変位電流と電磁波

 マクスウェルは変位電流(電束電流)を導入することによりアンペールの法則を修正し,電磁気学の理論を完成しました。このマクスウェルの理論により,電磁波の存在が理論的に確かめられます。
 変位電流の必要性や電磁波の発生の仕組みの説明としてコンデンサーに交流電流が流れる場合の極板間の電場に振動に注目することがあります。私の『はじめて学ぶ物理学』にも記載があります。

 これに関してKEKから気になる発表がありました。
「コンデンサーの極板間の電場と電磁波の電場は別物 -100年続いた混乱を解消し、電磁波発生の安易な説明を正す-」
https://www.kek.jp/ja/press/202209271400/
プレスリリースが
https://www.kek.jp/wp-content/uploads/2022/09/pr20220927.pdf
にあり,論文も閲覧が可能です。
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6404/ac8705

 この記事と論文の趣旨は以下のような内容です。
1 マクスウェル・アンペールの法則に因果律を読み込んではいけない。
2 電場には電荷がつくる電場(クーロン電場)と,磁場の時間変動により誘導される電場(誘導電場)の2種類がある,区別する必要がある。
3 クーロン電場が電磁波として伝播することはない。
4 電場についての電磁波の方程式は誘導電場に対する方程式である。

 そうすると,コンデンサーの極板間の振動電場に注目して
「電場の振動→電場の振動→電場の振動」と連鎖的に電場と磁場の振動が空間に誘導されて波として伝わる
という説明は適切ではないということになります。
 確かに,クーロン電場と誘導電場の区別は重要であり,クーロン電場の振動が,クーロン電場の振動のまま伝播することはありません。また,電磁波の方程式

$$
\frac{{\partial}^2E}{\partial t^2}=\frac{1}{{\varepsilon}_0{\mu}_0}\left(\frac{{\partial}^2}{\partial x^2}+\frac{{\partial}^2}{\partial y^2}+\frac{{\partial}^2}{\partial y^2}\right)E
$$

の右辺の電場は,クーロン電場の特性から結果的に誘導電場のみが残ります。
 しかし,左辺の電場にはクーロン電場も含めた全電場とするべきです。つまり,クーロン電場の振動がある場合には,その項も入れておく必要があります。したがって,コンデンサーの極板間の振動電場(変位電流)も電磁波の起点になるという説明も,方程式の解釈としてあながち誤りではないと考えます。勿論,クーロン電場が振動するためには,その電場をつくる電荷の振動(交流電流)が必要なので,磁場のソースは変位電流と言うよりは交流の実電流です。それでも,高校生が電磁波の存在を理解する契機としては,上記のような説明も意味があるのではないでしょうか。
 ちなみに,「ファインマン物理学」では,変位電流の導入が必要な例としてコンデンサーの例が示されています。

高校生,受験生に物理を教えています。