一旦ボランティアスタッフ全員キャンセルして、もう一回集め直しているようです。エリートだけになるので交通規制解除が早まりますって沿道への説明もう一回するのでしょうか。広報チームは報道対応に追われていることでしょう。スタッフ全員本番まで不眠不休の戦いを強いられるんじゃないかとも思います。

すみません。返金は難しいです。

ランナーの方の気持ちはHさんのおかげで少なからず理解しているつもりです。安くない参加料ですから僕もランナーなら普通に返して欲しいです。でも知らんがなって言われてしまうかもしれませんが、返金はやっぱり厳しいです。収支は全て公開されております。ご覧いただければ分かりますが参加料収入は約5億円です。協賛金収入も総額では25億円ととんでもない額ですが、30社近くのパートナー企業さんがいますので1社当たりの金額で考えると参加料収入を上回る企業さんは最上位クラスの企業さんぐらいではないかと思います。

そして、東京マラソン財団の事業計画書に書いてあるように東京マラソンはただのマラソン大会ではなく「世界最高峰の大会」を目指しており、安全面から演出、海外選手の招聘、ホスピタリティあらゆる面で世界最高峰を目指しております。過去ボストンマラソンではテロが起きておりますので、テロ対策にも万全の体制を組んでおります。

2019 大会年度の事業実施に当たっては、東京マラソンを通じたランニング
スポーツのさらなる発展を目指すとともに、東京マラソンを世界最高峰の大
会へと成長させ、その地位を強固なものとするため、大会としての付加価値
向上に向けた取組みを推進する。

http://www.tokyo42195.org/common/pdf/plantm2019.pdf

東京マラソンのやり方が全国のマラソン大会の教科書みたいになっています。これから開催を予定している大会主催者は東京マラソンを参考にします。なので東京マラソンが翌年の参加料無償対応できたとしても、他の大会でも同じ対応をしなければならなくなります。地方の大会はスポンサーがつきませんし、ついても100万円単位の金額です。僕の肌感覚としては参加料収入の割合が60%以上の大会がほとんどな気がします。残り40%も補助金など行政のお金です。なので参加料を返してしまったらお金がほとんど残りません。

中国在住の方へは特別な措置として、他の方に対しては有料にする東京マラソン財団の対応は英断だと僕は思います。ちなみに対象は「中華人民共和国在住の皆様」なので主に中国、香港、台湾からのランナーへの措置です。人数にすると約3000人です。(国・地域別の参加者は大会プログラムに書いてあります。手元になかったのでアバウトに書かせていただいております。)全体の約10%、金額にすると約45,000,000円。ぎりぎり飲み込める金額ではないでしょうか。中国では全人代の開催すら延期になっている状況ですから本当に大変な状況なのでしょう。対応として来年東京マラソン出るとしても参加料が発生してしまうなら、今年行っちゃおうぜ、となってしまい兼ねない。僕なら行きます。なので、来年の参加料いらないから今年は来ないで欲しいというメッセージだと思います。これが公衆衛生の観点で見たときの対応なのではないかと思われます。

昨年台風19号で多くの大会が中止になったこともあり、僕は陸連の中で中止状況を調査しその結果を踏まえマラソン大会の中止に関するガイドラインの素案を作っていたところです。その内容は中止の場合でも返金はできないという内容にするつもりですし、それが主催者の声と認識しております。過去、返金対応した経験のある方に話を聞きましたが、一人一人口座を聞き取ってお金を振り込む作業はコストも時間も物凄くかかって大変だったと聞いています。結局、人件費とか振込手数料とか諸々かかってしまったと。

マラソン大会の費用は基本的に、ほとんどのお金が大会開催する前に出てしまっていて、あとは大会当日を迎えるだけ状態です。問い合わせ窓口の人件費、参加賞Tシャツ諸々の製作物の費用、募集告知に使った宣伝費諸々になります。参加料を返金しなければこれらの支出は予算内ではありますので対応可能です。返金してしまえば、行政負担に委ねざるを得ません。音楽イベントと違うのはCD等他で売上を立てられることが難しいので、どうしても参加料に頼らざるを得ません。

