陸上競技を考える③

今回はストーリーのある選手について考えてみたいと思います。

何故なら僕には語れる選手、語りたいと思える選手がまだそんなにいないからです。

何を、何故目指しているか。どんな困難に立ち向かっているのか。記録の先に何を見ているのか。そういうことが分かってないのです。

僕は陸上競技のバックグラウンドが全くないので選手のストーリーをマンガで例えるなら1巻から読まないとストーリーが理解できませんし、理解しないと楽しめないタイプです。本来ならオリンピック直前なのでクライマックスに差し掛かっているところだと思いますが。。。

逆にそこが分かると一気に面白くなります。そう思ったのはTrackTownShibuyaの中野瞳さんがゲストの回です。

個人的にこの1年半で一番面白かったかもしれません。ドイツの話とか女子選手特有の悩みとか色々学びのある回ですので是非聞いてみてください。

「和食山口の中野です。」って奥ゆかしい自己紹介も好きでした。

HP見たらこんなことが書いてありました↓↓

『学生時代からお世話になっていて、私の第二の実家のようなところ。ぜひ和食山口の名前をつけて、試合に出たい』という思いから、和食山口所属に。

https://washokuyamaguchi.wixsite.com/mysite/blank-1

今回は、次の内容をピックアップしました。

6m44を出したのが13年前で、私自身の自己記録もその13年前の記録です。でも当時高校生で勢いで跳んでしまったので、どう跳んだのか分からなくなってしまって。あの時なんで跳べたんだろうと探し求めていまいました。
(中略)
ヨーロッパで学んだことをしっかり吸収して結果を出したいです。13年前の自分を超えたいです。今年の目標は東京オリンピックももちろん目指しているんですけど、13年前の自分に勝つことが目標です。

中野さんの話を聞くまでは女子の走幅跳の日本記録とかオリンピックの標準記録とか男女各18種目計36種目のひとつでしかなく、仮に記録が出たとしてもぽかーんとしてしまうと思います。

でも今は、標準記録や日本記録といった分かりやすい線の引き方よりも、中野選手が設定した6m44という特別な線に興味があります。つまり、今シーズン6m44跳ぶかどうか、跳んだ瞬間、跳べた後の彼女の姿を見てみたいと思うのです。

中野さんの話のポイントは今シーズンの目標や目指していることもそうなのですが、彼女の活動の源となっている高校時代の挫折経験とそれからの苦悩を話していただいたことにあります。報知新聞の太田さんからしたら中野さんはスーパースターだったかもしれませんが、毎度のことで申し訳ないのですが僕は知りません。自分のことなんか知らないという前提で中野さんが競技や自身のことを話していただけたことが僕としては大変ありがたかったのです。

いい感じのイラストがあったので載せるとこんな状況です。↓↓ストーリーとは具体的には「What we don't see」の地中に潜っている部分を「What we see」の地上に引っ張り上げる作業が必要ではないかということです。

中野さんの話から、ストーリーさえ共有してくれればオリンピックなくたって十分楽しめるんだなぁと改めて思います。

オリンピックは大きな舞台だと思いますが、オリンピックに重きを置くのはリスクが高いんじゃないかとも思っています。

オリンピックに出ても出れなくても価値を示せる選手になれるような戦略を取った方が良いんじゃないかということです。僕が選手のマネージャーならそういう方向に持っていくかなぁと。

オリンピックに出れるのはほんの一握りの選手ですが、各スポーツの一握りが集まっているので実はめっちゃいます。リオだと男子174人、女子164人、合わせて338人です。学校一個分ぐらいの人数です。

https://ja.wikipedia.org/wiki/2016%E5%B9%B4%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%87%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%82%A4%E3%83%AD%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%81%B8%E6%89%8B%E5%9B%A3

オリンピックに出たら指導者、所属、家族など、いわゆる関係者は嬉しいかもしれません。でもオリンピック出るだけでは世の中の人の記憶に残るにはかなり難しいと思います。

そしてメダリストでさえも記憶に残ることは厳しいという現実を理解する必要もあると思います。

リオ五輪は過去最多の41個のメダルを獲得しました。つまりオリンピアンのざっくり10%がメダリストになったということです。

メダリストになるとそこそこ報道してもらえてテレビにも、まぁまぁ出られるようになります。

でも、わずか4年前の出来事なのに、覚えている選手、数えるほどじゃないでしょうか?

