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9月22日 生きていくことそのものの虚しさに対抗するには

9月某日
QPLOというバンドをやってるRioくんと吉祥寺で呑む。QPLOは二人組のファンキーなディスコ/ダンスミュージックのチームで、なんとなくインスタのビジュアルが良くて曲を聴かずにフォローしてたけど、本人とたまたま会う機会があり、ちゃんと曲も聴いておこうと思って聴いてみたら、カッコ良かった。スカした感じというかクールにまとまってる音楽じゃなく、リフで聴かせるタイプのギターやソウルフルな声ネタが、ビッグビート的なキャッチーさになってて、めちゃ丁度いい塩梅でセンスフル。大沢伸一やキャプテン・ファンクなど往年のJ-Clubや南米の音楽の話などで盛り上がり、近くDJイベントなどやろうという話に。




9月某日
先日、梶くんと会った時に「LiveのSimplerに既存の曲をまるごとぶち込んでSliceで展開を作る……みたいな手法でコラージュっぽい曲は作ってる」という話を聞き、気になったのでやってみる。それもKORG KARMAのKARMA機能(自動でメロディーを生成する、という触れ込みだけど、20年前の機材なのでAIの時代にそれに触れると「いろいろパラメータが作り込めるアルペジエーター」という感じ。もちろんそれが絶妙でイイんですが)と繋いで、自動再生メロディーをMIDIとして送り込むと、何パターンかいろいろ組み合わせ試すと、いい感じに予測不能ながら整合性のあるカットアップになって面白かった。その内これでまた曲作ろう……いや「その内」はもう人生にやってこない気がする。「これはいずれ時間できたら読もう(観よう)」みたいによく思ってたけど、年々「そんな余裕もう無くない?」という実感がある。忙しいのもそうだし、集中して作業に取り組める時間というのは人生の中でかなり短い。「その内」じゃなく「今日やれ今やれすぐにやれ」と覚悟決めた方がいいんだろうなと思う何事も……まあかと言ってそれでサクサク何でも決められるかというとそうでもなく、ウダウダしてる時間も長いんですけど。



9月某日渋谷のタワーレコードでアナ・フランゴ・エレクトリコとドーラ・モレレンバウムのインストア・ライブがあると当日知り、急きょ渋谷へ。アナ・フランゴ~はブラジルの97年生まれのシンガーソングライターで、昨年リリースされたアルバムはディスコ~ブギー風な作りでこれもまた素晴らしい。ドーラはバーラ・デセージョというこれもまたブラジルの新世代を牽引するバンドの一員で、アナのアルバムにも参加しているのと、この人はあのモレレンバウム夫妻の娘さんでもある。途中でたまたま渋谷にいた黒眼鏡Gと合流し、タワレコに。


最初にまずドーラがギター/マルチ奏者のギリェルメ・リリオとともに登場。ギリェルメがSP404でフィンガードラムのバッキング、PAトラブルかノイズも出ていたが、滔々と歌われるボサノヴァに急にフィードバックっぽいう音が入ったりして、アート・リンゼイみたいになって面白かった。そしてアナ・フランゴ。素朴なキャラクターながら歌い出すと空気がピリッと変わる歌声。これもSPから出してる?というようなアタック感の「声ネタ」みたいな発声で短いシャウトを連発していてそれも面白かった。最後は3人で"Electric Fish"を演奏。多幸感溢れる素晴らしいステージング。無料でこんなにガッツリ観れていいの?という満足感で、うるさ型のGも納得の内容。渋谷で中華居酒屋に寄ったが、Gが頼んだ中華おこげが辛すぎてびびった。



9月某日
作業効率化のために、前々から興味のあったChatGPTに課金。画像からのテキスト化→リストアップ(DJの選曲とかね)とか、文章の添削とかで使うぞ~と思ってた矢先、DALL-EというAIでイラストやCGの生成も出来るので、ちょっと触りだしたら、案の定めちゃくちゃ楽しくなってしまう。食品まつりさんがいろんなシュールな内容のピクセルアート(レトロゲームのドット絵っぽいやつ)をツイッターに投稿しているのが面白くて、それをマネしていろいろピクセルアートで作ってみる。ああ楽しい……。仕事は遅々として進まず、遊んでしまう。