また中止の場合に発生する予算外の費用として考えられるものは、完走メダルやフィニッシャータオル等の完走者への記念品を個別に送る為の費用です。保管していても費用が発生してしまいますので。あとは、事前に送付した計測チップの回収です。中止になってしまえば、ほとんど回収できないはずですので、そこの費用は主催者が負担するのか、計測会社が負担するのか。普通の大会でもチップ回収し忘れると1個あたり数千円支払いますので大きな損失です。その他、中止をした場合、何にお金が発生するか、何が大変なのか僕もまだ勉強中なので細かくはいつか書きたいと思います。東京マラソンに関してはとにかく規格外なことばかりですので、今回の件で発生した諸々の事象はある意味貴重な経験になるはずです。そこは僕がしっかり話を聞いて共有しないといけませんね。

あとは興行中止保険があるのでは?と思いますが、シンプルに高いです。MGCでもかけていましたが掛け金は1000万円超えています。お金がある大会にしかできない対応ですので、それをスタンダードにしてしまったら大会が潰れてしまいまうか、それを賄えるように参加料を値上げするしかないと思います。ニューヨークシティマラソン等海外には「Race Entry Fee Insurance」というのがあり、個人が参加料に保険をかけています。日本にはマラソンイベントに特化したものはありませんので、僕はこれを日本でできないか検討しております。ただ金融商品になりますので金融庁の許可が必要でハードルはかなり高そうです。しかも、今回のコロナウイルスのようなケースを保険の対象にするのは難しいかもしれません。

https://help.tcsnycmarathon.org/customer/en/portal/topics/1111607-race-entry-fee-insurance/articles

既にいくつもの大会やイベントが中止になっていますし、これからまだまだ出てくると思います。東京マラソンだけでなく各大会苦渋の決断であると思いますので意思を尊重してあげて欲しいと思います。こういう時、陸連は本当に無力です。何もできず、すみません。せめて僕にできることとしてエンジョイ覚悟で書かせていただいております。

ショックだったこと

東京マラソン財団のスタッフの皆さんの気持ちが伝わっていないようにも見えて僕はちょっとショックでした。何故こうなってしまったのか僕なりに考えると陸連や東京マラソン財団はじめ主催側が自分たちのストーリーを見せられていないからじゃないかと思います。

先日僕が書いたnoteが想定外に反響が大きくて正直戸惑いました。陸連の財務状況の説明に普段の企業の方々の会話の内容、そして少しだけ自分の考えを書いただけです。そんなことで面白いのかと。

中の状況が見えなさすぎる。見せていく努力をしないといけません。中の人の温度感、温もりも含めて伝えていかないと。中で働いている人は特別な人間でもなく、むしろ優秀でもない普通の人たちが、ただただ地道に一生懸命やってるだけです。

参加する側も作る側も楽しみにしてきた舞台なのに。ギスギスした空気はもったいなさすぎます。誰も悪くないんじゃないかなと思います。

MGCファイナルチャレンジ

とはいえ東京マラソンは中止ではありません。エリートレースが開催されます。そしてエリート選手200人だけが走る前代未聞のレースが行われようとしています。

現日本記録保持者大迫選手、前日本記録保持者設楽選手、アジア大会金メダリスト井上選手。オリンピック日本代表の1枠と、日本記録1億円。

https://www.marathon.tokyo/media/press-release/pdf/cc1b9bdf920c5bcf18165e9913c78079.pdf

僕はMGCを沿道で観ましたが、あの緊張感は半端じゃないです。東京マラソンは、もう1回MGCが行われるような状況です。

自粛するべきところはしなければいけませんが、ドッカーンと盛り上げていくべきところはやらないと。シューんとしてる場合ではない。どエライことがもうすぐ起きようとしています。

陸上ファンのみなさんにお願いです。シニカルに東京マラソン中止問題を語ることに時間を割くのではなく、日本陸上史上に語り継がれるような東京マラソンを楽しむことに頭を切り替えてもらいたいのです。

そして、遠方から東京マラソンに出場する予定であったランナーのみなさん。ホテルや飛行機がキャンセルできないようでしたら、そうそうない機会ですから、間近でレースを観てください。普段、東京にいる人はテレビで東京マラソンを楽しみましょう。MGCを一回観た人は我慢しよ。

最後に東京マラソン財団のみなさん。
想像を絶する困難に立ち向かっていると思います。少数かもしれませんが、僕とTrack Town Shibuyaを聞いている人たち、OTTの人たちは応援してくれているはずですので、なんとかこの困難を乗り切りましょう。

最後に最後に、この投稿が消えたら僕が怒られたと思ってイジってください。笑

お金もったいないのでサポートしなくて大丈夫です。笑