劇作に向けた龍潭譚の分析(1)
第一章 躑躅か丘
空は高く雲ひとつない。少年は姉の言いつけを破り、ひとり町を抜けだす。行くかたも躑躅、来しかたも躑躅。汗ばむ暑さのなか、鮮やかな赤き世界が少年の眼前に広がる。
その赤の陰より、五彩の色を帯びた虫が生まれる。斑猫である。“みちおしえ”とも“みちしるべ”とも呼ばれる毒虫に誘われるまま、少年は道を逸れ、やがてこの虫を打ち殺す。
注目したいのは、少年が石で打ち殺した虫を蹴飛ばすと、「石は躑躅のなかをくぐりて小砂利をさそひ、ばらばらと谷深くおちゆく音しき」という記述があること。つまり、もしこの毒虫をここで殺していなければ、谷深くに落ちていたのは少年のほうだったのかもしれないのだ。
ともかく、この毒虫のせいで少年は道を失い、迷子になるのである。
この極彩色の冒頭を、昭和の団地の風景に写しこみたい。さらには鮮烈な色のイメージを舞台上に花咲かせたい。
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