物理の問題の解き方1

 力学の問題の解き方を紹介します。扱う運動の形式により固有の議論も必要になりますが,ここでは一般的な着眼の方法を説明します。

 物体の運動を決定する要素は,大きく分類すると
1 運動の法則
2 束縛条件
の2種類があります。ほとんどの運動は束縛条件が課せられています。束縛条件のない運動は放物運動(ケプラー運動も含めて)くらいです。
 そこで,運動を代表する変数を導入して,それらに対して運動の法則から要請される方程式と束縛条件を表す方程式を書けば,運動は解決します。しかし,実際の問題に対して,その作業を実践するのは易しくないかも知れません。具体例を通して説明していきます。

力学例題

 ひとつの鉛直面内での2物体の運動なので,各物体の位置,速度,加速度はそれぞれ2つずつの成分を持ちます。運動方程式を書く場合には,原則的には,各物体ごとの加速度の成分が2つずつなので,4つの加速度が未知数として導入されます。
 ところで,力学の議論は登場する物体が受ける力を読み取るところかはスタートします。その際,重力以外の力の大きさは未知量として導入されます。この問題では,2物体間の垂直抗力の大きさと,台が水平面から受ける垂直抗力の大きさが導入されます。そうすると,未知量が6つに増えます。
 物理の方程式は必ず一意的に解が定まります。したがって,この問題では6本の方程式が必要になります。しかし,運動方程式は各物体ごとに方向ごとの2本,合計4本のみです。方程式の不足は束縛条件が補完します。この問題では物体間の束縛と,台の水平面への束縛があるので,それらを定式化すれば方程式が完備します。実際には,台の水平面への束縛条件を反映させて,台の鉛直方向の加速度を予め 0 と決定して方程式を書くことになるでしょう。判断しやすい典型的な束縛条件は,それを反映させて運動方程式を書く場合が多いでしょう。円運動の方程式も,そのような例です。
 台の斜面が平らな場合は,上記のように運動方程式と束縛条件の方程式を書けば,等加速度運動として解決します。しかし,この問題では斜面が曲面になっているので,物体間の束縛条件を具体的に表示することができませんし,運動方程式も解けません(等加速度運動にはなりません)。このような場合には,保存則に注目します。保存則の場合は,4つも方程式が書けません。保存則は運動の自由度の個数分までしか書けず,その個数分だけ書けば十分です。運動の自由度とは,束縛を受けずに自由に変化できる座標の変数の個数です。この問題の場合には,座標の変数は4個導入できますが,束縛条件が2個あるので,その分だけ自由度が減少し2となります。
 どのような保存則が使えるかは,読み取った物体の受ける力の素性に応じて判断します。この問題では,物体間にはたらく垂直抗力以外の外力はすべて鉛直方向にはたらくので,水平方向の運動量保存則が使えます。また,摩擦力がすべて無視されているので力学的エネルギー保存則も使えます。これで,2つの保存則が揃いました。力学的エネルギー保存則の方程式を書くときに,小物体の高さを表す変数が導入されますが,これは小物体の速度の鉛直成分と数学的な関係で結びつく(速度は位置の時間微分です)ので,自由な変数の個数が増えるわけではありません。
 以上の考察に基づいて以下の設問に答えてみましょう。

力学例題設問

 解答です。

力学例題解答

 定型的な問題で,特に意識をしなくても解決できる問題はいいのですが,どこから手を付ければよいのか迷うような問題は,運動を代表する変数(座標)は何か(いくつあるか),それらに対して運動の方程式はいくつ書けるか,方程式が不足する場合は束縛条件を読み取り忘れていないか,という視点から点検してみましょう。

高校生,受験生に物理を教えています。