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電波交通整理のボランティア

 先日、手旗を使って都市上空の電波の交通整理をされているボランティアの方にお話を伺う機会があった。初老にさしかかるくらいの物静かな男性。路上のパイプ椅子に座って、手旗をぱたぱた忙しなく振りながら「やっぱ3Gの時代は良かったね…」としみじみ遠い目をされていたのが印象的だった。

 その方がおっしゃるには、「5Gはちょっと従順なところがあるからまだいいけど、4Gは本当にサイアク。電波じゃなきゃ殴り殺してる」とのことだった。よく見ると男性には前歯が無かった。「すみやかに5Gに移行するのが全人類の地球にたいする義務だ」と男性はまくしたてた。

「ちなみに君のスマホは? 5G?」
 そうふいに尋ねられて、ぼくは丁重に礼を述べ、あわててその場を離れた。ぼくが通りの角を曲がる瞬間まで、その人は、相変わらず手旗をぱたぱたさせながら、ひどく穏やかそうな目で、じっとぼくの姿を見守っていた。空には無軌道な電波が無数の引っかき傷をつくっていた。


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