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セリフの書き殴り1

《ここに書き殴られたセリフ群もまた、戯曲の発火点を探るために思いつくまま刻まれたものです》

「おいお前今日、左目欠損してるぞ」
「蚊に喰われたんだ」
「マジで? もう蚊が出んのかお前んち」
「出たんだ昨晩」
「お前んちの蚊はヒトの左目ん玉喰らうのか」
「シマ蚊だったんだ」
「シマ蚊か」


「氷の水族館はつねに夜をかきむしって眠り呆けている」
「なぜ」
「朝陽が射せばすべてが海水に帰すのを知っているから」


「石を見ろ。かつて山だったもの、大地だったもの、陸だったもの、かつて我が星だったものが砕け、弾け、割れ、爆ぜ、裂け、欠け、流れ、削れちまったその果ての果てで地べたに今転がってんのが、その石だ。石を見ろ」


「七色の斑のある猫を見かけたら捕まえてくれ」
「七色の猫?なんだそれは」
「団地のクソガキどもに滅茶苦茶にラッカー噴きつけられてデタラメな虹を毛に宿した可哀想な猫だ」
「逃げたのか」
「消えちまったんだ。あの大雨の日に」
「失踪したのか」
「消えたんだ、目の前で。雨が降りだしたとたん、レイン…ボゥ!」


「今夜は綺麗な月が出ています。なぜ分かるかって?風がさらさら鳴ってるからです。こんな風の鳴る夜は、空に燐光が舞い、桶屋が儲けます。儲けた桶屋の満面の笑みこそ月の正体なのです」

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