大帝ポペ 井上ゴム緊急企画「つかみどころのない肉」のふり返り


先日終演した実験ライブ「つかみどころのない肉」。まずもっては公演にお越しいただいた皆様、誠にありがとうございました。ぜひとも次回公演にも万事繰り合わせのうえお越しいただければ幸いです。
また、ご来場は叶わなかったものの少しでも興味をもっていただいた皆様。今回はご都合が合わず残念でしたが、ぜひとも次回公演には万事繰り合わせのうえお越しいただければ幸いです。
そして、上記のどちらでもない皆様。あなたが今この文章を読んでくださっているのはほとんど奇跡みたいなものです。このご縁を大切に、ぜひとも万事繰り合わせのうえ次回公演にお越しいただければ幸いです。

さて前置きおわり。今回は、アフタートーク的な感じで、野暮ながら実験ライブ「つかみどころのない肉」をぼくなりに構成の面からふり返ってみたいと思っています。

まずは今作での、ぼくなりの実験について。たぶん今回、共同で企画・構成(そして演出と出演!)を担当した井上ゴムさんの個人的な実験ないしチャレンジは、「ミュージカルという形式でいかに遊ぶか」だったのかなと思うのですが、ぼくの(脚本上の)チャレンジは、勝手に“ヒロインシフト”と名付けた構成でした。
これは文字どおり、主人公(ヒロイン)を物語の途中で交代(シフト)させること、そしてそのシフトに違和感を感じさせないこと、だったのですが、具体的に言うと、登場人物「ミキティ」から「ナギサ」へのシフトを円滑かつ自然に行うことでした。

このコンセプトは、企画の最初からあったものではなくて、実験ライブの場あたり的な稽古を繰り返すなかで浮かんできたものです。

ミキティが「太陽」みたいな人間だという位置付けは、稽古の比較的早い段階で決まって、当初はそんな「太陽」が「AV」に飲み込まれたときにどんな反応を起こすのか、みたいなところが物語の主眼でした。脚本的には王道の構成だと思います。

もしその当初のままの構成であれば、物語のラストに脱ぐのはミキティだったはずです。ところが、プロット(物語の構成)を詰めていくある段階で、ゴムさんから「最後はナギサを脱がせたい」という提案がありました。

その提案について、最初は違和感がありました。なぜなら今作は4話からなるオムニバスで、それぞれの章に小さな物語がありますが、その各話をつなぐ縦糸(大きな物語)はざっくり言うと「ミキティの物語」でした。なのに、ラストにナギサが脱いで終わるのでは、ちょっと意味が分からない。でも、構成を再検討しているうちに、そのルートがない訳じゃないのに気づきました。

ひとつは“ダブルヒロイン”という考え方。
つまり最初からミキティとナギサ2人の物語だと提示するやり方です。
もうひとつは、最初から「ミキティではなくナギサの物語」だというふうに作り替えるやり方。
そして最後に、物語の途中(もっと言えば終盤)でヒロインを交代させる、という方法。

もちろん上記の3つはそれぞれまったく独立したルートというわけじゃなくて、言ってみれば構成上の「さじ加減」の問題でもあります。それはともかく、ぼくはその3つのうち、もっとも安全じゃないルートを選んでみようと思って、その道に“ヒロインシフト”という名前を付けました。

ぼくが考えたのは、こういうルートです。
(1)ミキティの性格属性を「太陽」としたときに、ナギサの性格属性を「月」として、2人を対比させるというのは、王道のやり方で、今回もそれを採用。
(2)「太陽」が輝いているうちは、「月」はうっすらとしか見えない。(ミキティの物語の陰で、ナギサの物語もひっそり進行させる)
(3)物語終盤、「太陽」が一気に陰ることで、「月」が存在感を増す。
(4)その力学を利用して、ナギサを舞台の中央にもってくる。(ヒロインシフト)

すべてプランの通り進んだかというと、そうではないかもしれませんが、概ねのところでは意図どおり進んだんじゃないかと思ってます。まだもう少し検証が必要ですが、大枠ではうまくいった手応えがありました。

もちろん今回は「台本ナシ」の実験ライブなので、「さじ加減」もある程度おおざっぱでしたが、この構成は、もっと緻密にやれば脚本にもいろいろ応用できるのではと感じています。

また、今回は稽古にもかなり参加させてもらえて、稽古および公演を通して、個人的にいろんな気づきもありました。正直、公演としての手応えもありました。

去年からずーっと考えてる物語もようやく創作メモのなかで発酵しつつあります。またしばらくは書くことを通して、演劇とがっつり遊びたいと思います。

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