9月某日
中古販売サイトを見ていたら、前から気になってた機材が相場の3分の1の価格で売られていた。これは!と色めき立つも、店頭販売のみで配送はしていないとのこと(引越し業者のリサイクル部門みたいな変則的な店らしい)。場所は千葉の東金……ってどこ?四国から上京して3ヶ月の人間に関東の土地勘は全くありません。調べると千葉の東部で、往復なんやかや4時間くらい。行きました。しかし八重洲からの行きのバスが定刻より遅れまくり、走って閉店のギリギリに店に駆け込み、汗だくでよくわからん機械を買いに来た(これはどういう機械なんですか?と言われた)かなり不思議な客になってしまった。


そして千葉東部だから、銚子直送!というのぼりの回転寿司が目に入る。銚子と言えば菊地成孔氏の故郷、先日の谷王の八戸に続き、ジャズドミュニスターズのフッド巡りのような気分に。入りましたよ寿司屋。冷静に考えれば安く機材を買っただけで何の仕事もしていないのに、移動の疲労感を何かの達成感と取り違えることに成功し、バクバク食べた。横の席(カウンター)が、葬式帰りと思しき喪服の中年女性二人組で、会話もなく黙々と食べていて「ナイトホークス」のようでたまらなくクールだった。店も国道沿いの殺風景な立地だし。知らない校外の土地の国道を夜歩くの虚しくてたまんないね。生きていくことそのものの虚しさに対抗するには、自分から進んで虚しくなること。むなし我リヤ。






9月某日
中谷美紀「汚れた脚」を繰り返し繰り返し聴いてる。『食物連鎖』は中谷美紀のアルバムでもジャケット含めとりわけ好きな一枚で、定期的に聴き返したくなるけど、急にこの一曲がぐっと来てしまった。トリップホップ風のアレンジもいいし、Bメロ(なのか?不思議な曲構成)に入った時のコードの浮遊感とか全部素晴らしいんだけど、歌詞も凄い。曲はもちろん坂本龍一、作詞は『砂の果実』など他の曲と同じく売野雅勇が手掛けていて、氏の得意とする、儚く耽美的な、過ぎ去ってしまった少年時代の追想と感傷……という世界観。全部引用するとマズそうなんで、とりわけグッとくる部分だけ書き出すと「白い夏服着た笑顔たちの透明な悲しみが並ぶ写真」「あれが最後の本当の恋と 消えてゆく内気さの欠片で知る」「いつかどこかで君を見かけても 恥じらわず立ち止まる汚れた脚」あー、素晴らしい。こういう、自分の経験に無いとこを刺してくるノスタルジーが一番、喪失感ある。だって最初から無いから。


自分はこういう「少年時代/儚い系」が昔から好きで、古典的な少女マンガのそういうジャンル(萩尾望都とかね)は一通り読んだし、『エヴァ』もカヲルくんの出てくるエピソードが好きだった。積極的にフォローしたり検索することはないけど、絵が上手くてそういう世界観を描いてるBL系の絵描きの人がたまたまTLなどで出てくると、かなり遡って見たりもする。近年だとやっぱり『宝石の国』はハマって、漫画アプリで続きが気になってガンガン課金しまくって読み進めた。

で、一方で、世に溢れる「青春(アオハル)」っぽいイメージ消費はほぼほぼ苦手なんですよ。女子高生が青空を背景に全速力でダッシュしてるCMとか、ナンバーガールの曲名が章タイトルになってる軽音部マンガとか(具体的にそういうCMとかマンガがある訳ではなく、何となく「ありそう」っていうか多分あると思うんですけど、いっぱい、そういうの)。

でも実はそういう「キラキラアオハル☆」みたいなものを忌避してるけど、結局「キラキラアオハル☆」をものすごく濃縮還元したものが、自分の好きな「少年時代/儚い系」なのかなーとふと思いました。例えば『汚れた脚』と同時期の売野雅勇/坂本龍一ワークスでGEISHA GIRLSの『少年』という曲とかになると『汚れた脚』と同じものをもっと分かりやすく「青春」っぽく描いてるなーと。

