おびくろのす第1回公演『うろんなひえろにむす』観劇@tsukimi

 20代の3人の役者によるカフェ公演――という字面だけを見ると、なんとなく、フワッフワの生クリームの乗ったパンケーキみたいな作品をぼくは想像したりするのだけれど、出てくるのはがっつりニンニクの効いた二郎系ラーメンみたいな作品。いや、どっちも「どんな作品だよ」と突っ込まれてもうまく答えられないけど、まあ、ニュアンスでそんな感じ。

 基本的には濃厚な会話劇(ニンニクたっぷりの)。要所要所に笑いを孕んだ会話で魅せながらも、3人の関係が危うく変化していくという、会話劇として王道の面白さで物語が牽引されていく。ただその会話の中身が強烈で、3人のうちの一人「マメコ」を中心として、会話が進むにつれて人間としての性(さが)が暴かれていくようなヒリヒリした感触がある。

 公演企画として面白いのは、今回「A公演」と「B公演」とがあって、2人の女優がそれぞれ「マメコ」「ヒジリ」という役を上演のたびにチェンジするという点。で、A公演では、それぞれの女優本人がイメージモデルとなった役(つまり当て書きに近い感じか)を、そのまま本人が演じるのに対して、B公演では女優が自分とはまったく異なるタイプの人間を演じることになる。

 ふつうに考えると、A公演は直球勝負、B公演はそこになんらかの趣向を加えた変化球――みたいな感じになるのかな、と思っていたんだけれど、ふたを開けてみると、少なくともぼくにとっては、B公演のほうが2人の女優どちらとも役をモノにしていたように見えた。とてもシックリとその場に居た。これを見て、ちょっと、「じゃあ当て書きって何だろう」と考えこんでしまった。

 作品について言うと、ぼくはこれはかなり完成度の高い会話劇だと思った。ただ、だからこそ、途中で何か所か入る、時空を異質化する演出(照明やノイズとしての身振り)は、むしろ無いほうがいい――というより無いほうが好み――だと思った。会話の進展だけで十分「濃い」のに、さらにいろんなモノを増し増しにしてくる感じ。二郎系、のイメージはここからきている。まあもちろん、それがあるからこそラストの、力場の暴走みたいな、よく分からない熱が生まれるのでもあって、だから結局ここは好みの問題。

 役者については、先にも書いたように、ぼくはB公演の演技を推す。マメコ(吉岡愛子さん)は過剰ではあるものの、一つ一つの動きや間や喋り方で観客をしっかり絡めとっていく気持ちよさがあるし、ヒジリ(中村百合花さん)はとても愛らしかった。愛らしいまま、本人の言動は終始変わらないのに観客からの見え方・印象は後半になるにつれどんどん変わっていく、みたいなところがとてもよく効いていた。そしてハジメ(草太郎さん)は、あるトラウマを抱えているせいで本質的には不安定な人物を演じつつも、劇の構成要素としては、バランサーとして会話ないし劇のテンポをコントロールするという役割を果たすために、どこでどのくらい感情を発露させるか、みたいなかなり繊細なことをこなしていたように見えた。どうしてもマメコの特異性が目立つ脚本だけども、実際の公演の出来不出来は、たぶんハジメの力量によるところが大きいんだろうなと思った。

 そういう意味では、3人ともとても良かったと思う。今回、おびくろのす「第1回公演」ということなので、第2回、第3回と続いていく姿を見ていきたいな、と思った。

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