見出し画像

劇作に向けた龍潭譚の分析(6)

第6章 五位鷺

大沼で気を失った少年は、その夜、「うつくしき女」の屋敷で目を覚ます。現実世界から乖離した彼は、すでに異界に足を踏み入れてしまった。ぼんやり目を開けると、庭で水浴びをしている女の姿が見える。そこで強調されるのは、一糸まとわぬ女の白い肌と、流れる水のイメージ、そして真白き鳥(五位鷺)だ。夜の暗がりとロウソクの揺れる火影は、これらの「白のイメージ」をより強調するために使われる。

少年は、うつくしき女にたいして「知人にはあらざれど、はじめて逢ひし方とは思わはれず」との印象をもつ。後の章で分かるが、少年は3年前に母親を亡くしている。おそらくその母の面影を女に見たのだろう。

一方、女は、少年が毒虫に刺されたこと、またそのせいで姉に人違いされてしまったことを知っている。陰からずっと彼を見守っていたのだ。しかし、では、このうつくしき女が少年に目をつけたのはいつからだろうか? 鎮守の杜で少年がかくれあそびに興じていたときから? 毒虫を追って蹴飛ばした砂利が谷に落ちたときから? それとも、真昼に少年が躑躅ヶ丘をさまよっていたとき?

「もう、風邪を引かないやうに寝させてあげよう、どれそんなら私も」
と、うつくしき女は静かに雨戸をひく。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?