おこめの会『踊らざる』観劇@スタジオドラゴン

住宅街の真っ只中に現れた真っ赤な扉。
中に入ると、コンクリート打ちっぱなしの無機質な空間。アクティングスペースはほぼ正方形に近く、奥行きがかなりある印象。
初めて訪れたスタジオドラゴンでの観劇。上演時間約50分で、AバージョンとBバージョンが30分の休憩(入れ替え時間)をはさんで上演される。

ABバージョンの違いは、登場人物の「妻」のキャストが変わるのをはじめ、脚本は同一ながら演出プランがガラリと変わる。ぼくが観た上演1日目はA→B、2日目はB→Aの順で上演されるということだったが、たぶん観る順番としては、2日目のほうがすんなり上演を受け取れる気がした。

ABバージョンは、「妻」役の松本麻衣子さんと凪子さんそれぞれの個性を存分に活かす方向にアレンジされたものだと感じたが、Bバージョンのほうが、観客としては物語を素直に受け取れると思った。その理由は、妻役の2人の違いというよりも、主人公である「兄」の性格によるところが大きい。「兄」は、カリスマの化身である「弟」の存在によって、性格をこじらせているのだけど、そのこじらせ方がBバージョンのほうが素直で、それに伴って演出プラン、引いては劇の構造がよりシンプルだった。対してAバージョンは、「兄」が二重にこじらせたような性格であるのに呼応して、劇構造も微妙にねじれ、そこに相まって、「妻」松本麻衣子さんの演技がいつも観客に想起させる、内宇宙感(と呼んでみる)が加わり、物語がドライブ感をもって疾走してゆく。終盤はまさにカオスだ。必然的に、劇は妻(というよりは松本麻衣子さん)に収斂されて幕を閉じる。

一方、Bバージョンでぼくが特筆しときたいと思ったのは、もう一人の「妻」役、凪子さんの声について。声は、なんにもない空間に病みがたく色をつけるし、技術やテクニックでは替えられない、それでなければならない、みたいな、そういう声があるよな、とか、劇が求める声みたいなものがあるよな、とか、そんなことを考えながら観ていた。

さらに、両バージョンを通して今回、特異点として存在していた俳優。初見の中村朋世さんについて。カリスマの化身という、かなり無茶ぶりに近い「弟」役に、ちゃんとリアリティを持たせるその存在感は圧巻だった。常人を超えた感触を観客にもたらす、という意味では、ぼくが知るかぎり九州では類を見ないんじゃないか。いや、あと一人ぼくが知ってるのは、ぜんぜん方向性は違うけど、非・売れ線系ビーナスのケニーくらい。そういえば、所々しぐさや動きに、ケニーとの類似性が見られた気もする。全然方向性は違うのに。

最後に、男性陣について。
村山さんは、もともとはあんなに個性的な俳優なのに、今回こんなに存在感を消せるんだとちょっと驚いた。スパイス的な存在感が面白かった。あとギターがうまいのにはふつうに驚いた。
もう一人。岡ちゃっぷりんって、ふざけた名前だなとぼくは正直思うけど、主演しながら同時にこの2つの演出プランを成立させたのは、やっぱりちょっとすごいと思った。変態的だなと思った。名前だけはやっぱふざけてると思うけど。岡ちゃっぷりん。

岡ちゃっぷりんて。


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