実際とある大学生の卒論をお手伝いしまして、昨年の秋にリオ五輪からちょうど3年が経ったタイミングでリオ五輪メダリストどれぐらい覚えているかアンケート取ったのですが、ほとんどメダリストを覚えていないという結果でした。

一方で有森さんの「はじめて自分で自分を褒めたいと思います」という言葉は、それまでの過程を連想させる言葉であり記憶にバシっと刻まれています。

言葉だけでなく北京五輪の4☓100mで朝原さんが銅メダル(当時)を獲った瞬間にバトンを放り投げちゃったシーンとか。

人の心を動かせるアスリートはメダルの色、関係ないかもしれません。

僕の中で東京オリンピックが来ようが来るまいが、選手が設定した目標、目標に向かって取り組むまでのプロセス、そして目標を達成することの意味といったストーリーをセットで理解できたのは今のところ中野瞳選手だけです。

陸上競技は、オリンピック→世界陸上→アジア大会→世界陸上→オリンピックという形で大きな世界大会が毎年行われる為、グランプリシリーズもマラソンでも「代表選考」が必ずコンテンツに絡みます。

世界陸連の発表で今年の11月いっぱいまでの記録はオリンピックの参加標準記録の対象にはならないという発表。現在の時点で代表の内定を取った選手は、継続して日本代表の権利を有することが日本陸連から発表されました。

逆に言うと、秋以降に延期になった日本選手権は12月以降に開催されなければ「代表選考」という要素が外れシンプルに日本一を決める大会となります。

1991年東京大会以降から2年おきに世界陸上が開催されていますし、アジア大会は昔から4年おきに開催されているみたいですので、1989年以来つまり約30年ぶりに代表選考というお化粧がないシーズンになるじゃないかと思われます。違ってたらすみません・・・。

1986 アジア大会 ソウル
1987 世界陸上 ローマ
1988 オリンピック ソウル
1989
1990 アジア大会 北京
1991 世界陸上 東京
1992 オリンピック バルセロナ
1993 世界陸上 シュトゥットガルト

代表選考というお化粧が取れてしまった、すっぴんの日本選手権です。そこで面白さを作るのにはやっぱりストーリーしかないと思います。

そんな状況では良い記録ももちろん大事ですが、ストーリー出したもん勝ちな気もするのです。

つまり日本選手権そのものには、そんなに価値はなくて、そこに向かうストーリー、山の高さをファンに知ってもらい一緒に登るように事前に仕込むことができた選手の日本選手権というステージだけが面白くなるんだと思います。

今度の日本選手権のコンセプトを勝手に考えるなら、東京マラソン2020大会のコンセプトであった"ShowYourStory"を丸パクリすれば良いんじゃないかなぁと思います笑

当たり前ですが、サッカーやプロ野球はW杯がない年、WBCが開催されない年があり代表コンテンツがなくても、ファンやサポーターが楽しめる仕組みができています。

陸上競技はどうでしょうか。代表枠が最大3枠しかない狭き門をくぐれた人にスポットライトを当てるこれまでの楽しみ方に加えて、そうじゃない楽しみ方を考える時期と捉えるのも良いんじゃないかと思います。

それが、陸上競技を考える①で書いた「オトナの陸上競技の楽しみ方」に繋がるのではないかと思います。

せっかくオリンピックが延期になったので、どういう風にシーズンインして、どういう感じで日本選手権にピークをもってきて、どういう感じでオリンピックに出ようと思っていたのか。オリンピックに対してどういう想いで取り組んできたのか、ボツになったストーリーをお蔵に入れずに出していただけると、みんな好きになっちゃうんじゃないかと思います。

ということで、つくばへ行ったら和食山口に。というお話でしたぁ。

お金もったいないのでサポートしなくて大丈夫です。笑