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劇作に向けた龍潭譚の分析(2)

第二章 鎮守の森

迷子になった少年は、家路を求め、たらたら坂をひたすら歩く。波のように起伏してどこまでも続くその一本坂のイメージは、あたかも龍の背のようである(第一章に「あらら木のたらたら坂」との記述があるが、あらら木=イチイの葉の印象もまた、龍のウロコを想起させる)。

しかしこの(イメージとして想起された)龍は、けっして人里と無縁に存在しているわけではない。むしろ人による造形物である。道に宿る龍の影だ。少年は知らず龍の影を踏み、知らず龍の影を辿ることで、やがてモノノケの世界に導かれていくのである。

このあたりは、昭和の団地の夕暮れの気配とも親和性が高いように思う。ぼくが子どもの頃は(住んでたのが田舎だったこともあって)まだモノノケが辛うじて生活圏のそばで息をしていた。でも今回ぼくが物語の舞台にしたいのは田舎ではない。いや田舎は田舎だけど、地方都市の盆地だ。モノノケが辛うじて息をしてないくらいの町の気配を書けたらいいな。

それはともかく、少年は道端に座り込こんで休憩したり、ふと姉の顔を思い出して家恋しくなって駆け出したりする。一本坂の起伏は、この少年の情緒と連動しているともとれる。世界が少年の心に侵食してきたのか、少年の心が世界に侵食しつつあるのか。

日が暮れて世界が赤く染まるころ、少年は鎮守の社に辿りつく。見覚えのある神社である。少年はようやく自分の生活圏に帰還したのである。


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