9月某日
自分のライブの練習のために吉祥寺のリハスタへ。予約も取りやすく、別に何の不満もないのですが、自分のような「数台のシンセやサンプラーを使ってライブ」というスタイルの人間がスタジオに行った時に直面するのがテーブル問題。まあキーボードスタンドは大概のスタジオに備品としてあるから、スタンドにケースを乗せてその上に機材を置くのが無難ですが、微妙にスペースが足らない時が多いですね。ちょっとした折りたたみ机みたいなのがあるスタジオが一番ありがたいのですが、サイトを見ても常設してるアンプやミキサーの機種名はリストアップしている所でも、机があるか無いかまではさすがに書いてないですね。というか大体ないです。結局これも折りたたみ式のを自分で持ち運びするしかないのか。Livetrak L-8とSP-404mk2を繋いでエフェクトの加減など見つつ、適当に音出しして帰宅。

東京に滞在していたimdkmさんと急きょ合流し、夕方の渋谷で茶。何となく誘ったが、imdkmさんとサシでちゃんと喋るのって初めてかも知れない。しかし話題は尽きることなく盛り上がり、まあ私が一方的に喋ってたかも知れないけど、水面下の仕事の近況やフリーランスのブルースなどが切々と語られた。いろいろな自伝本の話題から「ミュージシャンの自伝を紹介する連載があったら面白いかも知れないですね」と言っていたのが印象に残った。



9月某日
朝から電車で都内某所、用事ありトーフさんのスタジオへ。もろもろ用件済ませた後、出前でチャーハンを取ってもらってご馳走になり、デザートに岡山エビスヤプロから送られてきたというブドウを二人で食いまくる。機材が積まれたラックにTB-303クローン系のシンセがいろいろ並んでいるのを触らせて貰う。油と果汁でベトベトの指でひねったアシッド・サウンドは粘りが違う。トーフさんがライブで愛用しているErica Synths BASSLINE DB-01も触らせて貰ったが、時間を忘れる楽しさ。自分のライブでアシッドベース鳴らす用のVolca nubassと、飛び道具的な用途でMoog DFAMを使おうと思っていたけど、これ一台あれば事足りるな~と思った。その後YouTube観ながらエクスペリメンタル~南米~いろいろ最近聴いた音楽の情報交換。ダラダラと部室にいるような時間で楽しかった。帰途、デザイン系の仕事で使えるかもと、新宿の世界堂でカリグラフィーペンを購入。


一旦帰宅のち、夜は渋谷wombへ。womb loungeでQPLO、Milk Talkの出演するイベントがあり、観に行く。QPLOは初めてライブを観たが、ノンストップでひたすらトラックをDJミックス+ギターという構成。曲の構成上ギターを弾かない時間はSomeyaがひたすらニヤニヤしているのが印象に残った。というか上手側だとラップトップで覆われてRioくんが全く見えない。トラックメイカーのライブのラップトップ遮り問題。これはどんな大物プロデューサーにもあると聞きます。Milk Talkは半年ぶり?2月に私企画で香川でライブしてもらったのです。De De Mouseとの新曲などもセットリスト(この言葉がしばらく思い出せず「レパートリー」と書いていて、なんか古いな……別の言葉があった気がするが……と5分くらい留まった)に加わり、ますます素晴らしい仕上がりに。Q.i氏今宵はY2Kパンク・ギャルっぽい衣装で美しく……妖しく……可憐に……そういえばHair Kidともラップトップ演者遮り問題については以前話した気がする。各バンド30分づつで9時には終わるタイムテーブルが絶妙でありがたい。朝から帰りの電車まで楽しい充実の一日。




9月某日
レクサスさんと会議という名の雑談。レクサス小鉄でとりあえずサクッと勢いで作った2曲をリリースしたものの、今後どうするかを打ち合わせ。今回は自分もラップして、プレスにもキャッチコピーぽく「中央線はぐれラッパー二人組」 みたいなことを書いてたが、見せ方としてレクサスさんを前に出して自分はもうちょっとトラックメーカー然とした方がいいのかも知れないなどと話す。



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