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不思議少年『地球ブルース』観劇@早川倉庫

 【※ネタばれ注意※】
 熊本公演初日に観劇。とてもいい不思議少年だった。
 ぼくが不思議少年の公演をガッツリ観るのは、たしか『東京ジャングル』『棘』以来なんだけど、その2作は人間のドロドロした部分を描こうとして作風がダークなほうに寄っていた。それに比べて今作は、不思議少年本来のポップさが作品に戻ってきて、結果、とてもいい不思議少年になっていた。

 言うまでもないことだけど、不思議少年にはすでにファンがいる。そして、以前からの不思議少年ファンにとっても、これからのファンにとっても、不思議少年が「とてもいい不思議少年」であることは、とてもいいことだとぼくは思っている。

 まず役者がよかった。森岡さんの巧さは「芸」の域に達していると感じたし、コメディエンヌとして得難い存在だと思った。ちょっと観劇中、数十年後に森岡さんが白石加代子みたいになってる未来がふっと見えた。大迫くんは、むかしはもっと好青年を着こんでいたのに、なんか年々うさん臭くなってるなあと思った。もっともっと、うさん臭くなればいいと思う。客演のオニムラさんは、今回けっこうやりやすかったんじゃないかな、と勝手に感じた。ことばの質感が、けっこう劇団きららと似ているから。でも、そのことばの質感が「不思議少年風味」になったとき、きららでは観たことない顔のオニムラさんが出てくるのが面白かった。
 磯田渉くん。数年前、劇団きららの『ぼくの、おばさん』で観たときには、正直、演じ手としてまだしっくりいってないなと感じた。でもその2年後の『はたらいたさるの話』では、めざましく良くなっていて驚いた。で、今回。ぼくは観劇中、渉くんが今後、不思議少年の正統派の看板俳優になる気配を感じた。なんか、ちょっとだけ男前だし。

 脚本について。ぼくは大迫君が書いたものについて、まともに何か言おうとすると、嫉妬も混じって辛口になってしまう。それを踏まえて今作の感想を言うと、全体としては良かったと思う。具体的に何が良かったかというと、一番は「とてもいい不思議少年」だったこと(しつこいけど)。そして声を出して笑えたこと。この二つは単純だけども、とても重要なことだとぼくは思う。
 それから中盤で、森岡さんとオニムラさんの人格と感情とが重なったとき、離れた場所に座ってる彼女たちが、透明な空気の帯でつながってるみたいに見えた場面があった。あのシーンはとても良かった。
 ただ、全体の構成はあんまりいいとは思わなかった。バランスが。最初の引っ掛かりは、「ごっこ遊び」からSF寸劇が挿入されるくだり。シーンの移行自体はスムーズだし、ぼくを含め観客も楽しんでたし、あれが一定の効果を上げているのは分かるんだけれど、全体から見ると、観客の集中を本筋からむだに逸らしてしまってるんじゃないかと思った。
あと、コウジの過去への遡行。これも、やりたいことは分かる。脚本の構造上、あの着地点(ラスト)に向けたストーリーラインとしては、ベストの選択だった気もする。でも、少なくともぼくが観客として、中盤まで観てきたフミの過去への遡行のあと(あの暗転が明けたあと)、「観たい」と願ったものはそれじゃなかった。たぶん観客の生理は、違うものを望んでいたと直感的に思っている。

 まあでもそれはともかく、不思議少年の今後の活動。ファンが増えるにつれて期待もあるだろうし、いろいろ大変だと思うけれど、一ファンの勝手な感想として思うのは、「早く次のが観たい」に尽きる。
 どう考えても気が早すぎるけど、第14回公演が、今から楽しみ。

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