劇作に向けた龍潭譚の分析(4)

第4章 あふ魔が時

日暮れの神社で「うつくしき人」に出逢った少年は、誘われるまま社の裏の暗がりに足を踏み入れ、不吉な予感を覚えてそこに身を潜める。息を殺していると、社の前には四つ足のモノが歩き去る気配が。「うつくしき人」の姿は煙のように消えてしまった。記憶に蘇るのは、「たそがれの片隅には怪しきものいて人を惑わす」という姉の教えだ。こうして、少年の足もとから俗世がしずかに遠ざかっていくのである。

そのとき、小提灯の火影とともに聞き知った声が近づいてくる。少年の家に仕える下男の声に思われたが、少年は、これを物ノ怪のしわざかと疑いスルーしてしまう。面白いのは世界が俗世から遠ざかるのに連動して、少年もみずから俗世から遠ざかろうと行動してしまうところである。もちろん少年の本意ではない。しかし、この本意と行動の乖離こそ、この龍潭譚という物語の面白さの本質である(少なくともぼくにとっては)。

やがて少年の名を呼ぶ姉の声が聞こえる。
「乖離」の物語が、本格的に幕を上げる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?